2024.07.22

CARS

普通っぽいけど、脱いだらすごい! 自然吸気V10ユニット搭載のアウディR8 羊の皮を被ったスーパーカーは、今でもたまらなく魅力的

4.2リッターV8ユニットをミドに搭載するアウディ初のスーパー・スポーツR8に加わった525馬力の5.2リッターV10モデル。

全ての画像を見る
中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2009年8月号に掲載したアウディR8を取り上げる。4.2リッターV8ユニットをミドに搭載するアウディ初のスーパー・スポーツR8に加わった525馬力の5.2リッターV10モデル。果たして、その走りと乗り味はどう変化していたのか。当時日本に上陸したばかりの新型を、レーシング・ドライバー&ジャーナリストの大井貴之が試した。

advertisement


アプローチが決定的に違う

一言で言うと未来的。キアヌ・リーブスがマトリックスのいでたちで乗ったら、間違いなく似合いそうなアウディR8。ライバルたちが凶暴さを競う中、R8にはそういった気迫が感じられない。それは精悍ではあるが攻撃的ではない顔つきや、女性的な曲線基調のフォルム、そしてライバルたちよりも高いルーフや長いホイールベースのためなのか。ちなみに1250mmという全高はライバルたちより100mm近く高い。

ミドに縦置きされる直噴5.2リッターV10は最高出力=525ps/8000rpm、最大トルク=54.1kgm/6500rpmを発生。6段Rトロニック・シーケンシャル・ギアボックスを介して4輪を駆動。全長×全幅×全高=4435×1930×1252mm。ホイールベース=2650mm。車重=1660kg。車両本体価格=1994万円。


非日常を演出するフェラーリやランボルギーニといったスーパー・スポーツカーの老舗に対し、アウディは日常的に使えることで勝負してきた。デイリー・ユースをテーマとしたミドシップ・スポーツといえばホンダNSXがあるが、残念ながらユーザーの心を捉え切ることが出来なかった。しかし、R8はそれとはアプローチが決定的に違う。

R8は運動性能を追求したスポーツカーを日常的に使いやすく仕立て直したクルマだ。乗用車のアイテムを用いてスポーツカーを仕立てたものとはワケが違う。もちろん、それは非日常を追求したランボルギーニを傘下に収めるアウディだからこそできたことだが、この差がデカイ。

内装では文字盤の色が黒となり赤い輪の装飾が入る。


といいながら、07年に登場した4.2リッターV8モデルはいまいち存在感に欠けていた。原因は凄さ不足。アウディご自慢の直噴FSI塔載のV8ユニットは、まるでモーターのように高回転まで淀みなく吹け上がるが、ライバルのようには吠えない。しかも通常は前後15対85、最大30%まで必要に応じて前に駆動力が配分されるという、これまたアウディご自慢のクワトロ4WDシステムのお陰で、安心して踏みたいだけ踏めてしまう。つまり、完成度が高いが故に物足りなさも感じてしまうのだ。

官能的な音と強烈な加速G

そこに登場したのがV10モデル。直噴5.2リッターV10FSIは525psを発揮。V8比、実に100psのパワーアップ! しかも、そもそも500psオーバーで設計されたR8だけに急場の補強などは必要なかったようで、増えたのは31kg重くなったエンジン車重のみだ。オプションのセラミック・ブレーキを装着していた試乗車に至ってはV8より20kg重いだけだった。結果、0―100km/h加速は4.6秒から3.9秒へと短縮され、最高速は301km/hから316km/hに引き上げられた。

シルバーがイメージ・カラーだったV8モデルに対し、真っ赤なボディ・カラーを前面に出したV10には強烈な存在感がある。しかし、基本コンセプトは不変で、普通に乗ればごく普通に走ってくれる。それどころか、なんとV8モデルよりさらに乗り心地良く仕立てられていた。

リアでは左右がつながったブラック・パネルとオーバルになったテール・パイプ、大型化されたディフューザー。


しかし、アクセルをガバッと開けるとパワー炸裂! 2基のサウンド・バッフルでコントロールされていたエキゾーストが開放された瞬間、ド迫力で官能的なV10サウンドと強烈な加速Gで獰猛な野獣へと豹変する。最大トルク=54.1kgm、100―200/h加速8.1秒という加速力はハンパじゃない。レーシング・ドライバーであってもこの急激なスピードの変化に対して緊張を強いられるが、決して安定性を欠くものではない。その証拠に、多少うねりのある路面でフルパワー加速を試みてもトラクション・コントロールはまったく介入してこなかった。

もちろん4WDの恩恵が大きいが、ロング・ホイールベースによる荷重変化の少なさと高剛性ボディ、そして接地性の良い足回り、どれかひとつ欠けていても実現出来ない総合性能の高さあってのものだ。

その印象はワインディングを走っても変わらなかった。東名高速を厚木ICで降り、小田原厚木道路から箱根ターンパイク、伊豆スカイライン、西伊豆スカイラインと抜ける道行きで低速から高速、そしてドライからウエットまであらゆる条件に遭遇したが、R8は常に速く、常に快適。すべての条件を選り好み無く走破! ニュルブルクリンク北コースでハンドリングを煮詰めただけに、4輪の接地変化が極端に少なく、常にニュートラル・ステア。路面のうねりがあっても修正舵は必要ない。この手のクルマが不得意とするタイト・コーナーでもまるっきりキャラが変化しない。ロング・ホイールベースを邪魔に感じることもなかった。

おそらくワインディングで敵はいない。もし、マークしなければならないクルマがいるとしたら、それはフェラーリでもランボルギーニでもポルシェでもなく、同じR8のV8モデルだ。V10に較べれば非力だが、V10より硬めにセットされた足により、ワインディングは恐ろしく速い。下りコーナーが連続する道では、間違いなくV8の方が速いだろう。

とはいえ、V10モデルの強烈な加速フィールは捨てがたい。一見、普通っぽいけど、脱いだらすごいんです! って雰囲気は、50代半ばのオヤジにとってはたまらなく魅力的だ。

文=大井貴之 写真=神村聖

(ENGINE2009年8月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement

advertisement

PICK UP

advertisement