2026.04.01

CARS

4/1施行開始! 自転車新法時代に、クルマ好きに左ハンドル&マニュアルの粋な小型車を推薦する理由とその実例【ヤフオク7万円のシトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#71】

クルマ好きはどうすべきか? 4/1からの道路交通法改正で自転車が追い越せなくなる? 写真は車検で入庫しているエグザンティアの代車、初代ランチア・イプシロンによる合成です。

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まず絶対的な“距離”の問題だ。改正法のもとでは、自転車はより“守られた存在”として路上に存在する。ドライバー側には、当然これまで以上の注意義務が生じる。となれば、自転車との距離をいかに正確に把握し、新たに法律で定められた安全なマージン、原則1mという距離を保ちながら走れるか、それがドライバーの技量の核心になってくる。

左ハンドルならあと10cm、が実感できる


右ハンドル車で左側を走る自転車に並ぶとき、ドライバーの体は車両の右側にある。自転車との距離は、助手席側のピラーの向こう、あるいはミラー越しにしか体感できない。身体感覚と実際の距離の間に、どうしてもズレが生じる。

これまでは良かったが、4/1からの道路交通法改正で自転車が追い越せなくなる?(写真は合成です)

ところが左ハンドルのランチア・イプシロンで左にいる自転車の横を抜けるとき、僕の身体はその自転車のすぐ隣にいる。ドア1枚分のリアルな距離が、皮膚感覚で伝わってくる。極端な話、あと10cm、が数字ではなく肉体として理解できる。これは安全マージンの管理という意味で、決定的に有利だ。



次に“ストップ&ゴー”だ。マニュアルの変速機は、左足がクラッチを、右足がアクセルとブレーキを使い分ける。その組み合わせで、自転車との距離を一定に保ちながら、まるで対話するように速度を自在に操ることができる。オートマチックの“間”も、電動車特有のモーターのやや勝手な“滑走感”も、ここには存在しない。

イプシロンの5段MTは特別に精密なギアボックスではないけれど、車両重量は920kgしかないから、この意思が即座に伝わる感覚が、街中の混雑した交通の中での安心感を別次元に引き上げる。

工事で片側が塞がれた街道を、3台連なって走る自転車と20km/hで併走しながら、僕はこのクルマがどんどん好きになっていく。

左ハンドルでマニュアル・トランスミッション。そして絶対的な車体の小ささに加えて、もうひとつ、初代イプシロンには“品(ひん)”がある、と僕は思う。



ここが案外、見落とされている点だ。同じような左ハンドルのマニュアル・トランスミッションのクルマでも、この“品”があるかどうか、という観点で、お薦めしたくなるクルマがいくつあるだろうか。







たとえば、初代イプシロンと同じく正規導入されなかったが、初代アウディA2はアルミのスペース・フレームで820kgを実現した工業的傑作だ。





並行車輸入車でなければ、プジョー208 GTiバイ・プジョー・スポーツにはラリーの競技車にも通ずる精神性が宿っている。





アバルト500の左ハンドル・モデルも、プジョー同様スポーツ性が同居している。どれも、わかる人にはわかる、という種類のクルマたちである。

だが、イプシロンはそれらとも少し違う。

A2はいわばエンジニアリングの結晶であり、208 GTiとアバルト500はコンペティションの文脈で語られるが、イプシロンにはそういった“看板”がない。あるのは、ランチアという家が長年かけて培ってきた、美意識だけだ。



過剰に主張せず、しかし細部には確かなこだわりがある。色の選び方、インテリアの質感、プロポーションの収まり方……どれをとっても品が良く、嫌みがない。

要するにイプシロンは、“小さいから安っぽくても仕方ない”のではなく“小さくとも気品があって堂々としている”のだ。オリジンであるY10にも、後の2代目や3代目も共通の品はある、と思う。



けれど初代のこの小ささは何よりも路上で効く。

50代のオッサン編集者が乗っていても誰も振り返らないけれど、キビキビと街を行く姿に、わかる人は少しだけ目を細める。都内の路上でそういう経験を、僕はこの2週間で何度かした。

4月1日以降自転車は変わる。……では自動車は?


法律が変わっても、都内の路上の複雑さは変わらない。工事は続く。自転車や電動キックボードはより増える。その中をクルマで走るということの意味が、じわじわと変質しつつある。



僕はエグザンティアが帰ってくるのを待ちながら、この小さなイプシロンに毎日乗り込んで思う。クルマは大きく、技術が新しくなることが単純に安全に繋がるのではない。ドライバーが、自分のすぐ隣にいるひとやものの存在を、正確に、身体で感じられるときに、初めて安全になるのだ、と。

左ハンドルのマニュアル・トランスミッションのクルマがこれからの街中の路上に向いている、というのは逆説でも冗談でもない。右折時の問題や車線変更時の死角などもあるので、できるだけ小さなサイズの、という条件付きだけど、これはまじめな実用論だ。

そしてついでにいえば、とっても楽しい。

■代車のランチア・イプシロンについて
初代モデルはY10の後継として1996年登場。エンリコ・フミアが描いた内外のスタイリングは独自性があり、多彩なカラーリングの設定やアルカンターラを用いた内装は現代の目で見ても新鮮だ。今回の代車は80馬力を発揮する1.2リットル直列4気筒DOHCエンジンと5段MTを搭載した1.2 16V。生産終了から久しいが、中古市場ではいまも数台の個体を見つけられる。大切に乗れば、街中で最強の相棒になる。

文と写真=上田純一郎 写真=ランチア、アウディ、プジョー、アバルト 車両協力=カークラフト

(ENGINE Webオリジナル)

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海外でバスを乗り間違える!? ヤフオク7万円シトロエンの救世主に会えるのか?【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#70】

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エンジン編集部員がヤフオクで買ったシトロエン・エグザンティアの長期リポート!

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