テスラが先行し、アウディやメルセデス、ポルシェも新型車の投入を表明しているプレミアムEV市場。自動車メーカーにとってEVは年々厳しくなる排出ガス規制対策の一環であり、EVを推進する巨大市場中国をみすみす逃すわけにもいかないという事情を睨んだ戦略モデルでもある。EVは今後すぐ主流になるとは言い難い状況なのを重々承知の上で、進まざるを得ない道なのだ。こうした中、ドイツ・ブランドに先駆けて日本市場に打って出たのがジャガーIペイスだ。しかも専用充電設備の使用を主とするテスラと違い、VW同様日本独自規格のCHAdeMOへの対応を事細かに行うなど、かなり力を入れている。
プラットフォームは既存車種の流用ではなく、完全に新しい専用設計だ。フロアにバッテリーを敷き詰め、システム出力400ps/71kgmを発揮する2つのモーターを前後車軸上に配置して4輪を駆動。ボディは全長こそEペイスとFペイスの中間の4695㎜だが、ホイールベースは2990㎜とFペイスより115㎜も長い。内燃機関を収める必要がないためIペイスのノーズは短く、その分キャビンを前進させて広い室内空間を確保した。本国のスタッフはその広さを「マカンのサイズでカイエンの室内」と表現したという。車体の94%はアルミだが、それでも車重が2.2tを超えるのはバッテリー容量が90kWhもあるためだ。その結果、航続距離はWLTCモードで438㎞。0→85%充電に必要な時間は最大7kWhのAC普通充電では12・6時間かかるが、50kWh CHAdeMO規格の急速充電なら85分でチャージが可能だ。
Iペイスの姿は、Eタイプ以来ジャガーのアイデンティティともいえるロングノーズ&ショートデッキの伝統的なフォルムとは一線を画している。J型のLED付きヘッドライトや、四角いフロント・グリルといった現行ジャガーのデザイン・アイコンは盛り込んでいるが、ここまでフォルムが違うとむしろ斬新だ。緩やかに後方に向かって伸び上がるショルダー・ラインやリア・フェンダーのふくらみはEペイスに似ているが、鼻先が短く低いため、全幅は1895㎜とEペイスより狭いのに、むしろにらみが効いて、今にも飛びかかって来そうな迫力がある。
Iペイスの日本仕様はパワートレインこそ1種類だが、トリムの異なるS、SE、HSEと、導入を記念したファーストエディションの計4モデルが上陸。車高を任意(一部自動)で変えられる電子制御式エア・サスペンションは、ファーストエディションのみ標準装備している。このファーストエディションが驚くほど良かった。強い路面からの突き上げがほぼ感じられず、22インチもの大径タイヤを履いているとは思えないくらい足がかろやかに動いているのが分かる。金属スプリング・サスと20インチの組み合わせのSEもさすがはジャガーと思わせるしなやかさを備えていたが、ロードノイズの差が大きかった。内燃機関のないEVが静かなのは当然だが、その分わずかな音が耳ざわりに感じることも多い。ファーストエディションの室内の静粛性は特筆ものである。
0-100㎞/h加速は4.8秒という俊足ぶりだが、停止から右足をベタ踏みしたような時でも、反応がテスラのように唐突でないのも印象的だった。モーターはその特性上、ゼロ回転から最大トルクが立ち上がるが、意図的に一瞬のラグを作り、あくまでジャガーとして違和感が少ない仕立てとしているのだろう。回生ブレーキとメカニカル・ブレーキが協調動作する時のペダル・フィーリングや、日常生活の中での航続距離など、もっと時間と距離を重ね、じっくり検証したいと思わせるクルマだった。とりあえずジャガーIペイスはEVというまだまだ先の見えないものに対し、1つの方向性を示したのではないかと僕は思う。
ジャガーI ペイス・ファーストエディション ※IペイスSE
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=山田真人
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