2024.08.24

LIFESTYLE

なんと家の真ん中に森がある! 自然を囲むように建てられた総延長80メートルの建築家の自邸 その驚きに満ちた室内とは?

前景。奥に向かって敷地は2m高くなっている。3mせり出した形の2階の窓部は、真南を向く。その上の屋上テラスからの景色は素晴らしい。

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長さ80mの家

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建物を正面から見ると、2階が張り出し、ミニに雨が掛からない庇になっているように見えるが、さにあらず。普段ミニは、ディフェンダーの後の格子扉の奥の屋内に停められている。家の前面からの眺めでは全く想像できないが、伊藤邸は1本のチューブが、中庭の木々をぐるりと取り巻いたような建物。玄関から2階の張り出し部まで、ひと続きの空間が続いている。上の写真の上から見た写真だと、その構造がよく分かるだろう。しかもその長さが、総計80mにも及ぶというから驚きだ。





この普通とは違う家には、ちょっとした逸話がある。長男が4歳の頃、幼稚園で「自宅の絵を描く」という課題があった。そこで実際の家の通り、家の真ん中に森がある絵を描いたところ、事情を知らない新任の先生は、驚いて他の先生に確認したことがあったそうだ。それだけ伊藤邸は、普通の家の概念を超えている。

もっともこの家は、形を優先させて生まれたものではない。伊藤さんは、現在、高崎市PTAの副会長を務める教育熱心な人。伊藤邸は、それまでの建築家としての経験も含めて考えた、子供たちが成長できる家を具現化させたものだ。

あえて居場所を作る

「例えば体育館のような大きな四角い空間だと、落ち着く“居場所”がありません。ところがこの形であれば、家のあちこちに居場所が生まれるんです」(伊藤さん)

そんな伊藤邸が建っているのは、南北で2mの高低差がある土地。チューブ状の家は、途中で30cmずつ床面が高くなって、上階へと続いていく。しかも途中に空間を仕切る壁が存在せず、大きな窓が家の中央の森のような庭に面しているため、床面積以上に広さが感じられる。

沢山の居場所がある家は、空間の使い方もユニークだ。玄関から入ってすぐは、絨毯が敷かれたスペース。ここは洗濯ものを畳んだり、すぐ横のお風呂から出た後に寛いだりするためのエリアだ。その先はタイル敷きで、ピアノが置かれている。ダンスをする長女が練習することの多い場所で、壁収納の扉を開けると、鏡が現れる。

さらにその先は、ダイニング・キッチン。大きなテーブルは、普段から家族が集まる交流の場でもあり、勉強や仕事をするのにも使われている。このダイニングの隣には、2階に続く2本の階段があり、1本の階段の先は畳の敷かれた眺めの良い部屋。もうひとつの階段は、子供たちの机が置かれた空間につながっている。





伊藤邸にはベッドは置かれておらず、家族は自分の好きな場所に布団を敷いて眠ってよいというルールがある。そう聞くと各人が気ままに行動しているようだが、「家族仲はかなり良い」と伊藤さんは語る。


家を建てる際、家族で地元群馬産の丸太を選びに行ったことも大事な思い出だ。子供たちは、山に生えている木が柱になることを想像できないでいたので、貴重な学びの機会になった。しかも、子供たちが選んだ丸太に大きな傷があっても、彼らの選択を尊重し、自邸の柱にした。それから10年たったが、その柱に挟まれた大きなガラス窓は、今もスムーズに開閉する。家の各所を、長い付き合いの職人たちが、驚くほど高い技術で仕上げたからだ。

高崎という地方都市にもかかわらず、際立つ個性の伊藤邸は、建築専門誌だけでなく、テレビの取材も何度かあった。唯一無二の存在であるこの家が、多くの人々を惹きつけることを長男は間近に見て育つ。そんな彼は、父親の仕事を誇らしく思っており、将来は同じように建築家になりたいと考えているそうだ。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章



構造:木造 規模:地上2階 敷地面積:426.80平米 建築面積:126.40平米 延床面積:170.83平米 竣工年:2014年 所在地:群馬県高崎市 設計:HIRO建築工房 

■建築家:伊藤昭博 1972年、群馬県高崎市の隣町である前橋市で生まれ、地元を拠点とした建築家になることを早くから志す。10年ほど建築現場の管理を行いつつ、独学で建築を学び、2000年にHIRO建築工房を設立。以来、高崎・前橋を拠点に群馬県内外に、家族が暮らしやすい住宅を設計。


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雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を!

◆「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」の連載一覧はこちら!


(ENGINE2024年8月号)

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