2025.12.08

CARS

“昔からのクルマ好き”も安心せよ!!【ホンダの新生ブルドッグやプレリュード、ヒョンデ・アイオニック5Nに乗れば分かる!】技術の進歩でまだまだ“血湧き肉躍る”楽しいクルマは現れるはず

自動車ジャーナリストの国沢光宏氏は、初代トヨタ・ミライを登場後すぐに購入しラリーに参戦。その頃から電動化はかつてないドライビング・プレジャーを産み出す可能性がある! と感じていたという。

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内燃エンジンの鼓動や、回転数と速度がシンクロする官能性に惚れているクルマ好きは、この先どうしたらいいか? エンジンが好きな世代は、静かで効率の優れた電気自動車やモーターの補助のあるパワートレインでは、寂しく感じたり、物足りなかったりするのではないか? そんなことはない!! 技術の進化によって、そうした喜びを取り戻すことだって十分できるはずだ! と自動車ジャーナリストの国沢光宏氏は考えている。

 ハイブリッドを含む電動車に、乗らざるを得ない日はやってくるが……


2050年のカーボン・ニュートラルを見据えた自動車産業の電動化シフトは、もはや不可逆な流れと言ってよい。



中には「直近の欧州自動車メーカーを見ると電気自動車の開発を凍結している。エンジン車は残る」みたいなことを主張する人がいる。確かに電気自動車の普及は踊り場といった状況ながら、冷静になって考えてみたら、かつてはハイブリッドを否定していた欧州勢が電気自動車に走っただけ。

ガソリンが入手できなくなると思われる2050年までは25年間ある。自動車の寿命を15年と想定すれば、2025年までエンジン車が主流になることなど容易にイメージできる。

ただ、焦ることなどない。例えば現時点で60歳を超えている諸兄なら、生涯、電気自動車に乗らないことだって可能だ。電気自動車が性に合わなければ官能的な純エンジン車を新車で買えるウチに入手すればOK。

一方で燃費規制が一段と厳しくなり、東京都で純エンジン車の新車登録ゼロを目標としている2030年あたりから状況は変わってくるだろう。新車を買おうとすればハイブリッド車かプラグイン・ハイブリッド車、電気自動車から選ばなければならなくなる。もっといえば、毎日の移動手段として使うのなら、大半の事故を回避できる運転補助機能を持つ次世代ADAS(先進運転支援システム)搭載車が、2027年あたりから出てくる。

となればハイブリッドを含む電動車に、乗らざるを得ない日がやってくる。エンジンがもたらす機械的な鼓動や、回転数と速度がシンクロする官能性に魅了されてきた、いわゆる“昔からのクルマ好き”にとって、静かで効率的な電気自動車やハイブリッド車は、時に寂しさや物足りなさを感じさせる存在かもしれない。しかし! 技術は絶えず進歩していく。

ここにきて「電動化は既存のイメージを打ち破り、かつてないドライビング・プレジャーを生み出す可能性を秘めているんじゃないか?」と思わせるクルマが出てきた。



私の中で「もしかしたら?」と思わせてくれたのが2014年に登場した燃料電池車「トヨタ・ミライ」だった。



購入し、ラリーやレース出場にあたり改良し「クルマは音がしなくちゃ!」ということで、吸気音と排気音を出してみた。

燃料電池は大量の空気を吸い(反応に酸素を使う)、吸った分だけの空気を出す。ノーマル車両は防音対策しているのだけれど、そいつをすべて外したのだった。するとどうよ! 独特の吸排気音を出す。吸気音は「キュイーン!」。排気音は「ブシャー!」です。残念ながら音質に変化なし。それでも観戦している人からすれば、無音より1万倍楽しいという評価を頂いた。

まんま“エンジン車”だ! 疑似サウンドと仮想変速ショックが電気自動車の世界を変える!!


そして2024年の「ヒョンデ・アイオニック5N」である。環境車のつまらない点とされる“音と変速の欠如”に対し、スピーカーからエンジンのような擬似音を奏で、さらに8段デュアルクラッチ式自動MTのような仮想的な変速ショックと、回転数のリミットを体感させる「N e-sシフト」機能を搭載。



乗ると“まんまエンジン車”である。従来のスポーツカー好きが求める“運転の儀式”や“フィードバック”を移植してきた。



先行プロトタイプに試乗した2台のホンダのモデルも「運転を楽しむための次世代技術」を採用している。1台は、新世代のミドル・クラス(アコード級をイメージすればいい)とされる「ネクスト・ジェネレーション・ハイブリッド・スタディ・モデル」。



もう1台はジャパン・モビリティ・ショー2025に出展されていた、近未来のスポーツEVを示唆するコンセプト・モデル「ホンダ・スーパー・ワン・プロトタイプ(すでにブルドックと呼ばれている)」である。

アコード・プロトタイプ(仮)に採用されていたのは、単なる移動手段としての機能向上だけでなく、走りの質とエモーショナルな体験ができるパワーユニットだった。



新型の2リットル直噴エンジンと進化したe:HEVシステムを組み合わせ、まるで「高性能エンジン+8段ATに乗っているんじゃないか?」と思わせるスピーカーから出す疑似エンジン音と、変速ショックを演出している。



いっぽうブルドッグこと「ホンダ・スーパー・ワン・プロトタイプ」は、電動化がもたらす可能性を見せてくれる。といっても内容は「ヒョンデ・アイオニック5N」の簡素版。スポーツ・モードを選ぶと、これまたエンジン音と変速感を演出している。“ホンキで遊んでいる度”からすれば「アイオニック5N」に届かないものの(音も変速ショックも小さい)、この手の演出をすることで電気自動車の楽しさが出てくることに驚く。

ホンダの2台に乗って気づいたのは「エンジン車と違い絶対的な速度が低くても十分ワクワクできるかも」ということ。エンジン車の場合、ある程度のパワーと速度がないと楽しめない。そもそも昨今の交通事情や社会環境を考えたら、速度だって出せない。音を出すことだって迷惑になるだけ。でもバーチャルだったらどんな速度域だって存分に楽しめるし、車内だけに限ることで爆音上等!



ホンダの先行プロトタイプと同じようなバーチャル制御を取り入れている新型「プレリュード」の最高出力は184馬力に留まるものの、速度の上昇と共に盛り上がるエンジン音と、多段ギア風のシフトが上手に“速さ”を演出しており、修善寺のサイクル・スポーツ・センターで全開試乗した時は250馬力以上あるスポーツ・エンジン車に乗っているようだった。低い速度域で満足します。

“血湧き肉躍るクルマ”の未来とは?


「フェラーリ849テスタロッサ」などフェラーリのハイブリッドも、モーターを楽しさに使っている。主役はV8ターボ・エンジンながら、変速時のパワーの落ち込みやターボ・ラグをモーターでカバーするという。考えてみたらF1だってル・マンのLMP1だってハイブリッドだ。モーターを速く走らせるためのアイテムとして使っていい。フェラーリの場合、乗ればモーターの存在は感じないでしょうが。



そろそろまとめよう。テスラや中国勢の高性能電気自動車を開発している人たちは若いため「エンジン車の愉しさ」を知らないし、魅力だと思わないのかもしれない。だからこそ0-100km/h加速1.9秒、みたいな絶対的速さを追求し始める。1500馬力とか2000馬力みたいなクルマまで出てきてしまう。常識的に考えれば「そんな性能どうするの?」になります。

一方、エンジン車の歴史を持つ自動車メーカーは、絶対的な性能の追求より「社会性を持たせながら楽しめるクルマ」を目指す方向になってきた。



ヒョンデやホンダが始めたバーチャル技術を使った環境自動車は環境や安全を考えた時の素晴らしい“解”になると思う。“血湧き肉躍るクルマ”は、エンジンの轟音や振動がなければ成り立たない、というのは過去の常識になりつつある?



電動化がもたらす真の価値は、モーターの得意技であるアクセル・レスポンスをドライバーの感情や操作に完璧にシンクロさせる“制御の官能性の追求”にあるんじゃなかろうか。

ホンダがアコードやブルドッグで示唆するように、ヒョンデが証明しているように、楽しさを追求した電動車は、単なる効率を求めた道具ではない。人間が好む操作へのリニアな反応をエンジン以上に実現できる。

低重心化がもたらす異次元のコーナリングGや、強力なトルクが解き放つ新しい加速の快感全てを緻密なデジタル制御で実現した“電子の芸術品”になる可能性すら持つ。クルマ好きが求める“感情を揺さぶる体験”は、電動化時代においても形を変えて生き残るだけでなく、さらに深化すると思えるようになってきた。

そんな時代が2〜3年後にやってくると予想しておく。

文=国沢光宏 写真=国沢光宏(ミライ)/神村 聖(プレリュード)/望月浩彦(ジャパン・モビリティ・ショー)

(ENGINE Webオリジナル)

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