2024.01.29

CARS

S2000に巨大ウイングを標準装備したタイプSは、どんなホンダ・スポーツだったのか? 絶品のシフト・フィール!【『エンジン』蔵出しシリーズ/ホンダ篇】

雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回は日本車のS2000を取り上げる。デビューから8年を経たS2000最後の(?)マイナー・チェンジを機に加わった、走りに磨き上げた新グレード、タイプSの2008年2月号の記事をお届けする。


ひょっとするとS2000のファイナル・バージョン


10月25日、ホンダ唯一のFRオープン・スポーツ、S2000がマイナー・チェンジを受けた。初の大がかりな機械的変更が施され、エンジン排気量が2リッターから2.2リッターに変更されてから2年。今回はあくまで安全性と快適性を向上させる軽微な改変にとどまっている。すなわち、全タイプに自動車両安定装置VSAとヘッド・レスト後方のサテライト・スピーカーを標準装備し、新デザインのアルミ・ホイールが採用された。

タイプSの最大の特徴は、これでもかと言わんばかりに存在を主張するエアロパーツ。フロントの低い位置に取り付けられたスポイラーはエラのように大きく張り出し、リアには中央が上に抉れた独特の形状を持つウイングが高くそびえ立つ。これらは見かけ倒しではなく、ダウンフォース獲得に貢献し、高速走行時の直進安定性向上に大いに役立っているという。これでノーマル比10しか増えていないのは、スペア・タイヤを廃止するなど軽量化に努めたおかげ。


と、そこまではまあ、どうでもいいような話なのだが、気になるのは、今回のマイチェンを機に、走り重視で空力や足回りなどを磨き上げた新グレード、タイプSが加わったことだ。ひょっとするとS2000のファイナル・バージョンになるかも知れないこの走り屋仕様S2000の試乗車を借り出して、都内から箱根までひとっ走りしてきた。

それにしても、メーカー純正でこれほど派手なエアロ・パーツをまとったクルマはかつてなかったのではないか。まるでラッセル車みたいなフロント・スポイラーも迫力モノだけれど、思わず笑っちゃうくらい派手にそびえ立ったリア・ウイングはもっと凄い。見るからにバリバリの走り屋仕様という感じだ。

足回りもチューニングされているというから、これは相当に覚悟してかからなければ、と構えて乗って走り始めた途端、アレッ、これはちょっと想像と違うゾ、と肩すかしをくらわされた。硬すぎず、柔らかすぎず、絶妙の味付けを施された足回りが、まるでポルシェ・ボクスターみたいな感触で、スポーツカーとして最高にいい出来映えであることを予感させたからだ。減衰力もバネレートもスタビライザーも硬めに振ってあるが、決して不快な硬さではない。たとえば、首都高3号線の目地段差では、最初にドンと突き上げが来るが、ダンピングがしっかりしているから一発で止まる。


直進安定性は抜群

2.2リッター直4のエンジン音はかなり大きめで、ゴーッという騒音がコクピット内に容赦なく入ってくる。残念ながら、あまり気持ちいい音ではない。アメリカ向けのトルク重視のエンジンになり、ストロークを長くして排気量が拡大された時に回す楽しみはやや薄まったが、それでもまだ8000回転までしっかり回るのは、さすがホンダ。ただし、回して楽しむより、太くなった中速トルクを使って走るのが気持ちいいタイプで、その点、高速クルージングには最適である。

内装での違いは専用アルミ・シフトノブとファブリック&アルカンタラの専用シート。ただし、試乗車のシートはオプションの本革だった。

エアロパーツは見かけだけではなく、しっかりと威力を発揮しているようで、速度を上げるほどに路面に吸いつくように走る。直進安定性は抜群で、重厚ともいえる安定感さえ感じるほどだ。

だが、このタイプSで一番素晴らしいと思ったのは、6段MTのシフト・フィールだ。そもそも、ストローク短く、カチッカチッと決まるS2000のシフト・フィールは特筆モノだったが、それをさらにショート・ストローク化して、少し重さを加えたタイプSのそれは“絶品”といっていい部類に入る。アルミ削り出しのボール型シフト・ノブは、冬の寒い日の運転し始めにはちょっと冷たいが、微妙な感触まで手のひらにダイレクトに伝えてくれるのがウレシイ。ギア比は低めで、6速100/hの回転数は3300rpmくらい。

2.2リッター直4DOHCエンジンは、最高出力=242ps/7000rpm、最大トルク=22.5kgm/6500-7000rpm。6段MTを介して後輪を駆動する。


箱根に到着し、峠道を走り始めると、ハンドリングもこれまでよりシャープな切れ味にチューニングされていた。ステアリングを切り込んでいくと、最初にキュッとノーズが内に入って、そのあとロールしながらグーッと曲がっていく。切り始めはシャープなのに、リアが安定していて、曲がりすぎない、安心感のあるハンドリングが特徴的だ。もう少しお尻が出る設定でもいいような気もするが、その辺の味付けにこのクルマの性格づけが現れているように思った。

こいつは見かけほどワルじゃない。峠族でもドリフト族でもない、落ち着いた大人の走り屋のためのスポーツカーなのだ。そこに良さも物足りなさもある。

文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦



(ENGINE2008年2月号) 

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