2019.05.01

LIFESTYLE

予算が限られたサラリーマンなのに「こんなに有名な建築家に」設計を依頼しても良いのか そんな施主と建築家を繋いだものとは

設計を手掛けたのは、シーラカンスアンドアソシエイツ トウキョウ。

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もっともこれだけ窓が広いと、掃除が大変ではと誰もが思うことだろう。ところが「外側は窓の位置が低いので簡単に掃除ができ、さほど負担にならない」「外は年に2、3回ワイパーを使って洗う程度。内側はあまり汚れないので、殆ど掃除をしない」とか。あとは、たまに生じる冬場の結露を拭き取る程度というのだから、大きな苦労はないようだ。ちなみに、薄いカーテンで外部からの視線を遮ることができるうえ、遮光カーテンも備わっているので部屋を真っ暗にすることも可能である。

全面ガラス張りなので、当然室内からもタイプ3の姿が見える。開放感溢れる板倉邸だが、バスルームはカーテンで囲って使用するとか。十分な湿気の対策も行われている。この間取りは掃除機でバスルームの床まで掃除できて便利、と奥様。

板倉邸のもうひとつの特徴は、「ロ」の字型の大きなワンルームの間取りになっていること。中央部は収納スペースで、あらかじめ採寸した持ちモノがこの部分に上手く隠れるように設計されている。なかでも奥様が見えないようにしたかったのがテレビ。ソファは眺めの良い外側でなく内側を向いており、正面の白い引き戸をずらせばテレビが現れる仕組みである。他の引き戸は、1枚動かせば冷蔵庫や洗濯機、そしてトイレなどが現れるといった具合だ。しかも2枚動かせば、ワンルームの一画を間仕切り、個室を作ることができる。なんとも優れたアイデアである。こうしたシステムを採用した結果、屋外に視線が向かう、広さを感じる家が誕生した。

南と西は民家に、東は柿畑で北は農地に接している。屋根を支える柱と、大きなガラス窓の継ぎ目や、2階の手摺の柱の位置がピタリと合わさる細やかな配慮も。

ついつい家の内部に目が行きがちな板倉邸だが、タイプ3があって初めて完成する外観の意匠も忘れてはいけない。駐車スペースは幅160cmのタイプ3がちょうど収まるサイズ。柱の位置は、扉の開け閉めに干渉せず、しかも切り返し無しで出て行けるよう、工務店で実際にポールを建てて実験して決めた。以前より乗る回数が減ったものの、「フォルクスワーゲンは、古いクルマのパーツも比較的簡単に入手可能なので、できるだけ長く乗っていきたい」と板倉さんは語る。

コスト削減のため、様々な工夫がなされた板倉邸。しかしそうした面より、楽しい住まい方ができるよう、建築家をはじめ関わった人々の知恵と情熱がつぎ込まれたことがよく分かる家だ。願わくば、タイプ3と同じくらい長く、周囲の緑がこのまま残っていたらいいだろうな。そう思ったものである。


文=ジョー スズキ 写真=山下亮一



■建築家:シーラカンスアンドアソシエイツ トウキョウ:建築家原広司のもと、東京大学大学院で学んでいた小嶋一浩(1958-2016)が、同級生らと1986年に設立した建築事務所。その後、東京と名古屋を拠点とするグループ事務所に。明快な思想と哲学に裏打ちされた自由なプランニングは、特に学校建築で際立つ。集合住宅も多い。

■お知らせ:雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」がスタート。第1回配信は、エンジンでも紹介したことのある国際的建築家、窪田勝文さん設計の山口県のミニマリスティックな住宅。必見です!

(ENGINE2018年8月号)

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