モータージャーナリストの森口さんは還暦を機に2台の小さな乗り物を買った!
全ての画像を見る
新鮮なメカニズムたち現行トゥインゴは日本上陸前にパリ周辺で乗って以降、何度か触れていた。でも自分の手元に置くと、違う思いを抱くようになった。走り慣れた道をドライブするだけでも、RRは全然違う。買い物さえも楽しみにしてくれる。箱根の山では、力に限りがあるので振り回したりはできないが、ターンインの切れ味から立ち上がりのトラクションまで、曲がりのすべてが新鮮だ。
たまに運転する妻も、これまで乗った前輪駆動車との違いは感じている。でもネガティブな面もあって、冬は足元が寒い、夏は後席が熱い、ステアリングの復元力が弱いなどの感想が出てきた。ビニールテープを巻いたセンター・マークは、ラリーに出るためではなく、直進位置をわかりやすくするためのものだ。僕は前輪駆動のコンパクトカーも数多く乗ってきた。だからこそ、同じ日々をRRで過ごすと、こんなにも違う気持ちになれるのかと驚いているし、生産中止の一報を聞いてすぐに決断したのは間違いじゃなかったと、今も思っている。
一方のスーパーカブも、学生時代にアルバイトで乗っていたりしたけれど、やはり自分の手元に置いて使い込んでいくと、そのときはなかった感情が湧き上がってくる。なんといってもパワートレイン、より具体的に言えば、トランスミッションが面白い。スーパーカブは多くのスクーターが用いるCVTではなく、自動遠心クラッチと4段MTを組み合わせた独特の機構を使う。スロットルを戻すとクラッチが切れて、その瞬間に左足でギアを上げ下げするのだが、シフトペダルを踏み込んだ状態でもクラッチが切れるので、その間に中吹かしを入れると、スムーズにシフトダウンできるという奥深さも持つ。
このアクション、やはり遠心クラッチを活用した、シトロエンDSの油圧トランスミッションに近い。クラッチ操作のいらない安楽さと、変速の楽しさを高度に両立した、素晴らしいメカだと思う。少数派になりつつある空冷単気筒エンジンの鼓動も心地よい。水平のシリンダーがレッグシールドで覆われているので、不快なノイズが届かず、まろやかな響きだけが伝わってくる。ほど良く消音されたマフラーからの音色を含めて、日本らしい奥ゆかしさが感じられる。そしてもうひとつ、カブでの走りに味わいを添える要素がある。ご存知の方もいるかもしれないが、ホンダは自転車用補助エンジンに代わる大衆向けの乗り物を開発するにあたり、宗一郎さんと藤澤武夫さんがヨーロッパ視察を行った。女房役から厳しい条件を突きつけられ、宗一郎さんが悩みながら生み出したのがスーパーカブだ。スーパーカブに乗っているとたまに、このエピソードが頭に浮かんできて、それが僕の気持ちをドライブさせる源泉になっている。文=森口将之 写真=神村 聖(ENGINE2024年12月号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
いますぐ登録
会員の方はこちら