2024.12.15

LIFESTYLE

家の中心は、天井高が4mを超えるダイニング・キッチン 下町、墨田区の住宅街でも明るくプライベートが確保できた建築家のアイディアとは?

リビングがモダンで明るい理由は天井の高さにあった。

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吉本ばななの小説で

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設計は、ネットでみつけた建築家、都留理子さんにお願いする。住まいに対する考えを、奥様が好きな吉本ばななの小説『TUGUMI』の一節から引用していて共感したのだ。都留さんとの家作りで印象的だったのが、具体的な家への要望だけでなく、感銘を受けた書籍や映画、旅などについて質問されたこと。その答えから、施主が生活で大切にしていることを探っていくのである。Hさん夫妻は極めて食に関心が高いので、キッチンを中心とした家を作ることに。また、お風呂が大好きなのと、奥様がオープンエアーなタイで生活したことなどから、解放感のあるバスルームを設けることにした。

こうして完成したのが、赤褐色の外壁の、変形六角形の3階建ての家だ。壁の色は、付近の建物や窓から見える電車の色と共通するもの。白い壁と違い、街に溶け込んでいる。建物の六つの角のうち、5個は直角より大きい鈍角。そうすることで隣家の窓と正対することが無いうえ、生まれた隙間の空間から隣家にも光を届けることができるのだ。

玄関ドアを開けると広い土間が。帰宅後すぐに手を洗えるよう、洗面台が設けられている。彫刻のような形をした台は特注品。

間取りも個性的で、まず1階の玄関扉を開けると、ちょっとした広さの土間に迎えられる。マンションにはなかったベビーカーや自転車を置くスペースであり、外から帰った子供が手を洗う場所でもある。1階奥の個室は、週のうち何日かは自宅で働くHさんのオフィス。1階から2階に上る階段は、片側の壁面全てが本棚になっている。

2階にあるのは、この家の中心である、吹き抜けのダイニング・キッチン。炊飯器やレンジなどが収まったカウンターテーブルが置かれ、ハイスツールに掛けて食事ができるようになっている。夜はこのカウンターで、夫婦でワインを楽しむことが多い。このダイニング・キッチンを取り囲むように居室が設けられている。3階も、ロフトを備えた天井の高いワンルームで、2、3階ともに、空間を仕切る扉はない。吹き抜けのキッチンの上は、眺めの良い屋上テラス。テラスに接した浴室からはスカイツリーが見える。

土間の反対側。窓の外は、すぐ隣家。土間を1段上がると2階へと続く階段。右手の奥が、Hさんのオフィス。

階段の片側の壁は、全面本棚。ここに腰掛けて読書もできるよう、カーペットが敷かれている。

子供と出かけることの多いHさん一家にとって、クルマは必需品だ。マンション時代は遠くて不便だった駐車場を、今回は敷地内に確保した。引っ越し当初に乗っていたのは、愛着のあるスバル・フォレスター。ところが下町は道幅も狭く運転しづらいこともあり、今年になって乗り換えた。

新車の選定基準は、サイズとスライド・ドアの存在、2脚分のチャイルドシートの装着のしやすさ、そして何より運転の乗り味である。外国車を含め何台か試乗した末に選んだのは、ホンダ・ステップワゴン(2024年製)。子供を乗せて、片道30分ほどのHさんの実家を、頻繁に訪れている。また、何日か続けて休みが取れる時は、クルマで家族旅行に出かけるのが、自宅で働くことの多いHさんの楽しみのひとつだ。

3.5階の高さにある浴室&水回り。左手のテラスに接して全面ガラスになっている。

下町に建てた理由

そんなHさん一家は、普段は住人の息遣いが感じられる下町の生活を満喫している。「歩いて一分の魚屋は、スーパーと鮮度が違います。安くて美味しい惣菜屋も多く、子育てをしている身には助かる」と奥様。こだわった風呂を作ったが、Hさんは長男を連れて近くの銭湯に「最初の頃は週五回ほど、今でも最低週二回」は出かけている。近所のお年寄りたちが、長男を可愛がってくれるのだ。長男は街の人気者で、道で遊んでいても、色々な人から声を掛けられる。そんな地元の人たちの優しさに触れていると、仕事のストレスも忘れてしまうとHさんは話す。今でも東京に、こんな懐かしい世界が残っているのだ。下町に暮らす良さを教えてくれるH邸であった。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章

■建築家:都留理子(つるりこ)
1971年福岡県生まれ。九州大学工学部建築学科を卒業後、青木淳氏の事務所勤務を経て独立。自身の名前を冠した事務所を主催し、住宅を中心に多くの建築を手掛ける。写真は、初期の代表作である川崎市に建つ自邸で、多くのメデァで紹介された。都留さんの建築に興味を持つ人を対象に、定期的に内覧会も行っている。主婦でもあり、2児の子供の母親でもある。母親になってから、家族や子供たちにとって「家」が心の拠り所になるよう、強く意識するようになった。


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(ENGINE2025年1月号)

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