2024.02.25

CARS

モードは常にSPORTを選択せよ! 4.7リッター自然吸気V8が叫ぶ クワトロポルテ・スポーツGT Sは、どんなマセラティだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ/マセラティ篇】

マセラティ・クワトロポルテ・スポーツGT S

全ての画像を見る
中古車バイヤーズガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回は、クワトロポルテとグラントゥリズモの2本立てで快進撃を続けるマセラティの2009年6月号に掲載したクワトロポルテのリポートを取り上げる。グラントゥリズモSでさらに加速したモデナの雄から登場した4ドアの真打ち。4.7リッターエンジンを得たクワトロポルテ・スポーツGT Sに試乗。


元F1パイロットのイヴァン・カペリ

ホテル・フィニの小ぢんまりとした部屋へ予定の時刻に赴くと、マセラティのスタッフの面々が、長机を囲むように並び、待ち受けていた。



そのなかに初めて見る顔があった。けれど、どこかで目にしたことがある気もする。誰だっけ? と、思い出した。イヴァン・カペリだ。マセラティの試乗会を訪れるのは数年ぶりのことだから、こっちがカペリ氏の参画を知らなかっただけなのだろうが、思わぬところで会うことができて嬉しくなった。レイトンハウス・マーチで活躍してスクーデリア・フェラーリへ移籍し、走らぬモノポスト、F92Aに苦闘した、元F1パイロットのカペリ氏である。

日本からだけでなく、北米からもメディアが招待されていたが、合わせても10数人。マセラティのスタッフ込みでも20人足らずの人間が机について、粛々とテクニカル・ブリーフィングが始まった。

かつてフィアット傘下からフェラーリの統括下へ移って最初に行われた国際試乗会では、ぶっ続けで3時間以上にも及ぶ極めて専門的な内容のブリーフィングをやって僕らを驚かせたこともある彼らだが、この日は、ここ数年絶好調の会社概況とクワトロポルテの変遷を簡単に説明すると、すぐに主題のニューモデル、スポーツGT Sへと話を移した。

マセラティのアドバイザーを務める元F1パイロットのイヴァン・カペリ。紳士でいて、とびきりのお茶目でもあった。ブリーフィングでの車輌解説ではその生真面目な側面も見せてくれた。


説明は簡明だった。
■スポーツGT Sは新型クワトロポルテ・シリーズのなかで最もスポーティな仕立てが施してある。
■4.7リッターV8に専用のチューニングを施し、6000rpm以上のトップエンド回転域でのパワーを押し上げ、最高出力を10ps増しの440psとしながら、低中速回転域での凹みは最小限。最大トルクは49.5kgmを維持。
■4ドア・サルーンであることを鑑みて、変速機はあえてトルクコンバーター付き6段ATのままとしたが、MCオート・シフトと呼ぶ変速プログラムのスポーツ・モードはいっそうスポーティなものとしてある。
■クワトロポルテS(4.7リッター)と同じ高効率の触媒コンバーターに加えて、グラントゥリズモSと同様の切り替え式2次マフラーを採用した。
■シングル・レートのダンパーを使い、強化、ローダウン化したサスペンションに組み合わせてある。
■鉄のローターとアルミのハブを一体鋳造したデュアル・キャスト式ブレーキを継続して採用している。

バリトンからテノールへと高らかに歌い上げていく4.7リッターV8。新しい消音器?を得て、吠えることも覚えた。そのサウンドは180度クランクを使うフェラーリF430のように喧騒とセンセーションに満ちたものではなく、マセラティと同じく90度クランクを使うアルファの8Cコンペティツィオーネのそれとも違う。440psはクワトロポルテSの10ps増し。


以上が、新しいスポーツGT Sの機械内容について知っておくべき概要であることを告げて、技術説明は終わった。そして、翌朝のテスト・ドライブについてのガイダンスを行ったのが、カペリ氏だった。ハンドリング性能やフィオラノのラップタイムや変速特性などダイナミック性能の諸々について、エキスパート・ドライバーならでは解説を加えながら話を進めた彼はしかし、最も重要なのは、ダッシュパネルのモード切り替えで常にSPORTを選択しておくことだ、と加えたのだった。


SPORTモードで走れ

ホテルの裏口にクワトロポルテがずらりと並んださまは壮観だった。柔らかなラインのボディのせいで1台だけだとそれが全長5mを超えるフルサイズ・カーだとはなかなか気づきにくいが、これだけ並ぶとさすがに圧巻で、迫力がある。ディテー
ル処理の変更によって凄みを増していることにも気づく。

ステアリング・コラムから生えるシフト・パドルは、スポーツGT Sでは専用の大型のものに変更されている。積極的にマニュアル変速モードを使えというメッセージだ。マニュアル・モード時には自動変速を一切行わない。踏み続ければレヴ・リミッターに当たるからご用心。SPORTを選択した状態でマニュアル操作を選ぶと、シフトダウンの許容回転上限も高くなる。


お好みの1台を、ということで選んだ1台に乗りこんで、エンジンに火を入れる。ファスト・アイドルはすぐに落ち着く。シートやステアリング・コラムを電動で調整してミラーを合わせ、準備OK。

いや、昨夜のカペリ氏の言に従うのを忘れている。SPORTボタンをワンプッシュ。Pレインジのままアクセレレーターを煽ってみると、ファオォンッと吠えた! 先代のスポーツGT Sとは全然違う。グラントゥリズモSと同じ声だ。

コンボイを組んで、路地をすり抜け、表通りに出たところで前との間隔を広げ、右足を深く踏み込むと、フォロロォッーと、雄叫びをあげる。あっという間に前車に近づく。左手で大きなパドルをカチッと引くと、ファオォンと間髪いれずにブリッピングが繰り出され、シフトダウン。さらに深く右足を踏み込むと、さっきよりも力強いV8サウンドを辺り一面に撒き散らしながら、後輪が強烈な駆動力を路面へ叩きつける。



ちょっと気が引けて、ルームミラーを覗き込むと、歩道のモデナっ子が次々と振り返る姿が映っていた。でも、やめられない。これは4ドアのグラントゥリズモSだ。SPORTボタンは爆音スイッチだったか、と僕は納得しかかっていた。

しかし、街を出て長閑なカントリー・ロードへ出て思う存分にV8を歌わせてやることができる条件が整うと、爆音はオマケであることが分かった。サスペンションのスプリング・レートを前で30%、後ろは10%引き上げてシングル・レートのダン
パーと組み合わせた専用仕立てのサスペンションは、無粋な荒さを微塵も感じさせないのに、見事なボディ・コントロールを見せつける。

フロントで15mm、リアで11mm下がったライドハイトは、普通のクワトロポルテでも十分に低い重心をさらに低く感じさせる。静的な状態でもリアアクスルに51%の荷重がかかる理想的な前後重量配分も、ドライサンプもかくやと思われるほどに低く搭載されるV8は完全なフロント・ミドシップだから、ヨー慣性モーメントも予期するよりずっと小さい。さらに、トラクション・コントロール・システムのプログラミングも秀逸ときている。マニュアル変速に徹するモードを備えた変速機もいい。ペースを上げれば上げるほどに、ドライブする喜びが増してくる。SPORTモードはそうやって走らせたときに総てのピントがきりっと合うように見事な調律が施されている。

これこそ、運転好きが選ぶべきフルサイズ・ラグジュアリー・サルーンだと、僕は思う。

文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=Maserati S.p.A./コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッド

新型マセラティ・クワトロポルテ・スポーツGT Sのおさえどころ
●シリーズ随一のスポーティ・バージョンのモデルチェンジ。
●エンジンは4.7リッターユニットをベースに専用チューンで440ps。
●先代モデルと基本は同じ6段オートマティック変速機。
●日本市場発売はこの5月下旬。右ハンドルと左ハンドルを用意。

■マセラティ・クワトロポルテ・スポーツGT S
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 5097×1895×1423mm
ホイールベース 3064mm
トレッド 前/後 1580/1595mm
車輌重量(DIN) 1990kg
エンジン形式 自然吸気水冷V型8気筒DOHC 4バルブ
総排気量 4691cc
最高出力(許容回転) 440ps/7000rpm(7200rpm)
最大トルク 49.5kgm/4750rpm
変速機 6段オートマティック(パドル付)
サスペンション形式 前 ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション形式 後 ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 245/35ZR20/295/30ZR20
日本発売時期/価格 2009年5月下旬/未定

(ENGINE2009年6月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement