BMWのフラッグシップ・クーペが7年ぶりにフルモデルチェンジ。それにともない車名も〝6〟から〝8〟へと2つほど進化を遂げた。BMWの大型クーペが8シリーズを名乗るのは20世紀も終盤を迎えた1989年から1999年にかけて生産されたE31型と呼ばれるモデル以来2度目。このときのトップ・グレードにはBMWが初めて開発した5・0ℓのV型12気筒が長いフロント・ノーズに収められていた。
車名は変更されているものの、クルマ自体はこれまでの6シリーズの正当な後継車である。ボディ・サイズをはじめ、従来型の6シリーズと新しい8シリーズの間に5シリーズと7シリーズのような差はない。それなのにあえて昇格させた背景のひとつには、ラグジュアリー・モデルのさらなる高級化、高出力化、そして高額化への対応が挙げられる。
ベントレーや身内のロールス・ロイスなど超が付く高級ブランドと丁々発止したいとは思っていないはずだが、上へ上へとシフトしていくライバルのラグジュアリー・ブランドたちを追従するのはプレミアムを掲げるBMWとしては至極当然のこと。また、7シリーズとこのあと日本にも上陸する新しいフラッグシップSUVのX7とともにBMWの頂点を3つの旗艦車種で強固なものにしたいという戦略もあるに違いない。




いろいろな思惑を抱えつつ、登場した新型8シリーズ。ボディ後端に向けてなだらかに傾斜するファストバック・スタイルをはじめ、フォルム自体には先代6シリーズの面影を残す。ただし、前後フェンダーをはじめボディの抑揚が強調されるとともに、前後バンパーなどのディテールにシャープなラインを採り入れるなど、スタイリングは以前よりも精悍でスポーティな装いとなった。スポーツ・モデル系に採用されるハの字に広がったキドニー・グリルは以前と比べると横方向へと拡大されたものの、SUVのX系やフェイスリフト版の新型7シリーズに装着されている「これでもか!」という大きさに比べるとまだまだ控えめだ。
日本仕様は4・4ℓV8を積んだM850iのみ。ドイツでも850i以外には直6ディーゼルを積んだ840dが用意されるだけという少数精鋭のラインナップになっている。530ps/76・5kgmというMモデルも真っ青な出力を持つV8の加速はその数値通り、強烈のひと言。M850iは4輪駆動のxDriveと組み合わされている。
乗る前は「BMWお得意の後輪駆動で味わいたい」なんて思ったが、それが浅はかな考えだということが走りはじめてすぐにわかった。この強靭なパワーはとてもじゃないが4輪すべての能力をフルに使い切らないと路面に伝えきれない。日本の公道はもちろん、アウトバーンですらこの力を使い切るのは至難の業だろう。そんな強心臓を支えるシャシーは5シリーズと7シリーズに用いられているものと基本的には同じで、セダン系同様、電子制御のスタビライザーとLSDだけでなく、後輪操舵も備わる。
これらハイテクを得た走り、とくにワインディング路でのコーナリング性能には目を見張った。ラグジュアリー・クーペの枠をはるかに超え、スーパースポーツの域にあると言っていいだろう。ほぼノンロールのままLSDと後輪操舵の助けを得てコーナーを駆け抜けていく様はちょっと力任せな感じを受けるものの、とても全長4・8m、軸距も2・8mを超える大型クーペとは思えない。どんなタイトコーナーでも、高い旋回Gを保ちながら、ひと回り以上小さいZ4より速い速度で駆け抜けていくことができるのだ。
高速道路を緩やかに巡航するのも苦手ではないが、とても公道では使い切れないほど有り余るパワーと、コンパクト・スポーツカーも真っ青の高いコーナリング性能、硬めにセッティングされた乗り味を含め、M850iの性能はもはや本格的なスポーツカーの領域にある。これならM8は要らないんじゃないかと思わせるほど。それでも新型8シリーズをベースにしたM8が登場するということは、どれだけスゴいクルマになるのか。それはそれでちょっと興味があるけど……。

BMW M850i xDriveクーペ
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