2025.07.18

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フィリップスの時計オークションで、アンティークウォッチのロマンを愉しむ こんなに素敵で面白い世界があったとは!

ミュージアム・クオリティのユニバーサル・ジュネーブ。予想価格をはるかに超える金額で落札された。

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最近は、品不足などもの影響もあって現行モデルの価格が高騰していることから、コンディションのいい中古品やアンティークが揃うオークションに注目が集まっているという話をご存知だろうか。

なかでもフィリップスの時計オークションは、出品される時計の価値や質はもちろん、オークショニアとしての信頼性が高く評価されており、とても人気がある。





そんなフィリップスが昨年開催した日本をテーマにしたオークション「TOKI-刻-」は、日本の習慣や美意識に根ざした個性的な逸品がリストに並び、世界中のコレクターやマニアはもちろん、多くの時計ファンが注目するなか、大成功したことは記憶に新しい。

なかでもこのオークションで紹介された1980年代に日本の機械式時計のブームの立役者となった当時のディーラーやバイヤーの活躍は、日本を飛び出した若者がやがて時計ビジネスに目覚め、世界でも一目置かれる存在となっていく冒険譚として深く印象に残っている。

そして今回、その「TOKI-刻-」の続篇、あるいはスピンオフとも言えるような大変興味深いオークションが香港で開催された。



そこに並んだのは、「TOKI-刻-」でも取り上げられたいまは亡き時計ディーラー、益井俊雄氏の貴重なコレクションだ。日本の今日の機械式時計のブームをつくったひとりと言われる伝説のバイヤーは、かつてどんな時計を求めて世界を渡り歩いていたのか。

益井氏が時計に興味を持つようになったのは、フリーマーケットで買った80ドルの一本のブローバだったという。31歳の益井氏が貿易の仕事を志してロサンゼルスに渡ったのは1981年のことだ。時給4ドルで皿洗いの仕事をしていた益井青年がこのアンティークのブローバを手にしたのは、まさに運命だった。



このブローバを腕にしていると「いい時計をしてるわね」とウエイトレスに褒められたことを、後に益井氏は自著で明かしている。「いい時計には価値がある」ことを気づかされたのはこのときだった。

休日にフリーマーケット詣でを続け、たくさんの時計を鞄に詰めて帰国すると、かき集めた50本以上のアメリカンウォッチは瞬く間に完売した。

この資金を元にさらにアンティークウォッチを買い求め、やがて高級時計を扱うようになっていく顛末は、後に故郷の島根につくった私設の時計ミュージアム、「ウォッチ・ミュージアム・ヴォガ」の収蔵品を一冊にまとめた『ウォッチ・ミュージアム・ヴォガ・アンティークコレクション』(シーズ・ファクトリー刊)に詳しい。



そして今回、香港のオークションに出品された時計こそが、まさに益井氏が生涯をかけて集めた「ウォッチ・ミュージアム・ヴォガ」の約800本のコレクションのなかから選ばれた非常に珍しい時計たちだったというわけだ。

実は、これまでに数多くのアンティークウォッチを扱ってきた普段は冷静なフィリップスのメンバーたちも、今回の出品リストのヴォガ・コレクションのユニークな視点と希少性に大興奮したという。

時計ツウをも唸らせたその出品リストのなかから、ここではENGINE Webの時計ファンのために特別な5本を紹介する。

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最初に紹介するのは驚くべき保存状態のモバードのクロノグラフだ。

1930年代の名作ビンテージクロノグラフ

■モバード 19006モデル テンポグラフ(ロットNo.861)
■落札価格 336万9310円(177.800香港ドル)



文字盤に希少な立体成形されたブレゲ数字、外周にブルーのタキメーター、中央にもテレメータースケールを備えた古典的な意匠に非常に重厚感のある12時間表示のベゼルの組み合わせは独特の存在感がある。

非常に保存状態のいい、1930年代のモバードの名作クロノグラフであり、経年劣化を受けやすいケースの構造上、これほど優れたコンディションの文字盤のものを見つけることは難しい。



ケースバックの内側にある「SUISSE」の刻印は、この時計がフランスで販売するために輸出されたことを示している。

次の一本も同じく1930年代の珍しいクロノグラフだ。

2段構造のレアな文字盤が希少なコンプール

■ユニバーサルジュネーブ コンプール コロニアル(ロットNo.862)
■落札価格 1299万5910円(685.800香港ドル)



1983年製の非常に希少な初期のエンバースチール製のクロノグラフ。2つのプッシャーとダブルコラムホイールを備えたこの初代コンプール・クロノグラフは、1934年のバーゼル・ワールド博覧会でデビューした。このコンプールが珍しいのは文字盤が二重構造になっていることで、黒で描かれたレジスターとアワーマーカーは文字盤に立体的な奥行きを持たせるために一段下がった層に描かれている。1980年代なかばに製造されたコンプールでこうした仕様はほとんど出回っていないことから、非常に珍しい個体と言える。



コレクターにとっては見逃せない一本ということもあり、売値が査定額を大幅に上回ることになった。

益井氏のコレクションが興味深いのは市場では見かけることがまずないレアモデルが多いことだ。偶然入手したものがほとんどだと言うが、益井氏には主流ではないもの、イレギュラーなものを面白がる独特の嗅覚があったような気がしてならない。

一方、次の1925万の値をつけたロレックスのような場合は、セールの開催前にバイヤーをホテルのロビーで待ち伏せし、ライバルたちを出し抜いて商談することもあったという。しかもその場合は言い値で買うことで後々の信頼関係を築いて行ったと言うから益井氏の情熱には驚くばかりだ。

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希少性が極めて高い14Kイエローゴールドのプレ・デイトナ

■ロレックス プレ・デイトナ(ロットNo.914)
■落札価格 1925万3200円(1.016.000香港ドル)



このRef.6238のロレックスは、最後に製造されたオイスター・クロノグラフで、通称プレ・デイトナと呼ばれている。タキメーターベゼルに移行する前のスムーズなベルゼルが特徴だ。このプレ・デイトナにはSSケースとこの14Kイエローゴールドが存在するが、製造された大部分はSSケースでイエローゴルドは極端に少ない。



イエローゴールドモデルは北米向けに限られていたとされており、さらにヴォガ・コレクションのこのプレ・デイトナにはスイス製の14Kイエローゴールドのブレスレットが装着されていた。米国製のブレスレットのものも存在することからこのプレ・デイトナがより希少性が高いことがわかる。ここまでコンディションのいいものは滅多にない。

希少な黒文字盤のトリプルカレンダー

■ジャガー・ルクルト トリプルカレンダー(ロットNo.010)
■落札価格 168万4655円(88.900香港ドル)



この1940年代頃に製造されたジャガー・ルクルトが得意とした複雑カレンダーのモデルも、その実用性の高さと美しいデザインで人気がある。思わず惹きつけられるのはやはりラグのデザインだろう。ティアドロップ型のラグケースとこの黒文字盤の組み合わせは珍しく、18Kイエローゴールドとのコントラストがデザインの美しさをさらに引き立てている。もちろんコンディションは素晴らしい。



売れ筋のミリタリーウォッチもたくさん買ったと言う益井氏だが、そのなかには次の一本のような現在では非常に珍しい出自のモデルもあった。益井氏の元にはあらゆる珍しい時計が持ち込まれていたのではないかと想像すると、思わずワクワクしてくるから不思議だ。

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行方不明になった数百本のうちの1本

■トルネク・レイヴィル Ref.TR-900(ロットNo.1036)
■落札価格 1299万5910円(685.800香港ドル)



かつて世界中の海軍部隊が使用したミリタリーウォッチの代表と言えばブランパンのフィフティ・ファゾムスだろう。ただし、このモデルが製造された1950年代当時、アメリカ海軍は連邦政府の調達品は国内製造品に限ると言う1933年のバイアメリカン法により、ブランパン製の時計を直接注文することができなかった。



その難題をクリアするために当時ダイアモンドのディーラーだったアレン・V・トルネクがアメリア国内に試験場をつくり、ブランパンの時計を国内で試験・認証することで軍が採用できるようにしたという。1964年に最初に780個が納品され、後に300個が追加された。つまりミリタリー時計ブランド、トルネク・レイヴィルはアメリカ版のブランパンだったというわけだ。



が、興味深いのは使用後も政府が厳密に管理し、蛍光塗料が放射製物質だったため低レベル核廃棄物としてコンクリート詰めにして海洋廃棄したとされていることだ。

しかし、実際には軍に返却されなかった個体があった。シリアルナンバーからこのコレクションが最初に納品されたうちの一本であることがわかっている。ミリタリーウォッチのコレクターには驚きの時計である。



益井氏が生涯をかけて蒐集し、ミュージアムの所蔵品とした時計は800本を超えた。いまそのなかから何本かがオークションに出品されるようになっている。

フィリップスは今回の香港のオークションでヴォガ・コレクションにスポットを当てることで、益井氏の時計ディーラーとしての慧眼の凄さ、そしてなによりも時計愛の奥深さをオークションをとおしておしえてくれている。

アンティークウォッチの世界は面白い。ぜひ一度覗いてみることをお勧めしたい。

文=塩澤則浩 写真=フィリップスほか

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※落札価格は、1香港ドルは18.95円として計算

(ENGINE Web オリジナル)


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