2025.08.24

LIFESTYLE

元祖ベラボー、岡本太郎が万博イヤーに復活! 特撮「大長編 タローマン万博大爆発」を観てきた

話題作「大長編 タローマン万博大爆発」は、1970年の世界観、完璧なチープ感に圧倒される!

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NHK Eテレでブレイクしたタローマンがスクリーンで爆発! 高度成長真っただ中の1970年、希望あふれる未来のはずだった2025年を舞台に、岡本太郎ワールドに取り込まれてみた。

パリ留学から斜め上の絵世界へひとっ飛び

芸術には、どんなに背伸びをしようと理解が追い付かない領域がある。さしずめ岡本太郎はその代表格だろう。1911年生まれ、幼い頃からの画才をフランス留学中に開花させたあたりはこの時期の裕福な美術エリートの路線だったが、パリで仲良くなった相手が抽象画家のピート・モンドリアンとワシリー・カンディンスキー、民俗学者のマルセル・モース、哲学者のジョルジュ・バタイユといったクセもの(あくまで褒め言葉)の影響が大きかったのか、常人ではフォローし切れないフェーズへと進んだ。余談だが、ロバート・キャパの公私におけるパートナーで写真家のゲルダ・タローは、岡本太郎との交流から活動する際の通称名に採用したとのこと。

そして戦後間もない1947年、「絵画の石器時代は終わった。新しい芸術は岡本太郎から始まる」と新聞で宣言し、日本の画壇に抗する狼煙を上げた。アヴァンギャルド傾向に加え、縄文式土器に目覚めたころから、よりプリミティブ(原始的)な作風となった。
いかに斬新だったとはいえ、ここあたりまでなら美術界の異端児でとどまっていただろう。契機となったのは他でもない、1970年大阪万博の「太陽の塔」。現在放送中の大河ドラマではないが、「ベラボーなものをつくってやる」とあの巨大なモニュメントをデザインする。

実際に万博まで誰も見たことがなかったし、それ以降もこれほどインパクトのあるものはなく、「70年大阪万博」を象徴するアイコンとなった。岡本太郎の名は一挙に全国区に駆け上がり、その後もテレビでのサービス精神と個性あふれるトークもあって90年代になってもタレントのような知名度を誇った。

1996年に逝去した後も存在感は変わらないどころか、55年振りの大阪万博もあり、岡本太郎の名は数年前から少しずつトレンドワードになっていた。きっかけとなったのは他でもない、NHK教育テレビジョン(Eテレ)で放送された1話5分の「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」だ。

「1970年代に放送された特撮ヒーロー番組」と銘打たれ、アナログ感あふれるレトロな世界観がSNSを中心に大きな盛り上がりを見せた。そうした勢いに乗って、ついに長編映画として銀幕に登場。

つくりこまれた1970年の世界観、完璧なチープ感に圧倒される

いささか前置きが長くなった。これからが初日に映画「大長編 タローマン万博大爆発」を観た感想。

舞台は1970年と2025年の万博。ただし2025年は令和7年ではなく昭和100年、70年の頃に夢見ていた明るい未来で、今風に言えばもうひとつの世界線、あるいはマーベル流にマルチバースか。

大きな盛り上がりを見せていた70年万博会場に、突如2025年の未来から万博を消滅せんと奇獣たちが襲来する。迎え撃つのはCBG(地球ぼうえい軍)、そしてタローマン! 昭和100年の未来へと向かい、味方となった未来人とともに戦う・・・というのが大まかなプロット。

テレビで展開されていたシュールでキッチュなヴィジュアルはさらに徹底されていた。もちろん、ベースとなっているのは岡本太郎ワールド。そもそもタローマン自体、顔は顔は「若い太陽の塔」、体が「太陽の塔」だ。前者はマイナーだが、「太陽の塔」の弟分とされる像。

出てくる奇獣も「地底の太陽」、「明日の神話」、「エラン」や「火の接吻」といった岡本作品がモチーフになっている。もちろん、本家「太陽の塔」もクライマックスで大活躍。さらに「がんばれ!」と応援されると途端に投げやりになる、呼ばれなければ来るwと言ったタローマンのキャラは、天邪鬼だった本人の性格を踏まえた設定だろう。

権威的なものに反抗し続け、「芸術は爆発だ!」と叫んだ作者が生きていれば、こうした改変は冒涜どころか快挙とうれしく思ったに違いない。ところどころナレーションで引用される“岡本太郎語録”も含蓄に富む。ストーリーへの細かなツッコミは野暮、頭を空っぽにしてひたすら身を委ねるしかない。

監督の藤井亮は1979年生まれ。美大出身らしく、監督・脚本はもちろんのこと、アニメーションからキャラデザイン、背景製作まで担ったらしい。先の万博はもちろん、70年代をほとんど知らないことを考えると、その徹底した再現力には驚く。

ウルトラマンやアイアンキングといった70年代円谷プロの特撮ドラマへの引用も、50代以上のツボにハマるだろう。半面、長編作品としてこの世界観にフィットできるかどうかで観客を選ぶ映画ともいえそうだ。





映画を観た都内某所の映画館では、上映回によってはソールドアウトになっていた。早々に売り切れた記念グッズもちらほら。何より同じようにコーナーを撮影した際、隣にいた人が「僕はこれから観るんです。あ、結末は言わないでくださいね」と本当に楽しみにしているのが印象的だった。

岡本太郎にはおそらく誰も追いつけない。成長も効率も蹴散らかすアウトサイダーの存在自体、タイパ、コスパ一辺倒の今だからこそ意義のある「でたらめ」な起爆剤だ。

文=酒向充英(KATANA)

■大長編 タローマン万博大爆発

105分。配給:アスミック・エース

(ENGINE Webオリジナル)

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