2024.06.22

LIFESTYLE

道路から2mも下がった三方崖の“訳あり”敷地 外観からは想像できないまるで図書館のような必見の室内 美意識と創造性で難題に挑んだ建築家の自邸とは?

この家のハイライトであるライブラリー。

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雑誌『エンジン』の大人気連載企画「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」。今回は、神奈川県逗子市にある小高い尾根の上に建つ一軒家。外からは内側がまったく見えない建物に足を踏み入れると、天井高が4m以上もある図書館のような空間が広がっていた。ご存知、デザインプロデューサーのジョースズキ氏がリポートする。

約2万冊の本の収蔵が可能

「四角い箱型の家に、大量の本が上手く収まるように設計した」と、逗子の自邸兼事務所について語る建築家の後藤武さん(57歳)。同じく建築家である奥様の千恵さんと2匹の猫と暮らすこのお宅のハイライトは、家の半分近くの空間を占めるライブラリーだ。2階分が吹抜けになった空間で、天井高は4.2m。約2万冊の本の収蔵が可能だ。建築家になる前は大学で美学美術史を学んでいた後藤さんは、設計の傍ら今も大学で教えているうえ、建築史の研究も続けている。

ライブラリーの西側。

後藤さん夫妻はこの家に移る前は、横浜の中心部に事務所を構え、マンションで暮らしていた。いつの日か自邸を設計するため、何年も前から用意していたのが、逗子の小高い尾根の上にあるこの土地だ。もっともここは、不動産屋が「素人は手を出さない方が良い」と口にした場所。かつて配電用の鉄塔が建っていた跡地で、使えるのはせいぜい10m四方しかない。三方はすぐ崖で、残る一方の道路からも2mほど下がっている。それでも「今まで仕事をしてきた土地と比べて、遥かに良い条件。土地を整備しなくても、このまま家を建てられる」と判断し、破格の条件で手に入れた。

後藤さんはこれまで、上品で端正な外観の住宅を随分と難しい土地に建ててきた。今回自邸を設計するにあたって、最初は自身の建築に共通する、大きなガラス窓から景色を楽しめる建物を考えたという。しかしそれでは、太陽光で本が傷んでしまう。そこで現在のような、窓が少ない家のプランに辿り着いた。

完成した後藤邸の外壁は、茶色く塗装された木材で仕上げられている。周囲の樹木が芽吹けば、この茶色と緑のコントラストが美しいだろう。

駐車場に停まっているのは、「四角い外観の家に合う、カーブを基調としたデザインのフォルクスワーゲン・ザ・ビートル」。後藤さんは、「形が美しく見えるので、これまで黒いクルマを多く選んできた」と言う。一番長く乗った思い出深い一台は、黒のメルセデス・ベンツSL(R129型)。ゴルフのカブリオレを買いに出かけた際、隣に停まっていて一目惚れしたそうだ。最近運転するのは、週に一度70km離れた美大に教えに行く時と、週末が中心である。

東南からの眺め。すぐ右手は崖。左手の入口は、1階の屋根の上に設けた茶室の露地に続く。

テラス右手奥に屋内に入る入口扉が。奥には雨水を溜めた水盤が見える。

さて、複雑な構成の後藤邸を簡単に説明すると、8m四方の重箱の形をした1階と2階を、少しだけずらした形状となる。間取りは、基本的に大きなワンルームで、1、2階の重なった部分は吹抜け。ずれた2階部分は、吹抜けに面した事務所・茶室、ロフトになっている。こう書くとシンプルな建物のようだが、実際にこの空間に身を置くと、立体的で不思議な構造に驚かされる。初めて訪れると、自分がどの場所に居るか分からなくなるのだ。お陰で床面積よりもはるかに広い家に感じた。


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