【全3回の3回目】
ウラカンの後継モデルであり、レヴエルトに続くランボルギーニ・テメラリオのステアリングをついに握る日がやってきた。舞台はポルトガル・リスボン近郊にあるエストリル・サーキット。今回の国際試乗会には、CEOのステファン・ヴィンケルマン氏をはじめ、各部門の責任者たちも勢揃いし、彼らへの取材の機会も得ることができた。
第3回目のデザイナー篇では、デザイン部門統括責任者ミティア・ボルケルト氏によるワークショップに参加し、テメラリオの造形に込められた想いをお届けする。
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第2回目のエンジニア篇【ホンダS2000がくれた“走りの刺激”! 開発者が明かした新型テメラリオ高回転V8と日本車スピリット】では、新型テメラリオがなぜV8ツインターボで1万回転を目指したのかと開発者が開発哲学の原点として語ったホンダS2000への想いを聞いた。
テメラリオのデザインを貫く“ヘキサゴンの言語”
「アドレナリンに形を与える」
ピットガレージの奥に展示されたジャッロ・クンタッチ(注:ボディカラーのひとつ)のテメラリオを背に、ランボルギーニ・デザイン部門責任者ミティア・ボルケルト氏は笑顔で語り始めた。
「テメラリオは、レヴエルトの“若くて反逆的な妹”なんです。もっとコンパクトでもっと自由。軽快で、ドライビングプレジャーに溢れた存在として企画しました」
その言葉どおり、テメラリオはランボルギーニのデザインDNAにおいて明確な進化点を示している。重厚感よりも軽快さを、劇的さよりも本質を。ボルケルト氏が提唱する新たなキーワードは「エッセンシャル & アイコニック」。必要最小限の線で、本質を際立たせ、なおかつ誰が見てもひと目でランボルギーニと認識できるスタイリングを目指したという。


テメラリオのスタイリングは宇宙船から着想を得ており、シャークノーズとショートオーバーハング、引き締まったプロポーションを持つ。
全長4706mm、全幅1996mmというスーパーカーとしてはややコンパクトなサイズに、空力性能と彫刻的造形のバランスが見事に落とし込まれている。特にリア・エンドは、筋肉質なアスリートの背中のように引き締まり、見る者に圧倒的な動的存在感を与える。
「私はこのデザインを“音楽”のようだと思っているんです」とボルケルト氏は続ける。
「クルマのまわりを取り囲むヘキサゴン(六角形)は、それぞれが“ビート”のように連なって、リズムを奏でている。見る者の目にそのリズムが自然と流れ込むように」

実際、テメラリオには内外装問わずヘキサゴン・モチーフが無数に配されている。新しく導入されたヘキサゴン型のデイタイム・ランニングライトをはじめ、リアのエキゾースト形状、エアベントやインテリアのスイッチ類、そして空力デバイスに至るまで、幾何学的なモチーフがビートのように反復され、リズムを刻んでいるのだ。
「私たちはこのパターンを、ただの装飾ではなく“言語”として使っています。形のリズムで感情に働きかける。それこそがランボルギーニのデザインが目指すところなんです」
そう語るボルケルト氏の言葉からは、単なるスタイリングではなく、「感情そのものを造形に落とし込む」という意思が感じられる。
そして、この“六角形の言語”は、単なる視覚的なアイコンにとどまらず、空力・冷却・軽量化といった性能面にも密接に関わっている。
たとえば、フロントに備わる六角形のデイタイム・ランニングライトは、ただの照明ではない。その内部には空気を通すダクトが組み込まれており、前方ブレーキの冷却性能を高めると同時に、ライト下部に設けられたエアチャネルと連携してダウンフォースの発生にも寄与している。
さらに、リアに配置されたテールランプも機能性を備えている。こちらも六角形のデザインを採用しながら、内部に空気の通り道を設けることで、エンジンルームの放熱や空力効率の向上を図っているのだ。
つまり、テメラリオのヘキサゴン・デザインは、単なる装飾やブランドの記号ではなく、全体の性能を支える機能的モチーフとして貫かれているのである。
