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ドイツ車といえば、忘れてはならないのが、BMWアルピナである。ダイムラーやBMW、VWグループといった巨人に目を奪われがちだけれど、好事家にとっては、アルピナこそは常に心の隅に留め置くべき存在だ。レーシング・チューナーから身を起こしたアルピナは、今ではBMW本体にとってもなくてはならない存在になっている。アルピナからの技術供与も現実のものとなっていたりするのである。
今回は、3シリーズと4シリーズをベースとした2台を借り出して、アルピナの今を実感したいと思う。1台はD3ビターボ。車名が示すとおり、ディーゼル・エンジンを搭載するモデルである。セダンとワゴン・ボディのツーリングがラインナップされているが、借り出したのはセダンだ。
もちろん、エンジンはアルピナが手がけたもので、直列6気筒の3ℓ直噴ツインターボ過給ユニットは、リッター当たり出力が軽く110psを超える350psを発揮する。もう1台はB4Sビターボ。B4Sにもクーペとカブリオレがラインナップされているが、今回はクーペだ。こちらもアルピナが手がけたガソリン・エンジンは直列6気筒の3ℓ。こちらもツインターボによって過給されて、実に440psを発揮する。変速機はともにアルピナ・スイッチ・トロニック付きの8段スポーツATが組み合わされている。
2台はともに全長4.6m強のコンパクトなサイズで車両重量が1.7t未満のボディに6気筒の強心臓を押し込んだモデルである。車両本体価格はD3ビターボ・リムジンが1031万円。B4Sビターボ・クーペが1221万9000円だが、借り出した個体にはそれぞれ数々のオプション装備が組み込まれており、前者は1136万2000円、後者が1397万9000円に達する。
僅かとはいえ背が低く、トレッド寸法のワイドなB4Sクーペは、ワインディング・ロードでより輝きを見せる。シャープな味わいのツインターボ過給ガソリン・エンジンの反応の速さはこうした場面でとても楽しい。
トリム・インサートのウッド・パネルを見ても、最上の素材が使われているのが分かる。
都心から首都高速と東名高速で御殿場へ、そこから東富士五湖道路で山中湖へ、明神峠に立ち寄り、そこから河口湖、富士吉田へと抜けて、復路は中央高速を使って帰京というルートで2台を乗り換えながら堪能したのだけれど、改めて思ったのは、アルピナはアルピナだということだ。素性のいいBMWをベースにしながら、そこにアルピナ一流の、ドライビング好きにはたまらない味付けが施してある。
優れた素材を一流のシェフが逸品に仕立て上げた美味なる料理がアルピナの送り出すクルマなのだ。それは今も昔も変わらない。近年のアルピナ各車は、総料理長が世代交代して、その味わいが現代風になっているが、そのクルマに込められている真意は、腕によりをかけテイスト・グッドを追求した美味なる料理を、ただのエンスージアストにとどまることのない目利きのコニサーに届けることに他ならないのだ。
かつてコンプリート・ロードゴーイング・モデルを自社製品として送り出し始めた時期には、BMWのシルキー・シックスと評された直列6気筒ユニットをファイン・チューンして搭載した、素晴らしい回転フィールの自然吸気エンジンや、極めて先進的な電子制御技術を駆使して世界を驚かせた独自開発のターボ過給を施したビッグ・シックスといった、他では味わうことが不可能な心臓の素晴らしさで好事家を楽しませたアルピナだった。と同時に、ミシュランやビルシュタインと密接な協力関係を結んで仕立てた極上のサスペンション・チューニングがもたらすゼッピンの味わいで、スポーツ・ドライビングの楽しみを求めるエンスージアストに愉悦をもたらしたアルピナでもあった。
けれど、近年ではサスペンション関連の電子制御技術が進み、本家BMWの上級モデルにはもれなく電子制御ダンパーが組み込まれるようになり、一方では90年代以降、欧州市場で猛威をふるった過給ディーゼル・ブームで培われたターボ過給技術が、ひとまわりしてガソリン・エンジンに転用されるようになって、この10年ほどで、欧州の量産自動車メーカーが送り出す乗用車用ガソリン・エンジンは、ディーゼルと同様にほぼすべてがターボ過給エンジンになった。
例外的に自然吸気エンジンを使っているのは、ごく一部の超弩級スーパースポーツの一部と、廉価なスモール・カーだけとなっている。BMWなどは、政治的な大ドンデン返しでも起きない限り、市販車用として自然吸気エンジンを新開発することはありえないとまで明言しているほどだ。はるか時代の先を行っていたアルピナの電子制御ターボ過給技術は、もはや専売特許ではない時代になったと言い換えてもいい。そして、年々大型化複雑化し、と同時にハイパワー化する潮流のなかで、アルピナ自身も積極的に電子制御ダンパーをサスペンション・システムに使うようになった。重量級大パワー車には避けて通れない道になったからである。
クーペと比べると、相対的に動的重心高が高いセダンのD3は、脚のしなやかさがいっそう印象的だ。決してやり過ぎない寸止めの味わい深さがどんな状況でも持続する。
これは左ハンドル仕様だが、右ハンドル仕様(8%税込+28万円)も選べる。
低回転域からの大河の如きトルクも決して暴れない。
だとしたら、今日、アルピナをアルピナたらしめるものはいったい何なのか?アルピナの特質はどこにあるというのか?答えはシンプルだ。かつてと変わることなく、エンジンとサスペンション・システムである。そこが極上なのである。
それがガソリンであろうがディーゼルであろうが、肌理の細かい極上のスムーズネスと、汲めども汲めども天井知らずについてくるトルクと圧倒的なパワー。それでいて、右足のどんな動きにもついてくるパワー・デリバリーの秀でたリニアリティと繊細感は、アルピナでなくては味わえない種類のものだ。それは広大な領域を信じられないほどの高解像度で見渡すかのようなパワー・ユニットなのである。BMWの直6ターボだからではない。アルピナの手がけたユニットだからこそなのだ。
ドライバーが神経細やかに扱っても、豪胆に扱っても、見事なまでにその意図に応えるパワー・ユニット。ここまでくると、それがディーゼルであるかガソリンであるかなど、大した問題ではないように思えてくる。形式を問わず、それはアルピナのエンジンなればこそと思わせるのだ。
一方で、どのドライビング・モードにあっても、想像より少し柔らかいかなと思わせる乗り心地の良さを終始保持しながら、いざディマンディングな山岳路や屈曲路でドライビング・ファンを求めるような走り方に転じても、どこでどう変わったのかを意識させることなく、しなやかに、しかし断固として応えてくれる、見事なチューニングを見せる脚。それはもはや、アナログ・チューニングの粋を極めた一発決めの脚ではない。減衰力設定がデジタル・チューニングされるものだ。
けれど、どのモードにあっても決して不足を覚えさせることのない姿勢制御能力を発揮し続ける。これほどに連続的にしなやかさを失わない電子制御ダンパーは、そうそう体験できるものではない。だから、アルピナはどんなに低速で走っていても優しいし、どんなに大胆に振り回しても流麗な振る舞いを崩すことがない。その両極の間が継ぎ目なく繋がっている。
いつの世もテイスト・グッドを届け続ける。それがアルピナなのだ。
文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=小河原 認
BMWアルピナ D3ビターボ・リムジン
BMWアルピナ B4Sビターボ・クーペ
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