advertisement
上田 今回取り上げるSUVは〝新しい波〟というテーマを れぞれ象徴するクルマだと思いますが、中でもとりわけ時代性を感じるのがこのフルEVの2台です。
塩澤 ジャガーIペイスとメルセデス・ベンツEQC。
上田 実は価格も仕様も似ています。試乗車はIペイスがエアサス付きだったり、EQCがAMGパッケージ付きだったりで差がありますが、おおよそ両者とも1100万円。前後2モーターなのも、総合出力が400psほどなのも同じ。バッテリー容量はIペイスの方が10kWh多く90kWh。航続距離はWLTCモードでIペイスが438kmに対しEQCは400kmと発表されています。
村上 まず、クルマ全体に電動化の波が押し寄せているのは間違いないわけだけど、その一方でSUVというものが自動車のジャンルの中でセンターに来ている。もうSUVは何でもアリになっているけど、実はSUVとEVは相性がいいんだよね。電動化するにあたっていちばん大変なのは電池をどこにどう積むかなんだけど、ある程度大きさのあるSUVは有利なんだよ。電池は基本床下に積むことになるから、人間の座る位置がどうしたって上がっていって、必然的に背も高くなる。
上田 でも、SUVなら背を高くしても文句を言われません。
村上 Iペイスはエアサスが付いていたから車高を上げ下げできたんで試したけど、下がっているとほとんど普通のサルーンに見える。SUVとしては異例の低さだった。
上田 いっぽうのEQCは、シルエットは普通のSUVそのものですからね。
塩澤 あと、電池は重さというデメリットもあるんだけど......。
村上 もともと重いSUVのほうが差が分かりにくい。
塩澤 SUVはサスペンション・ストロークも確保できるからチューニングもしやすい。これを普通のサルーンやスポーツカー、スモールカーでやろうとするとシビアだよ。
村上 この2台は電動化に対するアプローチが大きく違っている。ジャガーはIペイスのためにプラットフォームを完全に新しく設計した。いっぽうメルセデスは既存の内燃機関のプラットフォームをEV用に改造するという形で出してきた。最近のプレミアムEVの例でいうと、僕は先日ポルシェ・タイカンに乗ったんだけど、あれは新しいプラットフォーム......と言えるかどうか難しいところでね。VWグループのMLBプラットフォームのエヴォリューションのさらにエヴォリューション。エヴォエヴォなんだよ。だからジャガーとメルセデスの中間くらいかもしれない。
塩澤 もちろん専用プラットフォームのメリットは大きいんだけど、コストがかかって、投資が大きい。背負うものがデカい。
村上 でもポルシェも次は間違いなく専用にしてくる。
上田 過渡期なんですね。
村上 ポルシェはいち早く出したかったからね。考え方はみんな違うんだよ。電動化の波がものすごい勢い来ているのは間違いないんだけど、それがどの程度の大きさなのか、自動車メーカーは状況を見据えながら色々と考えている。
上田 ジャガーは電動化に舵を切って、まずIペイスを旗印に掲げた。メルセデスはまだまだ慎重です。
村上 それは見た目にもはっきり現れている。IペイスはEV以外ではありえないプロポーションだよ。これだけオーバーハングが短くて、ホイールベースが長いなんて。対するEQCは、外から見ただけではEVかどうかまったく判断が付かない。とりわけ試乗車はAMGパッケージ装着車だったからね。スタンダードな仕様の方が特別感がある。
上田 グリルの周囲がAMGパッケージは黒くて割と目立たない。
村上 素のEQCはめちゃくちゃ目立つ。ちょっとエグくてEVらしい。シルエットは普通のSUVだから、AMGパッケージだと周りは特別なものとは思ってくれない。
上田 確かに押し出しは弱いかも。実際、どいてくれなかったし。
村上 そんなにアオリ運転したの?
上田 違いますよ、クルマじゃなく て歩行者が静かすぎて気づいてくれないんですよ。
村上 それは乗った感じもそうだね。EQCはまったく無音に近いくらい静かだった。でもそれを除けば、できるだけ従来の高級SUVの味、ベンツの味をそのまま残そうとしている。
上田 乗った瞬間からザ・ベンツでしたよ。逆にIペイスは、ドライバーズ・カーであるっていうことがまず先に強く伝わってくる。ジャガーである、ということよりも。
村上 そうだね。もちろん長く乗っていればジャガーだな、と思えてくるんだけど、まずは「これは新しい乗り物だ」っていう感じがバーンと伝わってくる。
塩澤 ランボルギーニのウルスはスポーツカーとSUVのクロスオーバーだと思うけど、Iペイスはそのさらに先を行っているかもしれない。
村上 もちろんカテゴライズするならSUVなんだけど、SUVって言わなくてもいいかもしれない。
塩澤 そういう感じ。新種っぽい。
村上 タイカンはIペイス寄りだったよ。重心が低く、重いものは全部=ホイールベースの間にあって、オーバーハングが極端に短い。ミドシップみたいなハンドリングなんだ。
上田 Iペイス、ぎゅっと下に張り付いているような感じで走りますよね。パッケージングに加えて、そうとう煮詰めている空力特性もかなり要因として大きいと思います。
村上 EQCはエネルギー・モニターを見ると、大人しく走っている時は極力FFで走ろうとする。
塩澤 IペイスとEQCは同じSUVのEVでも、本当にクルマ造りの考え方が違う。
村上 面白かったのは、形はEQCの方が従来の内燃機関のクルマと変わらないんだけど、音に関してはIペイスの方が、明らかに内燃機関を意識した造りになっていること。エンジンがないのにエンジンの音がする(笑)。モーターの音はするんだけど、アクセレレーターを踏んでいくと、エンジンの音がどんどん混じってくる。
上田 3段階に切り替えられるアクティブ・サウンド・デザインですね。
塩澤 先だって行われた試乗会で聞いたんだけど、結局ドライビング・ファンというものを分析していくと、音というものは大事な要素の1つだそうだよ。無音がいいのか、モーターの音だけがいいのか、ロード・ノイズはどうするべきか、いろいろ実験をしたんだって。で、結論としては、運転していてウキウキしたりワクワクするには、音は必要だということになった。でも、エンジンの音を再現しよう、とは彼らは言っていない。あくまで次世代のクルマの未来の音を作りたかった。でも、その結果がこの、まさにエンジンみたいな音なんだけどね(笑)。
村上 タイカンのエンジニアが言っていたけれど、結局人間はクルマを運転している時、今どういう状況なのか、エンジンの音や、風切り音や、ロードノイズからも読み取っていて、何か指標のようなものを残しておかないと運転しにくいそうだよ。ジャ ガーがどこまでそういう部分を考えているかは分からないけれど、ファンの要素だけじゃなく、スポーツ・ドライビングのことをすごく考えていると僕は思う。メルセデスは正反対で、無音であることを善しとしている。だから速度を上げるとロード・ノイズだけが目立つ。
上田 確かに60km/hくらいを境に音がはっきりして耳障りでした。
塩澤 そうとうミュートされてはいるんだけどね。
村上 Iペイスもそうとう音は出ているはずだけど、ほかの音のおかげで感じない。ブレーキの使い方もぜんぜん違うよ。Iペイスはスポーツカー的な回生ブレーキだったけど、EQCは効率を重視している。はっきり言ってフィーリングは違和感がありあり。ふにゃふにゃだった。
塩澤 エレクトリック・ヴィークルとして考えた時に、進んでいるのはメルセデスの方だと思う。回生の仕方も、ジャガーが2段階なのに対してEQCはパドルで4段階も選べたり、効率重視。で、この先に見えているのはもちろん自動運転ですよ。
村上 ジャガーは見た目がすごく新しいのに、やろうとしていることや哲学は非常に古典的。メルセデスは見た目はコンベンショナルなのに、走ってみると先進の塊。見た目と中身がクロスしている。
上田 どちらも絶対にテスラを意識していますよね。斬新なインターフェイスと自動車メーカーが考えつかないような思想のクルマを出してきましたから。ジャガーもメルセデスも自分の個性をEVでどう出していくか、そうとう考えたはずです。
村上 やっぱりIペイスははっきりスポーツカー志向で、EQCは上質なサルーンを目指している。こういう風にEVの時代になってくると、クルマ造りの哲学みたいなものが、より鮮明になってくる。
上田 フルEVのSUVとなると、たぶんアウディのeトロンが近々上陸するでしょうし......。
村上 レクサスも出すらしいよ。
塩澤 いやはや、まさかEVのSUV選びでこんなに悩ましい世界が待っているとは思わなかったよ。
■ジャガーIペイスHSE
駆動方式 前後2モーター4輪駆動
全長×全幅×全高 4682×1895×1565mm
ホイールベース 2990mm
車両重量 2250kg(前軸1190kg:後軸1060kg)
モーター形式 交流同期電動機
総電力量 90kWh
航続距離(WLTCモード) 438km
最高出力 400ps/4250-5000rpm
最大トルク 71kgm/1000-4000rpm
トランスミッション 1段減速機のみ
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+エア
サスペンション(後) マルチリンク+エア
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 245/50R20/ 245/50R20
車両本体価格(10%税込) 1183万円
■メルセデス・ベンツEQC4004マティック
駆動方式 前後2モーター4輪駆動
全長×全幅×全高 4762×1844×1624mm
ホイールベース 2873mm
車両重量 2490kg(前軸1210kg:後軸1280kg)
モーター形式 交流同期電動機
総電力量 80kWh
航続距離(WLTCモード) 400km
最高出力 408ps/----rpm
最大トルク 78kgm/----rpm
トランスミッション 1段減速機のみ
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル
サスペンション(後) マルチリンク+コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 235/45R21/255/40R21
車両本体価格(10%税込) 1080万円
話す人=村上 政編集長+塩澤則浩+上田純一郎(まとめも、すべてENGINE編集部) 写真=望月浩彦
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
PR | 2024.11.27
CARS
14年30万kmを愛犬たちと走り抜けてきた御手洗さんご夫妻のディス…
2024.11.23
LIFESTYLE
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わ…
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.11.22
WATCHES
パテック フィリップ 25年ぶり話題の新作「Cubitus(キュビ…
advertisement
2024.11.25
アウディRS3、VWゴルフRと頂点を争うホットハッチ、メルセデスAMG A45が終焉を迎える
2024.11.27
20年前のクルマとは思えないほど良好なコンディション アルファ・ロメオ156 GTAに乗る湯浅洋司さん やっぱりエンジンが素晴らしい!
2024.11.25
G-SHOCKと青春を過ごしたすべての人に! 日本の伝統技術が生かされた64万9000円のG-SHOCK
2024.11.27
いま旬は、コンパクトなサイズ ケース直径36.5mmのグランドセイコー ヘリテージコレクション 44GS
2024.11.23
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わった築74年の祖父母の日本家屋 建築家と文筆家の夫妻が目指した心地いい暮らしとは?
advertisement
2024.11.27
CARS
14年30万kmを愛犬たちと走り抜けてきた御手洗さんご夫妻のディス…
2024.11.23
LIFESTYLE
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わ…
2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.11.22
WATCHES
パテック フィリップ 25年ぶり話題の新作「Cubitus(キュビ…
advertisement