2024.04.25

LIFESTYLE

勝負曲はブラームス! フランスから国際舞台に飛翔した注目のピアニスト、ジョナタン・フルネル

軽やかで歌心に満ちた演奏

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2021年のエリザベート王妃国際コンクールで優勝の栄冠に輝いたジョナタン・フルネル。デビュー録音は敬愛するブラームスのピアノ・ソナタ。

難関で知られるピアノ部門

世界には100を超すピアノ・コンクールが存在するが、有名なショパン国際ピアノ・コンクールに次いで名前が知られているのが、4年に一度ベルギーで開催されるエリザベート王妃国際コンクール。そのピアノ部門は難関として知られ、優勝者は息の長い実力派ピアニストとして活躍する人がほとんどである。しかも、非常に個性的でレパートリーも幅広く、真のピアノ好きに愛される人が多い。

21年のピアノ部門はジョナタン・フルネルが覇者となった。当時27歳。セミファイナルではモーツァルトのピアノ協奏曲第18番を演奏し、かろやかで流麗で歌心に満ちあふれた演奏が高い評価を得た。ファイナルではブラームスのピアノ協奏曲第2番を選び、壮大さ、奥深さ、内省的な表現が必要とされる難曲を披露し、優勝を勝ち取った。



「私は10代のころからブラームスが大好きで、コンチェルトも長年弾き込んできました。先生にはプロコフィエフやラフマニノフの方がコンクール向きだといわれましたが、どうしてもブラームスで勝負したかった。モーツァルトも大好きです。コンクールでは極度の緊張を強いられましたが、好きな作品を聴いていただきたい一心で、緊張を前向きな思いへと変えました」

父親はオルガニストゆえ、幼少からオルガンを聴いて育った。

「オルガンも少しだけ弾きますが、自分にはピアノが向いていると思います。ショパンとリストは主要レパートリー。でも、ブラームスは特別な存在。ですから、デビュー録音はぜひブラームスを収録したかったのです」

ブラームスは心に近い

「ブラームスは心に近い作曲家です。弾けば弾くほどのめり込み、他にそういう作曲家はいません。ピアノ・ソナタ第3番はピアノの音色の奥深さが魅力で、驚くべき手法が使われています。《ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ》は、変奏曲の大家であるブラームスの音楽的内容が頂点となった作品。バロック音楽を研究していたブラームスの面目躍如です。ピアノ協奏曲第2番はラドゥ・ルプーの演奏を聴いて衝撃を受け、以来私の勝負曲となっています。もっとも好きなピアニストは33歳で亡くなったルーマニアのディヌ・リパッティで、録音のモーツァルトのピアノ協奏曲第21番はリパッティのカデンツァを弾いています。今後は、ショパンと同郷のシマノフスキを組み合わせて演奏していきたい」

和食にも並々ならぬ興味を抱く。大阪で食べた肉まんにハマり、新幹線の中でも食べ続けた。

「私はフランスのロレーヌ地方出身。ここはキッシュが有名ですが、少し軽くて薄い物も人気。白ワインによく合うんですよ」

美食と美音の話は尽きない。

2021年10月、ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番、《ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ》をリリース。薫り高く、構築感と色彩感に富む特有のピアニズムで、ブラームスの神髄を描き出している。


文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

(ENGINE2024年4月号)

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