24年の時を経て、今年9月に復活したホンダ・プレリュード。その開発責任者、山上智行さんと車体設計責任者、齋藤智史さんに、令和に蘇ったデートカーの開発エピソードを聞いた。
プレリュード復活プロジェクトではなかった!?
荒井 24年振りの登場となった6代目ホンダ・プレリュード。ここでは開発責任者の山上智行さんと車体設計責任者の齋藤智史さんをお迎えして、令和に蘇ったホンダ・プレリュードの真髄を浮き彫りにしたいと思います。
村上 単刀直入に伺います。なぜ、いまプレリュード復活なんですか?
山上 単刀直入にはなかなかお答えしにくいんですけど(笑)。実はプレリュード復活プロジェクトで開発がスタートしたわけではないんです。ホンダはお客様の欲求の本質というか、本能と言ったら言い過ぎかもしれませんが、そういうものを掘り起こしてきた会社だと思っています。これから本格的にカーボン・ニュートラルな時代が来るわけですが、そこをリードするようなクルマを作りたかった。それが開発のきっかけでした。
クルマはデザイン、そして走ってナンボのものですから、デザインとダイナミクスがマッチしたものにしたい。加えて、クルマに乗るということは特別な時間を過ごすということですから、それをどんどん昇華するということを進めていきました。
すると、これはかつてプレリュードが代々やってきたことなのではないか? 歴代のプレリュードとイメージが重なっていきました。開発全体の流れが醸成されてくると、このクルマはプレリュードという名前がふさわしいのではないか? という雰囲気になっていきました。
村上 なるほど。最初はプレリュードという名前ではなくて、あくまでもハイブリッド・スポーツをクーペのカタチで出そうと。
山上 そうです。しかも早く出そうと。
村上 それはいつ頃から始まったんですか?
山上 メディアに対して発信したのは2年前です。2023年のジャパン・モビリティ・ショーのときにコンセプト・モデルを出しました。ですから、その少し前からということになります。



ハイブリッド・スポーツ
村上 いま、ハイブリッド・スポーツのクーペを出すという動きはどうして生まれたんですか?
山上 そういうことはずっと考えているんですよ(笑)。世の中の経済状況、法規制や会社の戦略、さらに技術のサイクルというものがあって、さまざまな要因のタイミングが合わないとスポーツ・モデルを世に出すのは難しいんです。今回は様々なタイミングが重なってスポーツ・モデルを出そうという機運が高まりました。
齋藤 われわれがお客様にどう思われているか? ということもあったと思います。昔のホンダはもっとチャレンジングだったという声があり、悔しいという経営陣の思いもあったはずです。
村上 開発を進めているうちに、これはプレリュードという名前が相応しいんじゃないの? と言い始めたのはどなたなんですか?
山上 誰がいつというのはないですね。ただ、開発を進めていくには社内の承認が必要になります。承認する社内の役員もプレリュード世代でしたので、共感を得ることができました。
村上 山上さんにとって思い出深いプレリュードは何代目ですか?
山上 2代目の中古を友人が就職したタイミングで買ったのを覚えています。むしろアーカイブ映像の印象が強いですね。コマーシャルとか。
村上 ボレロのテーマで登場した赤いプレリュード。
山上 2代目ですね。プレリュードを買った友人に早く彼女が出来たのは羨ましかった(笑)。

荒井 齋藤さんはプレリュードに対してどんな思いがありますか?
齋藤 ちょうどホンダに入社したときがプレリュードの販売が終了するというタイミングでした。私は小さい頃からF1が好きで、4代目のプレリュードはセナがCMに出ていたんです。それは鮮明に覚えています。
荒井 4代目が出たのは1991年ですね。
齋藤 MP4/6がマクラーレン・ホンダで最後の優勝を飾った年です。
村上 4代目はスポーツ方向に振ったモデルでした。

荒井 ムラカミさんは?
村上 僕は大学に入ったときがちょうど2代目プレリュードが出た頃で、デートカーとして一番人気でした。とにかく僕らの世代はクルマがないと女の子にモテなかった。クルマはデートするためのマスト・アイテムだったんです。そのなかでもプレリュードはトランプに例えるなら一番強いカードでした。
荒井 私は初代なんです。大学の先輩が購入して、ものすごく自慢されたのを覚えています。FFで室内が広いことと、電動サンルーフに驚きました。当時、クルマで出掛けるときは父の地味なセダンを借りるしかない私にとって、先輩のプレリュードはとてもパーソナルな感じがして羨ましかった。

山上 社内でもプレリュードの話になると誰が乗っていたとか、あそこがカッコ良かったなどと、世代によっていろいろな話が出ます。今回も歴史の見直しは当然ありました。ただし、プレリュード復活プロジェクトでスタートしたら、デザイナーもすごく悩んだと思います。今回のデザイナーはそういう世代から離れた若い人だったので、こういうクルマ作りには合っていたのではないでしょうか。
村上 初代は電動サンルーフ、2代目はリトラクタブル・ヘッドライト、3代目は4WSとプレリュードは常にその時代の新感覚というものを取り入れて来ました。
山上 プレリュードはそういう役割を担ってきたのですが、必ずしも技術重視で開発してきたわけではありません。
村上 スポーツカーと言えばFRの縦置きエンジンというイメージが強いですよね。あえて横置きエンジンFFベースのスポーツカーを作ることによって、室内空間がゆったりしていて大人2人が快適に過ごすことができるというのがプレリュードでした。
山上 ホンダのFFパッケージは本当に良く出来ています。今回も走りに関してはFFという言い訳はまったく必要ないと思っています。荷室の使い勝手がいいのもFFパッケージの恩恵です。ホンダはそういうクルマ作りをずっとやってきました。