2019.05.03

LIFESTYLE

たった1つの窓だけで豊な家が成立する理由 それはあきらめる勇気! ローコストなのに魅力的な家のつくり方とは

シンプルな箱にたったひとつだけの窓で豊な家が成立する理由とは?

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最優先は大きな窓

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この大きな窓を実現させるため、眺望の良い西側に窓を作るのも諦めた。また、玄関に上がり框を設けず、三和土(たたき)がそのまま廊下から寝室に続く構造にした。1階の予備室も、将来必要になったら後で追加すれば済むと、ドアも付けない潔さだ。

一方、大きな窓はペアガラスで、幅は3・4mと巨大なサイズ。ブラインドを開ければ、向かいの公園の緑が目に飛び込んでくる。遊びに来た親戚が、「別荘に来たみたい」と感想を漏らしたのも納得だ。この景色のお陰で、「都市で暮らしているが、田舎のようなのどかさがある」とIさんは話す。しかも公園の木々は落葉樹なので、冬になると葉が落ち、窓は北向きでも室内は十分に明るい。その時期、遠くに高層ビルが見える眺めもなかなかだとか。

I邸の2階は、この大窓を活かす間取りになっている。シーリングファンが回るリビングダイニングは、仕切りのないひとつの大空間。その広々感は、相当なものだ。しかも1階からの階段の手すりは、窓側のリビングと南側のダイニングキッチンを分ける、ちょうどいい目隠しになっている。キッチンの上は洗濯物を干すバルコニー。境となる部分にはガラス窓を採用したので、南からの光も入ってくるうえ、さらに空間的な広がりを感じる。

3階のベランダとの境は、ガラス窓になっており、夜は室内から月が見えることも。3階のルーフテラスの壁にある穴は、物干竿を刺すためのもの。これも建築家の拘りである。


ローコスト住宅にもかかわらず、I邸がけしてそう見えないのは、優先順位をつけた上に、建築家がディテイルにまで拘っているからである。さらに、建築費の中で対応が難しいものの、Iさんたちが強く希望したものは、建て主が建築費とは別の財布で購入して提供する「施主支給」で対応したことも大きい。実は、Iさんの仕事は、オフィスなどのインテリアデザイン。仕事での関係を活かし、安価で入手できるものは自ら調達した。例えば、2階からベランダに続く鉄製の階段も、岩﨑さんたちが設計したが、Iさんの取引先が製作し、建て主が支払ったものである。またセンスの良い施主夫婦が以前から使っていた家具や調度品を、新居に移っても捨てなくて済む設計を建築家は行った。こうしてIさんたちが希望した、シンプルだが優雅な家ができ上ったのである。

優雅さは、クルマ選びの折にも重要だった。6年前に家が完成したと同時にやってきたのは、ランドローバー・レンジローバー4・6HS(2001年型)。SUVの中でも、四駆の王様と呼ばれるレンジローバーの、余分なものは無いが、上品な雰囲気がIさんの好みである。もちろんレンジローバーと暮らすと、「大変なのは最初から分かっていました。ですが、私は凄く便利なものよりも、少々手間のかかることを楽しむたちなので」とIさん。こうした考え方だからこそ、極力無駄を省いた家でも楽しく暮らしていけるのだろう。

さて、予想通り、クルマがやってきてIさんたちの行動半径は広がった。買い物だけでなく、スキーやサーフィンも楽しんでいる。駐めるスペースもあるので、近い将来、トレーラーを手に入れて旅に出ることを考えているとか。両親の影響か、3歳になる息子さんもミニカーが大好き。子供の頃は父親のクルマに乗って、遠い距離、お祖母様の家に遊びに行くのが夏休みの最大のイベントだったと奥様は話す。それが今は、家族三人でレンジローバーに乗って、お祖母様のところまでロングドライブで訪れる夏休みを送っている。このエピソードを聞いて、限られた予算でも、色々と工夫してガレージのある家を建てることの意義を、強く感じた。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一



■EANA:共に精華大学を卒業し、建築家の新井清一の事務所で働いていた岩﨑浩平(1977年、兵庫県生まれ)と、阿部任太(1979年、福岡県生まれ)の二人が2009年に設立した建築事務所。住宅・集合住宅だけでく、近年は保育園や動物病院の設計でも注目される存在に。社有車は、ゼニス・ウインドウのシトロエンC3。


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雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」がスタート。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。第1回配信は、エンジンでも紹介したことのある国際的建築家、窪田勝文さん設計の山口県のミニマリスティックな住宅。最新の建築ツアーは、青森に多くの作品を残した建築家、前川國男。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなライフスタイル番組は必見の価値あり!


(ENGINE2018年9月号)

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