2024.02.24

CARS

飛びっきりに美しいポルトフィーノは、素晴らしいフェラーリだ! 【『エンジン』蔵出しシリーズ/フェラーリ篇】

600馬力のフロント・エンジン・フェラーリ、ポルトフィーノに試乗

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中古車バイヤーズガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回は、フェラーリのスタイリッシュな2+2クーペ・カブリオレ、ポルトフィーノに試乗した2018年11月号のリポートを取り上げる。待ちに待った国内初試乗、見た目だけでなく、乗ってもそれは見違えるような進化を遂げていた。


「見違えるように美しく麗しく フェラーリのフロント・エンジン・クーペ・カブリオレ、ポルトフィーノで志賀高原を目指した」ENGINE 2018年11月号

8月の下旬、うだるような暑さが東京を覆いつくしていた。朝一番で六本木に向かい、ようやく到着したフェラーリ・ポルトフィーノを借り出した。カメラマンの望月さんは早朝から河口湖で待ち構えている。が、夏休み真っ只中の東京から脱出するのは容易なことではなかった。首都高速に乗った途端に、流れはピクリとも動かない。それでもなんとか我慢して高井戸まで辿り着くも、その先の中央道も大渋滞。電話で連絡すると、河口湖も行楽客でごった返しているという。首都高速を降りて、関越自動車道回りを画策するも、そちらも事故渋滞で万事休す。つごう3時間ほどを酷い渋滞のなかで過ごすことになり、この日の撮影を諦めて仕切り直すことにした。



そんな状況にあっても、ポルトフィーノは一切むずかることがなかった。その気になれば600psもの高出力を生み出す3.9リッターのツインターボ過給V8はまるで大人しい実用車のエンジンのようにノーズの奥底で粛々と振る舞い続け、リア・アクスルの直前に置かれたデュアル・クラッチ式の7段自動MTも、トルクコンバーター付きATのように滑らかなマナーを崩すことがなかった。35度の外気温。自車の排熱に包まれた中はそれこそデスバレーのような状態にあるだろうにもかかわらず、何の不安もなくいられるのが、ちょっと不思議なぐらいだった。照りつける真夏の太陽から隠れるべくメタル・トップは閉じたままだ。エアコンは2+2の室内を変わらず快適な温度に保ち続けてくれた。

真夜中、日付が変わった頃合に寝静まった住宅街でポルトフィーノに火を入れるのは少しばかり気後れしたが、意を決してエンジンをかける。かかった瞬間こそ騒々しいが、直ぐに静かなアイドリングに入る。幅の狭い接面道路へ出るのも、よく切れるステアリングのおかげでさほど苦労することもない。地元民しか知らない裏道小道を使って関越所沢ICを目指すが、車両サイズの把握も難しくない。荒れた路面ではタイヤのケースの強靭なことを知ることになるけれど、脚は決して硬すぎることがない。ステアリング・ホイールに付いたプッシュ・スイッチを押してサスペンション・ダンパーを“バンピー・ロード”用にセットすれば、脚はよく動き、きついショックを伝えてくることもない。これなら毎日乗れる。ノーズ下のクリアランスにさえ気を配るのを忘れなければいいだけのことだ。

フェラーリの流儀はそのままだが、インフォテインメント・システムは大型液晶を備えるなど最新の技術成果が織り込まれている。



快適至極の高速巡航

関越自動車道は、がらがらに空いている。ステアリングホイールに備わるドライブ・モード切り替えのマネッティーノはコンフォートのまま、自動変速に任せて穏やかにアクセレレーターを扱って走行車線を常識的な速度で流していると、これがフェラーリであることを忘れそうになる。排気系に挿入された電子制御式のバイパス・バルブはほとんど閉じたまま、きわめて平穏な音量で巡航できる。最近のフェラーリはどれも140km/hぐらいまではバイパス・バルブを閉じたまま“静かな巡航”を続けられるようになっているから、このクルマも同じかそれ以上に、平和な巡航が得意なはずだ。周りにフェラーリであることを声高に主張することなく走れるのである。ステアリングの操作力は軽いが、フィードバックは希薄ではない。ステアリングホイールのリムは硬めだから、その感触がよく伝わってくる。中心付近の座りもいい。そのせいか、片手運転が楽にできる。こんなフェラーリは初めてだ。試すため以外には片手運転はしない主義だけれど、これならラジオの操作だって、楽にできる。ポルトフィーノの前任機種にあたるカリフォルニアやカリフォルニアTでさえ、ここまで安楽に運転することはできなかった。デイリー・ユースを重んじた仕立てが念入りに施してあるというフェラーリの主張はリップ・サービスではない。

+2の後席は大人が座れないこともないが、基本的には子供用と考えた方がいい。GTCルッソのような完全4座ではないのだから。

自動変速機もまるでトルクコンバーター付きATのように滑らかな変速マナーに終始する。低い回転域にあってもそこは過給エンジンだから、ジワッと踏んでも負荷が上がれば、必要なだけトルクが湧き上がり、高いギアを保ったまま、大抵の用が足りる。ベースの排気量の3.9リッターもあって、しかも直噴エンジンだから圧縮比も低くない。さらに、フェラーリは極端にオーバー・ドライブなギア比設定を使わないから、楽々と初期レスポンスを返してくる。そういう平和な方法で加速しても、まどろっこしさが全然ない。スロットルを大きく開いてプォーンと歌わせる必要がないのだ。こういう仕立ては488系にあってはタイトな駆動特性と相まって、458系ほどではないにしても、一定速度を保つのにはスロットル・コントロールに気を使わされることがままあるのに、ポルトフィーノにはそれがない。ほんの微かにスロットルを戻しただけでクンッと明確な減速Gが立ち上がってしまうことがないのである。

もちろん、マネッティーノでスポーツを選び、自動変速からマニュアル・シフトに切り替えれば、いつものフェラーリが即座に取って代わる。反応は歴然とタイトなものに変わる。まるで性格の異なるクルマになる。

しかし、コンフォート・モードで自動変速に任せて走らせる方法があまりに日本の交通事情に合っているからだろうか、わざわざスポーツに切り替えて威勢よく走らせなければならないような強迫観念をついぞ抱くことなく、平穏な巡航を続けたまま、信州中野まで着いてしまった。こんなフェラーリも初めてである。

ドライサンプ式の3.9リッターV8は完全にフロント・アクスルより後方にある。上:2+2のキャビンを覆うルーフはトランク内上部に巧妙に格納される。



隠せない素性

朝を迎える前に信州中野ICに着いた僕らは、暗闇のなか志賀高原の渋峠を目指して山道を登り始めた。生活道路ではないから、交通量はほぼ皆無。マネッティーノをスポーツに切り替え、変速はマニュアル・モードに。素性を隠せないとはこのことだろうか。ポルトフィーノが安楽なだけのラグジュアリー・クーペでないことが否応なく伝わってくる。ステアリングはクイックでシャープだ。ステアリングホイールに添えた両の手を持ち変えることなく、コーナーの連続を飲み込んでいく。前輪のグリップは強大で、限界を知るなど到底叶わない。切れば切っただけ鼻先がグイグイと向きを変える。V8エンジンはノーズの奥底に低くうずくまるように押し込まれているから、鼻先は軽く、重心も低い。前輪は余裕綽々だ。リアには大パワーを十全に路面に伝えきる荷重が確保されているから、電子制御ディファレンシャルを忍ばせた後輪は、そうそうのことではグリップを諦めることがない。まさにオン・ザ・レールの自在感がある。呆気なく速い。しかも、屋根を閉じている状態とはいえ、アルミ・スペースフレームで構築されたボディの剛性感は頼もしいばかりで、オープン・ボディのフェラーリにはつきものだった、ステアリング・フィールが僅かに滲む感じも払拭されている。大きなメタル・トップをトランク内に格納してオープンに変身できるコンバーティブル・カーであることを忘れそうになる。

下界の暑さとは無縁の涼しい雲上界で屋根をしまうと、そこに待っていたのは、オープンカーの喜びそのものだった。澄み切った空気の中をフェラーリ・サウンドに包まれながら走り回ったその快感を、僕はしばらく忘れられそうにない。

飛びっきりに美しいポルトフィーノは、素晴らしいフェラーリだ。

文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦


■フェラーリ・ポルトフィーノ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4590×1940×1320mm
ホイールベース 2670mm
トレッド 前/後 1633/1635mm
車両重量(車検証) 1750kg〔乾燥1545kg〕
エンジン形式 V型8気筒DOHC直噴32Vツインターボ過給
総排気量 3855cc
ボア×ストローク 86.5×82.0mm
最高出力 600ps/7500rpm
最大トルク 77.5kgm/3000-5250rpm
変速機 7段自動MT
サスペンション 前後 ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(CCMC)
タイヤ 前/後 245/35ZR20/285/35ZR20
車両価格(税込) 2530万円

(ENGINE2018年11月号)

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