2024.06.22

LIFESTYLE

道路から2mも下がった三方崖の“訳あり”敷地 外観からは想像できないまるで図書館のような必見の室内 美意識と創造性で難題に挑んだ建築家の自邸とは?

この家のハイライトであるライブラリー。

全ての画像を見る
驚きの室内空間

advertisement


まずは入口のある2階から1階に下りていく。そして屋内に入る扉を開けると、なんとそこはダイニング・ルーム。三和土などは存在せず、目の前に長さ5mのコンクリートのテーブルが横たわっている。料理が得意な後藤さん夫妻は、このテーブルを囲む友人たちに料理を振舞うこともあれば、仕事の打ち合わせに使うこともある。特筆すべきは、ダイニングの窓からの、借景を利用した眺めが素晴らしいこと。庭の樹木がすぐ先にある谷を隠し、木が茂る向こうの尾根まで後藤さん宅の敷地のように見える。



そんなダイニングがあるのは、天井までが吹抜けになっているワンルームの一角。その大空間を、高さ180cmの収納壁が、ライブラリーやベッドルームと仕切っている。この吹抜けの上部を走る太い梁の視覚的インパクトも強烈だ。一番低い梁の下端は、床から180cmしかないのだから。身長179cmの後藤さんがギリギリ頭をぶつけない高さだ。そんな梁の上の世界を、猫たちは自分たちの領域として楽しんでいる。

本を守るため、南面に窓を設けなかった後藤邸の採光は、東のダイニングの大きな窓と西のバスルームの窓に加え、四つの天窓が中心となる。カーテンがないので朝の早い時間から寝室も明るい。この家で暮らし始めて後藤さんは、早朝から仕事をするスタイルに変わったという。

一方ライブラリーは、天窓と小さな窓があるだけの、少々暗い空間。静謐で考えが深まりそうな部屋だ。その一角に置かれた机が、後藤さんの思索のための場所である。一緒に建築事務所を運営している奥様のスペースは、いったん家の外に出ないとたどり着かない2階にある。後藤さんの机から大きな声を出せば聞こえるが、普段は2階にいる人の気配すら感じられない設計だ。

「住んで2年ちょっとが過ぎましたが、自分で設計したにもかかわらず、今でも色々と発見のある家です」と語る後藤さん。随所に美意識と創造性を感じさせる空間は、住む人の仕事や人生の質を高めてくれるに違いない。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章


■建築家:後藤武 1965年横浜市生まれ。大学卒業後は美学美術史の研究者としてキャリアを始めるものの、建築家を目指して東京大学大学院で再び学び直す。その後、隈研吾の事務所で、同氏の初期の代表作である「馬頭広重美術館」を担当。独立して自身の事務所を主宰し、住宅を中心に設計を行っている。後進の指導にも熱心で、現在は武蔵野美術大学造形学部で教鞭を。著作に『鉄筋コンクリート建築の考古学:アナトール・ド・ボドーとその時代』『ディテールの建築思考』などがある。建築写真の達人としても知られる。後藤千恵新潟県生まれ。建築家諸角敬の事務所を経て独立し、自身の事務所を主宰。2011年より後藤氏との共業が始まる。写真:DJ UCHINO


■ジョースズキさんのYouTubeチャンネル、最高にお洒落なルームツアー「東京上手」!
雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を!

◆「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」の連載一覧はこちら!

(ENGINE2024年6月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement

advertisement

PICK UP

advertisement