2024.02.04

CARS

6.2リッターV8、457馬力のモンスター C63AMGはどんなベンツだったのか?「酸いも甘いも苦いも噛み分けた大人のクルマだ」【『エンジン』蔵出しシリーズ/メルセデス・ベンツ篇】

メルセデス・ベンツC63AMG(2008年)

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中古車バイヤーズガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回は、AMG専用6.2リッターV8を搭載したCクラスを取り上げた2008年7月号の記事をお届けする。最高性能モデルでありながら最高の快適性を持つメルセデス、とメーカーが位置づけるCクラスは、ドライバーになにを訴えたのか?

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「457psの怪物サルーン、ほえる!! メルセデス・ベンツのミニ・ゴジラ、C63AMG、本土上陸!」ENGINE 2008年7月号

駐車場にたたずむC63AMGを目の当たりにすると、オオッとのけぞりたくなる。そのクルマ、凶暴につき、なたたずまい。目はらんらんと輝き、口は牙をむいていて、額には角が生えている。これは鬼の顔だ。単に自分が速く走るためではなくて、まわりをコワがらせることによって速く走ろうとしているようなカタチ。自動車がそもそも持っている側面のひとつを劇画チックに強調しているのがAMGである。

F1ノーズのフロント・エアダム、大きく張り出した前後フェンダーは鬼の顔みたい。


C63の心臓は、メルセデスAMGが初めてゼロから設計した、AMG専用にして主力ユニットの6.3リッターV8。排気量6208ccだから本当は6.2リッター。なのにAMGが1971年のスパ24時間レースで総合2位、クラス優勝を遂げて一躍名をあげた300SEL6.3にちなんで、6.3リッターを自称する。伝説の300SEL6.3はAMGの手により、じつは6.8リッターに拡大されていたことを君知るや。うんちくはさておき、スターターをひねる。バフォンッ! という爆裂音と共に直径10cmもある巨大なシリンダー8本からなるV型エンジンがドコドコ、アイドリングを開始する。スゴイ……。

457psのV8搭載に備えて、C63AMGのフロント・アクスルは新設計されている。トレッドをノーマル比35mm拡大してコーナリング時にホイールにかかる負担を軽減する一方、アクスル・キャリアの剛性を100%、ということは2倍に高めてステアリングの精度を改善しているというのだ。ちなみに、日本仕様のフツウのCクラスで最高性能を誇るC300の3リッターV6で最大トルクは30.6kgm。C63AMGの6.2リッターV8は同61.2kgmだから、トルクはきっかり2倍ある。

新デザインのAMGパフォーマンス・ステアリングホイールとヘッドレスト一体型AMGスポーツ・シート。


最高出力は457ps。同じAMG6.2リッターV8は、CLK63に積まれると481ps、CL63だと525psを発揮する。C63AMGはもちろん怪獣サルーンではあるけれど、どデカイ排気量のエンジンをドカンと積んだぜ! というプリミティブな怪獣ではなくて、ま、いまどきそういう楽観的な怪獣もいませんが、緻密なチューニングを施された知的なゴジラなのである。

車速感応式AMGスポーツ・ステアリング・ギア比は13.5対1で、ギア比そのものはノーマルのCクラスと変わらないけれど、ステアリングの手ごたえが違う。ドライバーはおのずと骨太な印象を受ける。ステアリングホイールそのものも下部がフラットになった形状で、スポーツ・ムードを高めている。

シート表皮はナッパ・レザーが標準。



強く生きよ

走り出すと、低速でドタドタする。テスト車はオプションの19インチ・タイヤを履いている。標準は18インチである。おまけにテスト車は不幸なことにタイヤが片減りしている。そういうバッド・コンディションでありながら、高速道路にあがると、厚みのあるシートの恩恵もあってなかなか快適。標準の18インチだったら、驚愕モノだったのかもしれない。100km/h巡航はトップでわずか1600rpm。7段ATの恩恵もあって、6.2リッターV8はじつに静かで滑らかに回っている。フツウに走っているときのマナーは、フツウのメルセデスと変わらない。457psのモンスターであることを忘れる。じつはやさしい怪物なのだ。

私は箱根を目指す。山道で後ろにつくと、前のクルマはたいてい道を譲ってくれる。譲ってもらえない場合は、アクセルを深々と踏み込む。ズデデデデデッと6.2リッターV8がドラムを叩く。アメリカンV8っぽい、豪放磊落なくぐもったサウンド。私は高回転まで回すと浮世を忘れて幽体離脱しちゃうがごとき高周波のエンジン・ミュージックが好きだが、こいつは違う。浪曲師みたいに声質がしゃがれていてシブい。でもって、ニヒルに構えつつ、じつは嬉々として浪曲を歌うがごとくにブッ飛んでいく。車重は1810kgもある。前後重量配分は54:46のフロント・ヘビーだが、前が重過ぎる気配はない。どっしりとした重みと安定感はある。浮世に憂きことはある。清濁併せ呑め、強く生きよ、とばかりにズデデデデデデッと加速する。酸いも甘いも苦いも噛み分けた、大人のクルマなのである。やっぱし。

文=今尾直樹(ENGINE編集部) 写真=小林俊樹

空力付加物により、全長はノーマルのCクラスより135mmも長く、25mm幅広く、5mmだけ低い。最低地上高は35mm低められている。
■メルセデス・ベンツC63AMG
駆動方式 FR(後輪駆動)
全長×全幅×全高 4720×1795×1440mm
ホイールベース  2765mm
車両重量 1810kg
エンジン形式 V型8気筒DOHC
排気量  6208cc
ボア×ストローク 102.2×94.6mm
最高出力 457ps/6800rpm
最大トルク 61.2kgm/5000rpm
トランスミッション 7段オートマチック
サスペンション 前 マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション 後 マルチリンク/コイル
ブレーキ前後 通気式ディスク
タイヤ・サイズ  前235/35R19 後255/30R19
価格 1020万円

(ENGINE2008年7月号)

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