2024.10.13

CARS

【システム解説篇】電気モーターだけでは1mmも走らない! ハイブリッド化された新型ポルシェ911は、カイエンやパナメーラのE-ハイブリッドとどこが違うのか?

システムのキモは電動排気ターボチャージャー!

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電気モーターだけでは1mmたりとも走らない、とはどういうことなのか? T-ハイブリッドのTとは何を意味しているのか? まずはそこから解説しよう。これがハイブリッド911の真実だ。スペインで開かれた国際試乗会からエンジン編集部のムラカミが報告する。

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重量増の抑制とスペースの捻出


「T-ハイブリッド」のTはターボのTだという。ポルシェはすでにカイエンやパナメーラに「E-ハイブリッド」を持っているが、電気モーターだけでも走行できるそれとは、まったく異なるシステムだ。

このシステムのキモは、エンジンの右側後方にひとつだけ備わる電動排気ターボチャージャー(eターボ)にある。内部に小さな電気モーターを持っており、低回転時にはそれを使ってコンプレッサーを回して過給圧を発生させるのをアシストする一方で、回転数が高まり、排気が十分にタービンを回すようになってからは、逆にこれを使って発電して、400Vの高電圧バッテリーに電気を蓄えるか、あるいは8段PDKのギアボックスに組み込まれたもうひとつの電気モーターに直接供給するようになっている。この発想が、かつてル・マンで活躍した919ハイブリッドなどのレーシング・カーからきているというのだ。



eターボはすべての排気エネルギーを過給か発電に効率よく使うからウェイスト・ゲートを持たない。また、電動でコンプレッサーを回すためターボ・ラグも発生しないから、ツインターボにする必要もない。そのeターボの重量は27kg。これまでのGTSのタービンはひとつ14kg、ふたつで28kgだったので、わずか1kgながら軽量化にも繋がっているという。

一方、もうひとつの8段PDKに組み込まれる永久磁石同期式モーターは、アイドリング回転数から最大150 Nmのトルクを発揮して、フラット6エンジンを加勢する。ただし、エンジンと切り離すクラッチを持たないので、この電気モーターだけで走行することはできない。なぜ、できるようにしなかったのかと尋ねたら、このクルマの400Vバッテリーの容量では1kmくらいしか走れないからだ、という答えが返ってきた。

新型GTSの透視図を見ると、新たなT-ハイブリッド・システムの仕組みがよくわかる。260個のセルを持つ400Vのバッテリーはフロントの荷室の後ろのかなり高い位置に置かれ、そこからリアの電気モーターの入った8段PDKのギアボックスと、さらに後部のエンジン上部にオレンジ色のケーブルが繋がっている。

フロントのこれまで12Vバッテリーが置かれていた位置に搭載される400Vリチウム・イオン・バッテリーは、大きさも27kgの重量も従来の12Vとほぼ同じになっており、容量は1.9kWhに過ぎない。これはエンジニアが何度も強調していたことだが、今回のT-ハイブリッドの開発に当たって、もっとも苦労したのは重量増の抑制とスペースの捻出だったという。それを考えると、これ以上大きなバッテリーを搭載する選択肢は初めからなかったはずだ。

260個のセルを持つ400Vのバッテリー

ここから供給される電力はeターボとPDK内のモーターの他に、オプションで装着可能なアクティブ・スタビライザーのPDCCやエアコンのコンプレッサーの稼働にも使われる。とはいえ、ライト類やパワーウインドウなどの電力が必要なので、9cmほどの厚さの超小型12Vリチウム・イオン・バッテリーもリア・シートの裏に備えているのだそうだ。

さて、完全に新設計された3.6リッターフラット6にも触れておこう。実は、スターターには電気モーターが使えるし、コンプレッサーも回す必要がないので、このエンジンには補器類を動かすためのベルトが付いていない。そのおかげで、排気量を拡大しながらも110mmも高さを低くして、電気関係のインバーターなどの補器類を搭載するスペースを上部に捻出することができたという。排気量を拡大したのはeターボとのマッチング上、常に最大効率の空燃比を実現するためで、その結果、エンジンだけで485psと570Nmのパワー&トルクを得ている。

右側に電気モーター付のシングル・ターボを持った新設計のフラット6(中段右)は110mm背が低められ、空いた上部のスペースには電気系統のインバーターやコンバーターなどの機器がズラリと搭載されている。重量増を抑えるのと空間の確保が、最大の課題だったという。

電気モーターも合わせたシステム最大出力は541ps、最大トルクは610 Nm。もはやスーパーカーの領域だ。0- 100km/h加速は3.0秒。先代GTSと信号グランプリを競うと、2.5秒で7mの差がつくという。とにかく出足が速いのだ。さらにニュルブルクリンクのラップ・タイムでも、先代より8.7秒速い7分16秒934を叩き出している。

果たしてその乗り味やいかに。新たに先代GTSのターボが移植されたカレラとともに試乗するのを楽しみにして、この夜は眠りに就いた。◆アスカリ・サーキットではとてつもない速さを見せた新型911カレラGTS。いったいどう速かったのか? 【試乗篇】に続く。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ポルシェA.G.

■ポルシェ911カレラGTS
駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4553×1852×1296mm
ホイールベース 2450mm
車両重量(DIN) 1595kg
エンジン形式 水平対向6気筒電気モーター付ターボ
排気量 3591cc
ボア×ストローク 97.0×81.0mm
最高出力(システム計) 485ps/6500rpm(541ps)
最大トルク(同上) 570Nm/2000-5500rpm(610Nm)
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/315/30ZR21
車両本体価格(税込み) 2254万円

■911カレラ
駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4542×1852×1302mm
ホイールベース 2450mm
車両重量(DIN) 1520kg
エンジン形式 水平対向6気筒ツインターボ
排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4mm
最高出力(システム計) 394ps/6500rpm
最大トルク(同上) 450Nm/2000-5000rpm
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 235/40ZR19/295/35ZR20
車両本体価格(税込み) 1694万円

(ENGINE2024年9・10月号)

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