2025.09.28

CARS

フェラーリはなぜ今“テスタロッサ”? 初BEVはどうなる? 849テスタロッサ日本初公開 独占インタビュー

左側がフェラーリ本社のプロダクト・マーケティング・マネージャーを務めるマルコ・スペッソット氏、右側がフェラーリジャパン代表取締役社長のドナート・ロマニエッロ氏。

全ての画像を見る
849テスタロッサのジャパンプレミアを終えた会場の裏で、フェラーリ・ジャパン代表取締役社長ドナート・ロマニエッロ氏と、本社でプロダクト・マーケティング・マネージャーを務めるマルコ・スペッソット氏を囲んだグループインタビューが行われた。注目の新型車について語る彼らの言葉は、車名の由来から電動化の未来、そして細部の技術に至るまで縦横に広がっていった!


なぜ、いま“テスタロッサ”なのか?

まず話題に上がったのは、そもそも「テスタロッサ」と名づけられた理由だ。

マルコ・スペッソット氏は落ち着きながらも、熱を帯びた口調でこう語った。

「テスタロッサの名は80年代のロードカーを思い起こさせるだけではなく、もっと深い意味を持っています。1955年に開発された最初のテスタロッサ・エンジンは、高性能レーシングユニットの象徴であり、ル・マンなどで数々の勝利を収めました。そして1984年に登場した市販モデルのテスタロッサは、フェラーリ史上もっとも象徴的なモデルのひとつです」

そして新型については言葉を強める。

「今回のモデルが受け継いでいるのは、まず優れたパワートレイン。さらに未来的で力強いデザイン、そしてラインナップの中で最上級のリア・エンジン車であること。この三つの理由から、私たちは“テスタロッサ”の名を選びました」

さらに彼は、フェラーリの命名全般についても触れた。

「新しいクルマの名前には必ず理由があります。SF90ストラダーレはスクーデリア・フェラーリ90周年を祝うものでしたし、今回の849テスタロッサは、2025年に初代テスタロッサ・エンジンが70周年を迎えることに由来しています。最上位モデルでは歴史を祝う名を選び、スポーツラインでは数字やGTBを組み合わせるのが基本。土地の名を冠する場合もあり、それぞれに独自のカテゴリーがあります」




フェラーリの電動化は規制ではなくパフォーマンス

話題は自然とフェラーリの未来へと広がっていく。

「電気モーターの活用は今回の849テスタロッサのような形で続けるのか、それともより踏み込んだ電動化へ進めていくのか?」

スペッソット氏はこの質問がくると思っていたのか、少しニヤリとしながらこう答えた。

「電動化は2013年のラ・フェラーリ以来、私たちにとって重要な位置を占めています。さまざまなモデルで電動技術を取り入れることで、これまでにないパフォーマンスとドライビングの楽しさを実現してきました。将来的にはバッテリー電気自動車(BEV)をラインナップに加えることも決定しており、今年10月には初のBEVプラットフォームについて世界に発表する予定です。ただ、詳細はサプライズにしたいので今はお話しできませんが、確実に実現するということはお約束できます」

電気のみによる走行距離25kmの意図について問われると、彼は手振りを交えてこう続けた。

「大切なのは航続距離ではなく、バッテリーサイズとのバランスです。大容量にすれば距離は延びますが、重量が増せば楽しさとパフォーマンスが損なわれます。今回のバッテリーはシステム総合出力1050馬力を発揮させつつ重量を抑えられる理想的なサイズ。つまり私たちの基準は規制ではなく、あくまでパフォーマンスなのです」

さらに「日本のフェラーリ・ファンはBEVをどう受け止めると思うか」という問いには、ドナート・ロマニエッロ氏がやわらかな笑みを浮かべながらこう語った。

「現時点のフェラーリ・オーナーは、やはりガソリンの匂いを好む方が多いと思います。しかし、まだ実際にクルマをご覧いただいていない段階ですから分かりません」

しかし、その眼差しには、フェラーリ初のBEVでもファンを失望させないという自信が滲んでいた。


日常域にこそ快音を。SF90を超えたサウンドの進化に期待

次に話題はサウンドへ。

「SF90は高回転では素晴らしい一方で、日常域では物足りなさが残った。今回はどう改善されたのか?」

スペッソット氏は質問を待っていたかのように声を弾ませる。

「ご指摘のとおり、SF90は高回転でのサウンドには魅力がありましたが、日常的な走行域ではもう少し楽しさを感じていただける余地がありました。そこで新型では、規制が年々厳しくなる外部騒音の制限をクリアしつつ、エンジン音をできるだけ車内に取り込む工夫を徹底しました。

特に3000〜5000rpmの回転域に焦点を当て、このゾーンでより豊かで迫力あるサウンドを感じられるようにしています。日常のドライブでもフェラーリらしい響きを楽しめるようになっています」


ペダルフィールはどう変わる?新世代ブレーキの秘密

さらに、コアな技術への質問も飛ぶ。

「ブレーキ・バイ・ワイヤは従来の油圧キャリパーとどう違うのか。完全にデカップリングーーつまりブレーキペダルとキャリパーの機械的なつながりをなくして、電子制御だけで作動する仕組みなのか。それともキャリパー自体をモーターで動かす方式なのか?」

スペッソット氏は慎重に言葉を選びながら答えた。

「ペダルと機械的な接続を持たない新しいブレーキ・バイ・ワイヤを導入しています。これは、SF90のものとは異なり、回生ブレーキと緻密に連携しながら自然なペダルフィールを実現しています。さらにこの新型にはABS EVOシステムが加わり、ペダルの反応がより予測しやすくなりました。これらの統合によって、一貫したフィーリングと高い制御性を確保しているのです」

質問の焦点は方式そのものだったが、スペッソット氏の答えは「どう走りが感じられるか」へと自然に広がっていった。つまり彼が強調したのは、構造の違いではなく、ドライバーがペダルを踏んだときに得られる一体感や予測可能なフィーリングこそがフェラーリにとって本質だ、という点だった。




スペッソット氏が語る、忘れられない2つの瞬間とは?

最後に、プロジェクトを率いた中で最も嬉しかった瞬間は何かと問われると、スペッソット氏の表情が和らいだ。

「2つあります。ひとつは数カ月前、フェラーリの関係者と初めてテスト走行を行った時です。彼らが実際にステアリングを握り、“本当に素晴らしいクルマだ”と確認してくれた。その幸せそうな姿を見るのはとても嬉しい瞬間でした。もうひとつは世界初公開の場で“849テスタロッサ”という名前を初めて発表した時です。会場がお客様の興奮でどよめきに包まれた、その瞬間は忘れられません」

そして、日本のクライアントの反応については、ロマニエッロ氏が締めくくる。

「最近のフェラーリは、写真だけでは皆さんなかなかピンと来ないことが多いようですが、実物を目にすると“これはすごいクルマだ”と実感していただけます」

実は、私もそうなのですと笑いながら付け加え続ける。

「しかし、やはり実物を見てこそ真価が分かるもの。きょう夕方には日本のお客様にお披露目しますが、その反応をとても楽しみにしています」

また発表会後、車両本体価格(税込)も発表され、849テスタロッサが 6465万円〜、849テスタロッサ・スパイダーが7027万円〜、アセット・フィオラノ仕様が6629万7000円〜となる。



文=佐藤 玄(ENGINE編集部) 写真=佐藤亮太

(ENGINEWebオリジナル)
タグ:

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement