東京・銀座と大阪・梅田に店舗を構え、全国の百貨店でも売場を展開する「日新堂」は2023年で創業131年。まさしく老舗の時計店である。その日新堂が次世代に向け、新たな躍動を始めた。時計ファンには見逃せない、その中身とは?
日本の時計文化を牽引する「日新堂 銀座本店」
日新堂の中枢である銀座本店は銀座の目抜き通りに面した6フロア構成の建物で、1階はカウンターを設えたエントランス。ガラスの扉を抜けて中に入ると、複数の什器に展示された折々の注目モデルが目に飛び込んでくる。上階で繰り広げられる、めくるめく高級時計の世界の一端が早くも来訪者を魅了するのだ。しかしながら、ともすれば一糸乱れぬ格式の高さに身を硬くし、奥のエレベーターに進むのをためらう人も、あるいはいるかもしれない……。ショップマネージャーの渡辺さんはこう話す。
「日新堂は国内外の高級時計を中心に扱う時計店ではありますが、だからといって特別に意識していただく必要はありません。スタッフは皆熱心な時計ファンでもあり、お客様と話すのを楽しみにしているんです」
銀座本店は2階と3階でパテック フィリップ、4階と5階でヴァシュロン・コンスタンタン、6階でグランドセイコーやシチズンなどの国産ブランドを展開。取り扱いブランドの幅をむやみに広げるのではなく、舶来と国産、それぞれの最高峰に絞り込む独自のコンセプトを貫いている。そんなフロアを巡りながら、スタッフと様々な会話を交わすのがこの店の楽しみのひとつなのだ。
<日新堂 銀座本店のおすすめモデル>
パテック フィリップ コンプリケーション5172G-010
「特許を取得した6つの技術革新を用いた手巻き式のクロノグラフ・キャリバー、Cal.29-535 PSを搭載し、サファイアクリスタルのケースバックからその精緻な動きを見て楽しむことができます。ローズゴールドメッキのオパーリン文字盤はヴィンテージ感を演出し、悠久の歴史を誇るパテック フィリップの世界観が感じられる1本です」。1248万5000円。
パテック フィリップ ゴンドーロ・セラータ 4962/200R-001
「スクエアシェイプを用いた独自のデザインがエレガンスを醸すゴンドーロ・セラータの新作は、以前のWGモデルからわずかにサイズアップしたローズゴールドケースを採用。94個のブリリアントカット・スペサルタイトを、コニャックとマンダリン・オレンジのダブルカラーグラデーションであしらい、華やかな印象が増しました」。607万2000円。
アットホーム、というとやや通俗的な響きがあるかもしれないが、この店では真心にあふれ、かつ洗練された気の置けなさが大きな魅力となっている。その魅力は一朝一夕に培われたものではなく、創業以来、130年以上にわたる努力の賜物だ。その日新堂が今、さらなる一歩を踏み出そうとしている。
「時計を取り巻く環境は近年、劇的に変容しつつあります。インターネットの普及で若い方がパテック フィリップやグランドセイコーなどに関心をもたれるケースが増え、弊店を気にかけてくださるようになりました。また弊店は親から子、子から孫へと世代を超えたお付き合いのお客様も多く、時計を新たにお求めいただく方の層が変わりつつあります。こうした変化に対し、時計店の方でも新たな需要に寄り添う、よりわかりやすく、誰もが心理的にアクセスしやすいアイコンやイメージの確立が必要と考えました」
その具体的なベースとなるのが、ロゴとコーポレートカラーだ。ロゴは、従来の毛筆調のクラシカルな書体から、直線を生かしたモダンなゴシック調に進化。各店舗ですでに導入されている。コーポレートカラーは深みのある紺となった。
「イメージカラーはこれまでもその時々で存在し、紫だったり、紺の時代もあったのですが、恒久的なカラーを決め、徹底していくことになりました。まずはロゴとカラーで新時代の日新堂の姿を明確に定め、お客様に認知していただくことが、お客様と長く、真摯に向き合うという弊社の理念に適うと考えたのです」
紺といっても色調は無限にある。多くの候補の中から議論を重ねて選び抜いたその色はとりわけ濃く、黒に近い紺。格式と誠実さ、そして親しみやすさなど、日新堂の魅力を総括し、雄弁に語る特別な紺だ。
「すでにショッパーや包装紙、ご購入いただいた時計にお付けするクリーニングクロスなどでこの色を導入しており、ご好評をいただいています」と渡辺さん。ゆくゆくはこの色を内装の一部に用いたり、同色でスタッフ用のスーツを作ったりすることができれば、とも考えているという。渡辺さんは「ご来店の際、これまで以上に、日新堂の世界観を楽しんでいただければこんなに嬉しいことはありません」と意気込みを見せる。
装いを新たに歩み始めた日新堂。だがこれは、安易なリニューアルの類にあらず。高級時計の愛好家だけでなく初心者にもきちんと門戸を広げ、本人と一緒にライフスタイルに合う一生モノの時計を考え、購入後もずっと付き合うという不変のポリシーに触れてもらうための、まさに“一流の接客”そのものである。
「100年先にも日新堂が皆様に愛される存在であるよう、本質を守りながら、顧客目線の柔軟性を欠かさず進化し続けたいですね」
相好を崩してそう語る渡辺さんもまた、時計に熱い思いを抱く“ファン”の一人。等身大のアドバイスが、こと初心者にはありがたい。1階のエレベーターに乗って上階行きのボタンを押し、扉が開けばほどなく、その価値を体感するはずだ。
■日新堂 銀座本店
創業は1892年。屈指の高級商業エリア・銀座に拠点を構えて75年。以来、慧眼による確かな品揃えと、手厚いアフターサービスで日本の時計文化の振興に寄与してきた。東京都中央区銀座7-9-13 Tel.03-3571-5611 営業時間11:00~20:00 元日休 https://www.nsdo.co.jp/shop/ginza/