2024.06.30

CARS

【試乗速報】「ロールス・ロイスの辞書にスポーティという言葉はない」 シリーズIIに進化したカリナンにスペインで試乗! 出来映えに脱帽

デザイン・テーマは垂直性

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そんな前置きを聞いた後にじっくりとカリナン・シリーズIIを眺めてみると、なるほど、このフェイスリフトの狙いが、若返った顧客層の好みに合わせて、全体をブラッシュアップすることにあったのだというのが良く分かった。

たとえば、その象徴とも言えそうなのが、新たにデザインされたデイタイム・ランニング・ライトだ。ヘッドライトの上部から直角にサイドに回り込んでバンパー・ラインまで長く続くそれは、誰にもひと目みて、これがカリナン・シリーズIIであることを識別させる力強いアイコンとなっている。



この6年間に顧客の動向を調査した結果、高いオフロード性能をも備えるカリナンではあるが、実際にはほとんどが都会で使われていることがわかったのだという。そこでいかに強い個性を発揮するか。考えた結果、大都市にそびえる摩天楼と呼応するように、垂直性を主要なデザイン・テーマにした、というのがプレゼンテーションでのデザイナー氏の説明だった。

ロールス・ロイスの象徴とも言うべきパンテオン・グリルも、今回イルミネイテッド・グリルに進化するとともに、より垂直方向の柱を強調したデザインになっている。全体を取り囲む枠がなくなり、その代わりに左右のデイタイム・ランニング・ライトの間にファントム・シリーズIIとも共通する水平方向に一直線に延びる「ホライズン・ライン」が設けられた。その結果、上下が分離して、まさに垂直の柱が屋根の部分を支えている建築そのもののようなデザインを実現しているのだ。



観音開きのドアを開けて運転席に乗り込むと、真っ先に気づくのは、これまではアナログの針付きだったメーターが、デジタル・パネルに映し出されるヴァーチャル・メーターに取って代わられたことだ。これはロールス・ロイス初のフルEVであるスペクターで導入されたSPIRIT(スピリット)というオペレーティング・システムを引き継いだもので、オーナー専用の会員制アプリとも統合してインターネットを使った様々なデジタル操作を可能にするというが、若返りのためには必須のアイテムと言っていいだろう。

観音開きの前後ドアは自動開閉可能。荷室にはピクニック・シートをオプション装着できる。


さらに助手席側に視線を移していくと、ボンネットの先端に付いているのと同じスピリット・オブ・エクスタシーのミニチュア・モデルが、アナログ時計とともにはめ込み式のケースに入れて置かれているのが目に入ってくる。これこそがカリナンがドライバーズ・カーになったことの証とも言えるのではないか、と私は思った。光のあたり方によって、様々な色に変化する女神の像を間近で愛でられるのは後席の住人ではないのだ。

そして、助手席の真正面にはガラス製のイルミネイテッド・フェイシア・パネルが新たに設えられた。ガラスの裏側からレーザーを使って7000ものドットがエッチングされており、CULLINANの文字とともに光で摩天楼を思わせる縦の模様が浮き上がるようになっている。ゴーストやスペクターにも使われているこのパネルのおかげで、前期型より一段とラグジュアリー感が増している。



そのほか、220万ものステッチと最長18kmもの長さの糸をつかって織り上げられたデュアリティ・ツイル(二重綾織り)のファブリック・シートを新たに採用するなど、ラグジュアリー感を増すことも、新たなる顧客の要望に応える重要な要素だったことがうかがえた。

スペックは同じだが……

さて、それでは運転してどうだったのか。今回はノーマル・モデルとブラック・バッジの両方に試乗することができたが、各30分ほどの短い時間でしかない。しかし、それでもこのカリナン・シリーズIIの走りの素晴しさは良く分かった。乗ればすぐに分かるくらいに、味の濃いクルマだったからだ。

V12ツインターボのスペックは不変。


前提として言っておかなければならないのは、パワートレインに関しては、今回、まったく変更がないということだ。ノーマルが571ps、ブラック・バッジが600psを発揮する6.75リッターのV12気筒ツインターボ・エンジンも、8段ATを介して4輪を駆動するシステムもそのままだ。シャシーについては、今回、新たにノーマルではオプション、ブラック・バッジは標準で23インチのタイヤを採用したことにより、サスペンションのチューニングをそれに合わせて若干変えたというが、それ以外はなにもいじっていないのだとか。



しかし、にもかかわらず、まずはノーマルの方から乗ってすぐに思ったのは、明らかにロールス・ロイスの味がますます濃くなっている、ということだった。ロールス・ロイスに乗っているのだから当り前ではないかと思われるかも知れないが、えも言われぬ柔らかなタッチのステアリング・フィールやマジック・カーペット・ライドといわれる路面の荒れをどこか遠くの出来事のようにしか感じさせない絶妙なチューニングが施された足回りなど、まさにファントムやゴーストが体現しているロールス・ロイスが持つ独特の乗り味の理想の領域に、カリナンもどんどん近づいていると思ったのだ。

たとえスペックが変わらなくても、クルマは生産を続けるうちにどんどん進化するものだ。今回、数字に現れないどんな改良があったのか、残念ながら今回の試乗会にはエンジニアがおらず聞くことができなかったが、間違いなく見た目の変化と同じくらいのブラッシュアップが、走りにももたらされていると思った。



ブラック・バッジも基本的な乗り味はまったく変わらない。ややパワーが勝り、回転数を上げるとエンジンやエグゾーストのサウンドがノーマルより少し大きく聞えるようになる気もしたけれど、だからと言って、急にスポーティな乗り味になるわけではない。

そもそも、ロールス・ロイスの辞書にはスポーティという言葉はないのだ。ただ、十分なパワーがあります、としか彼らは言わない。だから回転計など持たず、持てるパワーを今どれだけ余しているかを示すインジケーターがあるだけだ。しかし、走る曲がる止まるの基本性能の高さは実のところスポーツカーも顔負けで、イビーザ島の山道を走りながら、このカリナンの操縦性の良さにも私は舌を巻いた。



プロのドライバーにショーファーを務めてもらい後席にも乗ってみた。後席の乗り心地も、どうやらずいぶんと進化したと思った。こちらはファントムに近いとまではまだ言えないが、音も振動も確実に前期型より抑えられている。

ロールス・ロイス史上初めて幻影や幽霊ではなく現実に存在するもの、すなわち英王室が所有するという世界最大のダイヤモンドの名前を付けられたカリナンは、確実にこのブランドの血を受け継ぎながら新しい世界を切り開いている。その出来映えに、私は素直に脱帽した。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ロールス・ロイス・モーター・カーズ

■ロールス・ロイス・カリナン・シリーズII(ブラックバッジ)
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 5355×2000×1835mm
ホイールベース 3295mm
車両重量 2725kg
エンジン形式 直噴V型12気筒DOHCツインターボ
排気量 6750cc
最高出力 571ps/5000-6000rpm(600ps/5250-5750rpm)
最大トルク 850Nm/1600-4250rpm(900Nm/1700-4000rpm)
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エア・スプリング
サスペンション(後) マルチリンク/エア・スプリング
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(試乗車) (前)255/40R23、(後)295/35ZR23
荷室容量/牽引能力 600リッター/2700kg
車両本体価格(税込み) 4645万4040円(5415万4040円)

(ENGIN2024年8月号)

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