2024.10.01

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2024年現在に存在する珠玉の一台、ルノー・メガーヌR.S.の最後を飾る限定車、ウルティムを堪能する

ルノー・メガーヌR.S.限定車、「メガーヌR.S.ウルティム」は、現行型の最後を飾る特別仕様車であると同時に、ルノーのモータースポーツ活動を担ってきたルノー・スポールの名を冠する最後の市販車となる記念すべきモデルだ。販売台数はルノー・スポールの創設年にちなんで設定された1976台のみ。この希少なモデルに、モータージャーナリストの齋藤 聡氏が試乗した。

ライバルがいればこそ

私は、シビアな競い合いの中で磨かれてきたクルマが好きだ。それは競い合いという特別な状況が、クルマの性能の進化に弾みをつけるからだ。あるいは性能を研ぎ澄ます必要に迫られ、過剰な性能のパーツを搭載することにもつながる。競い合うライバルがいれば、通常では俎上に載らない高価な装備の採用が検討されることになる。

4輪操舵のおかげで、5.2mという最小回転半径を実現。

ルノー・スポール、そして現行型ルノー・メガーヌR.S.の最後を飾る世界限定1976台の特別モデル、メガーヌR.S.ウルティムの詳しい情報はコチラ

最後のルノー・スポール

メガーヌR.S.は、まさにそんな競い合いの中で磨かれ作り込まれてきたクルマだ。そして競い合いを支えてきたルノー・スポールがその活動をアルピーヌへ移行したことにともない、いよいよ終焉を迎えることになった。メガーヌR.S.ウルティムはその歴史の最後を飾る限定モデルだ。

ブラックを基調に、シルバーのラインを組み合わせたスポーティなインパネ。

最初に目についたのはブレーキ・ローター

ウルティムで最初に目についたのは、逆ハットタイプのブレーキ・ローターだった。分厚い大径のベンチレーテッド・ディスクは今や一般化した装備だが、逆ハットタイプは珍しい。ローターの熱倒れ現象に強く、耐ジャダー性能も高くなる。何より冷却性に優れているのでパッドの性能を引き出しやすい。機能性を重視した本気の装備と言っていい。

履いているホイール&タイヤもスペシャルだ。ホイールはアロイホイールFuji Light(フジライト)で、フローフォーミング製法で成形された鋳造のアルミ製。鍛造ホイールに迫る剛性を備えつつ、メースモデルとなったメガーヌR.S.トロフィーのホイールに比べ2㎏/本も軽量化されている。

タイヤはブリヂストンのポテンザS007。メガーヌR.S.専用設計であることを示すR.S.の刻印付き。メガーヌR.S.トロフィーRで前輪駆動車(FF)によるニュルブルクリンク北コースのレコードタイムを打ち立てた時に装着していた超ハイグリップ・タイヤだ。

メガーヌR.S.ウルティムはブラックの「フジライト」製ホイールを装着。トロフィー用よりも1本当たり2kgも軽い。

タイヤの性能を引き出すサスペンション

当然ハイグリップ・タイヤの性能を引き出すにはサスペンションとのマッチングが重要。ウルティムにはシャシー・カップと呼ばれるサーキット走行まで見据えたサスペンション・セッティングが採用されている。

さらにマニアックなところではフロントのディファレンシャルに搭載されているトルセンLSD(トルセンB)のトルクバイアス比の設定も興味深い。FF車はトルクバイアス比を高めるとトルクステアが強く出るので、一般的には1.8~2.2対1くらいで使われることが多いが、ウルティムでは2.6と高めに設定。メガーヌR.S.はトルクステアを緩和する機能を持ったダブル・アクシス・ストラット・サスペンション(DASS)を採用している。このDASSでトルクステアを緩和しながら、トルクバイアス比をFFとしては限界近くまで高めトラクションを稼いでいるのだ。とはいうものの、じつはけっこうトルクステアは出る。

メガーヌR.S.ウルティムはメガーヌR.S.トロフィーと同じリクライニング機構を持つレカロ製のバケット・シートを装着。シート表皮もトロフィーと同じアルカンタラ製。

最速のFFをダイレクトに実感

そもそも1.8リッター直4ターボのパワーユニットからして手が込んでいる。過給器にセラミック・ボールベアリング・ターボを採用しており、フリクションの少なさとレスポンスの良さを売りにした高性能ターボが採用されているのだ。

アクセル・ペダルを踏み込んだ瞬間に“ぶわっ”とトルクが膨らみ、強烈な加速が体を前に前にと押し出す感覚は、300ps/420Nmの出力を発揮する最速の量産FFをダイレクトに実感できる瞬間だ。

1.8リッター直4ターボ・エンジンに変更はない。最高出力は300ps、最大トルクは6EDCが420Nm、6段MTが400Nmとなっている。

最大の美点は乗りやすさ

こんなふうに書き連ねていくと、よっぽど癖が強く手ごわいクルマなのか? と思われるかもしれないが、実際には驚くほど乗り心地が良いし、操縦性に癖がない。

メガーヌR.S.ウルティムの最大の美点は乗りやすさにあると思う。例えばエンジンは確かにパワフルだが、パワーやトルクをまき散らすように発揮するわけではなく、緻密にコントロールされている感触が強い。

4コントロールは、60km/h未満では逆位相にすることで小回り性や回頭性を高め、60km/h以上では同位相となり車両の安定性を高める。ただし、「レース」モードではその速度が100km/hに高まる。

4つのモードを持つR.S..ドライブ

メガーヌR.S.には「R.S..ドライブ」と呼ばれるドライブ・モード切り替え装置が備わる。モードは、「マイセンス」、「セーブ」、「レギュラー」、「スポーツ」、「レース」の5つ。

特に「レース」モードでは、ドライバーの意図を正確にくみ取って応答してくれる。だからコーナー立ち上がりでアクセレレーターの開度を徐々に深くしていったときに、期待した駆動力、加速性能を意図とおりに発揮してくれるのだ。パワーもトルクも強力なのに、それを持て余さない。

レース以外のモードのセッティングも興味深い。

「セーブ」は文字どおりエコ・モードだが、鈍さはなく、単純にアクセレレーターに対する応答がスローな味付け。急がないときにちょうどいいモード。

「レギュラー」は街中をごくごく普通に走るのに適したモード。積極的に運転しようという意識があまりないときにしっくりくる。

「スポーツ」は心地よく山道を走るのに適したモードだ。

「レース」はフォーミュラとともにサーキットのスタンド前を疾走。

ドライバーに寄り添ってくれる

それぞれのモードの差別化でポイントになっているのは応答速度の設定だろう。ドライバーがどのような性能を要求しているのかによって、それに見合ったクルマ側の応答速度が巧みにプログラムされている。感覚的には、クルマがドライバーに寄り添ってくれるようなシンクロ感が強い。

それは、クルマの動きのすべてにわたって押し付けがましいところがないことにもつながっている。例えば4輪操舵機能の「4コントロール」に関しても、山道を様々なスピードで走らせてみたが、どの速度域でも、どのモードでも違和感がない。レギュラーで走れば、タイトコーナーで軽快な旋回感があり、中高速コーナーではリアに安心感に似た安定感が増す。スポーツ・モードやレース・モードになると軽快で機敏にクルマが動き、コーナリング・スピードの上限も高くなる。もちろんクルマがコーナー内側に寄りたがるような悪癖もない。曲がる性能よりも大切な正確なライントレース性もちゃんと実現している。

メガーヌR.S.ウルティムはトロフィー同様、トルセン式LSDを有するが、より駆動力を伝えやすい設定に仕様変更されている。

走りの楽しさと奥深さがある

メガーヌR.S.ウルティムに備わる競い合いの中から生まれてきた高性能は、平穏な世界からはなかなか生み出されない。ブレーキもタイヤもホイールも、レスポンスのいいエンジンも、4輪操舵も、DASSも競い合いがあったからこそ採用された装備だ。さらに、それらのパーツの性能を引き出し磨き込むことに競い合いのメリットがある。そして走りの楽しさと奥深さがある。これは一般的な市販車では到達しえない高みにある。

その一方で、ルノー・スポールのテストドライバーであるロラン・ウルゴン氏は、「(シャシー・カップは)サーキット4割、オープンロード(公道)6割」と言っているが、ニュルブルクリンクでタイムアタックするようなモデルでさえ、一般道の比重を重視しているのがいかにもルノーらしい。

いずれにしても、ルノー・メガーヌR.S.ウルティムは、2024年現在に存在する珠玉の一台と言っていい。

メガーヌR.S.ウルティムはホイールやエンブレム、ドア・ハンドルだけでなく、サイド・ウインドウの下部のモールディングもクロームからブラックに変更されている。

文=齋藤 聡 写真=佐藤亮太

(ENGINE WEBオリジナル)

2024年現在に存在する珠玉の一台とモータージャーナリストの齋藤 聡さんが評するルノー・メガーヌR.S.ウルティムの詳しい情報はコチラ

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