2025.11.03

CARS

なぜ、GRはラリーに挑戦し続けるのか? ラリー・ジャパン2025開催直前、今年も日本にWRCがやってくる!

11月6日から始まるWRC第13戦ラリー・ジャパン。昨年4日間の観覧者は54万3800人と前年を上回った。

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ハードよりもハート

そもそも、なぜモータースポーツが「もっといいクルマづくり」に繋がるのか? 現在の技術を活用すれば、データだけでクルマを一台開発する事は容易いだろう。しかし、リアルワールドではデータだけで予想できない事がたくさん起きる。そんな“リアル”をモータースポーツという極限の状態で“経験”する事で、人もクルマも鍛えられる。それが豊田氏の「もっといいクルマづくり」のブレない軸になっている。

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そんな「もっといいクルマづくり」は現在、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」と呼ばれている。勘違いしてほしくないが、これはモータースポーツに適したクルマをつくることではなく、その世界で当たり前の「時間軸の速さ」、「結果がすぐに出る」、「その場で解決」といったような仕事に対する感覚を養うことを目的にしている。モータースポーツ界では「スタートラインにクルマを並べるまで最善を尽くす」と言われるが、それを量産車に置き換えると解りやすい。

その結果は? 多くのトヨタ車がスピード感のある進化・熟成を遂げている。つまり、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」は、ハードよりもハートのほうが重要だったという事になる。

2020年にデビューしたGRヤリス。2024年には2ペダルATの8速DATを追加するなどモータースポーツの知見を活かした改良を実施。さらに2025年4月にもDATや脚まわりなどに変更を加えることで更なる進化を遂げている。

そんなモータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりを最も体現したモデルは「GRヤリス」だ。2015年に当時社長だった豊田氏はWRCへの復帰を宣言した。実はこの時、豊田氏の頭の中にはもう一つのプロジェクトがあった。それは「WRCマシンの血を受け継いだスポーツ4WDを創る」だった。しかし、当時のトヨタは1999年にセリカGT-FOURの生産終了以降、スポーツ4WD開発の技術/技能を失っていた。それを短時間で取り戻すための手段が「モータースポーツに学ぶ」だった。

強いクルマづくりは当時WRカーの開発を行なっていたTMR(トミ・マキネン・レーシング)の市販車では考えられない極限の評価に関して鋭いセンサーを持つレーシング/ラリードライバーから学んだ。その上でトヨタのルール/基準を超えた設計、データとドライバーのコメントを紐づけしたテスト方法、その場で直して乗るというスピード感、ドライバーの評価の可視化、生産直前まで止まらないカイゼンなどなど、全てにおいて従来のトヨタの常識を覆す開発手法が取り入れられた。 

また9月には、ダクト付きアルミフードやフロントリップスポイラー、フェンダーダクト、リヤバンパーダクト、燃料タンクアンダーカバー、可変式リヤウイングを追加することで空力性能と冷却性能を向上させるAero performance packageを設定した。

なぜ、そこまでできたか? 豊田氏は「できないからやる、それが挑戦です。そのためにはまず自分たちが変わる必要がありました。今のトヨタができない事は僕もよく解っています。でも、それを可能にするためには? 変えていくしかないですよね」と語る。

そんなGRヤリスは2020年の正式発売後もレースやラリー、ダートトライアル、ジムカーナなど、様々なモータースポーツにおける極限の状態の中で「壊しては直す」を繰り返しながら開発は続けられた。「鍛えた結果は、できるだけ早いタイミングでユーザーに還元すべき」という事で、これまでモータースポーツの世界でトライしてきた事を、市販モデルに全て盛り込んだのが2024年に登場した進化型(24式)である。

その進化はフルモデルチェンジと言っていいほど多岐に亘るが、注目はMTとガチで戦えるAT「8速DAT」の採用だ。2025年のニュルブルクリンク24時間レースではノントラブルで完走。モリゾウ選手は「DATじゃなければ、目標としていた15周を走れなかった」とその高い性能に驚いた。筆者も2024年のTGRラリーチャレンジ沖縄にDATでスポット参戦をしたが、並み居る強豪のMT相手にGRヤリス勢トップの成績を記録している。



ただ、そのGRヤリスの進化はまだまだ止まることはなく、何と1年後の2025年に更なる進化型(25式)が登場。その進化は24式のユーザーである筆者としては複雑だが、その進化の方向性と伸び代は世界の名だたるスポーツモデルで語られるキーワード「最新のモデルが最良のモデル」と同じだと感じた。

11月6日から愛知・岐阜に舞台を移して4年目となるWRCジャパンが開催される。昨年4日間の観覧者は、来場者/イベント広場/沿道応援を含めて54万3800人と前年を上回る結果だったが、今年はより盛り上がりを見せてくれるに違いない。筆者は毎年取材しているが、回を重ねるにつれて来場者の観戦スタイルや楽しみ方に変化が出てきた印象で、カッコよく言えばラリーが文化になり始める兆しがうっすらながら見えた気がする。

そんなWRC直系のパフォーマンスを直感的に味わう事ができるモデルがGRヤリスだ。これまで需要と供給のバランスに課題があり手に入れるのは難儀だったが、生産工場(元町工場GRファクトリー)のリニューアルや様々なカイゼンも相まって、現在は短納期で供給できる体制となっている。つまり、今が“買い時”と言えるだろう。

文=山本シンヤ 写真=TOYOTA GAZOO Racing

(ENGINE2025年12月号)
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