齋藤 2019年にもさまざまなクルマが登場したわけだけれど、ここに登場するのは、4座の高級コンバーティブル3台。いずれも耐候性に優れた多層構造の幌を備えた、クラシカルなスタイルを打ち出したオープンカーです。アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ・ヴォランテ、ベントレー・コンチネンタルGTコンバーティブル、BMW・M850i・xDriveカブリオレがその3台。
下世話な話になるけれど、いずれも高価で、安いBMWでも税込車両価格は1873万円もする。ベントレーは素の仕様だと2831万7600円だけれど、これは導入初期のファースト・エディションで、それに加えて高級オーディオなども加わって、税込車両価格は総額3677万9300円に達する。アストン・マーティンにいたっては素の状態で3796万円。BMWの価格が可愛らしく思える。
新井 BMWはV8ツインターボの4WD、ベントレーはW12ツインターボの4WD、アストンはV12ツインターボのRWDですね。
齋藤 後席スペースはいずれも+2的扱いではあるけれど、使えないそれではなくて、4座といって差し支えないものになっている。
新井 というところがあらましです。
齋藤 で、こうして軽井沢までを往復してみた、どんなことを感じた?
新井 こんなことをいうと不謹慎かもしれないけれど、アストンやベントレーと一緒に接すると、BMWって8シリーズといえども普通のクルマなんだなぁと思いましたよ。
齋藤 8シリーズのなかでは現時点で最も高性能で最も高価なのがM850iなのにね。アストンとベントレーの別格感はさすがに凄かった。ノーズのなかに押し込んだ大排気量のV12にターボ過給を施して後輪もしくは4輪を駆動する。4座とはいえ、実際には1人か2人で乗るにすぎないクルマを600㎰オーバー、700㎰オーバーの出力を秘めた12気筒エンジンで走らせる。しかも、これはオープンカーだから、スピード命のスタイルではないわけだよね。贅沢の極み。内外装の仕立てにしても量産車の域を遥かに超えている。遠く1930年代に隆盛を極めた世界がタイムマシンで今に蘇ったのかと思うような内容のクルマだもの。
荒井 BMWには貴族の匂いがない。
齋藤 アストンとベントレーはどちらも、いかにも階級社会が生んだクルマという雰囲気が漂っている。
荒井 ファースト・エディションでなくてもこの感じは保たれるの?
齋藤 大きく変わらないはずですよ。
荒井 詳しくない人が見たら、高級なのはベントレーだって思うよね。
新井 やんごとなき人が乗るものだって思うでしょう、これを見たら。
齋藤 この個体はオプションで幌屋根がツイード仕立てになってるし。普通の感覚でも思いつかないものになっているよね。で、思った。ドイツも日本と同じように敗戦国なんだなぁと。どっちも戦後、社会の在りようが激変した国だよね。階級社会がほぼ完全に葬り去られて、灰のなかから工業立国として蘇った。ドイツのクルマで戦前を彷彿させるようなものといったら、いまはもうないメルセデス・ベンツの600プルマンぐらいでしょう。わが世の春を満喫するプレミアム系御三家だって、戦後社会のなかでの開かれた高級を体現するにとどまっている。
荒井 国のありようであったり文化と言われるものがクルマを作るんだなぁって、今回つくづく思ったよ。
齋藤 ドイツが自動車生産超大国になっても、アストン・マーティンやベントレー、あるいはロールス・ロイスのようなものって作れないんだね。機械工学だけでは作れないクルマだから。でね、面白いのはベントレーもロールス・ロイスも親会社はいまやそのドイツの自動車メーカーだということだよね。そういうものは機械工学だけでは作りえないことによくよく自覚的でないと、こうしたパトロン的関係を作ることはできないよね。もちろん、VWにしてもBMWにしてもこれら英国高級ブランドを買収した時期に陣頭指揮をとっていたのが、類稀な目利きで自動車というものについて並外れた見識のある人間だったという時の恵みがあったにしてもさ。結果、彼らの自動車機械工学が下支えする結果になったわけだからね。ベントレーもロールス・ロイスもだからこそ生き長らえて、今がある。
新井 アストン・マーティンにしても、いまあるようなかたちでのアストン・マーティンとして再生したのはフォード傘下にあった時代ですよね。
荒井 こうした英国の高級車に乗ると、世界を動かしているのはヨーロッパのほんとうの上流社会に暮らす人たちなんだなぁって思わされる。でね、僕らはそうした世界に接する機会すらないわけだよね。無縁なところで生きている。ところがさ、クルマではその世界を垣間見ることができるわけだよね。そういう意味じゃ、とても幸せなことだよね。
齋藤 クルマ世界がさ、やれ二酸化炭素排出削減だ、できないんだったら電動化だ、事故死者数を減らせだ、そのためには自動運転導入だと、社会悪の象徴みたいに槍玉に上がっているこの激動の時代に、こうした古い世界を今に伝える超高級車が最先端の技術に支えられて生き長らえている。それを許容する社会がある。
荒井 そして乗るとこれがまた、うっとりするほかない。例えばベントレー。車両制御プログラムに用意されているあのベントレー・モードの素晴らしさ。コンフォートもスポーツも要らないんじゃないのって思う。
新井 クーペのGTスピードとかじゃないですからね。
齋藤 まったりと重厚で、きめ細やかで滑らか。まるで路面が良くなったかのように感じる恭しい乗り心地。いやぁ贅沢だなぁとうっとりする。オープンにすると、人は自然に快適な速度に収めようとするから、なおさらゆったりとした時間が流れるようになる。その時のあの空間全体の上質な感じといったらない。
新井 そしてアストン・マーティン。
齋藤 ドアを開けて乗り込むと、いつものアストン・マーティンの世界がそこにある。DBSスーパーレッジェーラだからといって取り立てて大きな違いがあるわけじゃない。運転席に座っただけでは特別感があるわけじゃない。ただただアストン。
新井 でも走らせると、歴然。
齋藤 725㎰を搾り出すV12ツインターボの性格も、あのいかにもブッシュに頼っていないような、まるでレーシングカーを連想させる脚の感触。特別感の塊。新井ランボルギーニでいえばアヴェンタドールのような別物感、別格感、横溢ですよ。走る機械としての実態は、これぞスーパーカーというものになっている。2+2のコンバーティブルだから、高級車寄りの仕立てになっているのかと思ったらさにあらず。ビックリする。
荒井 完全にスーパースポーツのそれだよね。クルマ全体の動きが。
齋藤 競走馬という意味でのサラブレッド。ほとんどレーシングカー的。
新井 アストン・マーティンに高級車的な上質感を求めるのなら、DB11でとめておかないと、その硬派ぶりに仰天することになりかねない。
齋藤 そういう類のクルマをお求めなら、ベントレーかロールス・ロイスをお求め下さいっていうスタンスがはっきりしている。これはアストン・マーティンですから、とね。
荒井 うかつにはスロットル開けられないもの。少なくとも身体鍛えてドライビング・スキルぐらい研いておいて下さいっていう主張が明確。
齋藤 007を思い出したよ。
新井 そこへいくと、ハイテクの限りを尽くして誰にでも速さの引き出せるBMWにホッとすると同時に、その機械技術力の高さにしみじみと感心することになるんですよねぇ。
齋藤 ヴィークル・ダイナミクスを拡張するために使われている4WDや4WSの完成度の高さが抜群。運転好きが受け入れることのできる本当の意味での運転支援装置になっている。先進技術部門でのBMWのリードって確実にあると思う。
新井 4WSも完全に手の内にした感じです。存在を忘れていられる。
荒井 3台ともそのメーカーならではの個性が濃厚に感じられた。そこがなんといってもいちばん興味深くて面白かった。クルマは楽しいよ。
話す人=荒井寿彦+新井一樹+齋藤浩之(すべてENGINE編集部) 写真=郡 大二郎 撮影協力=鬼押出し浅間園浅間火山博物館
■アストン・マーティンDBS スーパーレッジェーラ・ヴォランテ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4715×1970×1295㎜
ホイールベース 2805㎜
トレッド 前/後 1665/1645㎜
車両重量 1863㎏
エンジン形式 V型12気筒DOHC 48Vツインターボ過給
総排気量 5204㏄
ボア×ストローク 89.0×69.7㎜
最高出力 725㎰/6500rpm
最大トルク 91.7kgm/1800-5000rpm
変速機 リア配置8段AT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク:CCMC
タイヤ 前後 265/35ZR21 305/30ZR21
車両価格(10%税込) 3796万円
■ベントレー コンチネンタルGT コンパーティブル
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4880×1964×1399㎜
ホイールベース 2850㎜
トレッド 前/後 1671/1664㎜
車両重量 2450㎏
エンジン形式 V型12気筒DOHC 48V直噴ツインターボ過給
総排気量 5950㏄
ボア×ストローク 84.0×89.5㎜
最高出力 635㎰/6000rpm
最大トルク 91.7kgm/1350-4500rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前/後 マルチリンク/マルチリンク
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前後 265/40ZR21 305/35ZR21
車両価格(10%税込) 2831万7600円
■BMW M850i xDrive カブリオレ
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4855×1900×1345㎜
ホイールベース 2820㎜
トレッド 前/後 1628/1641㎜
車両重量 1990㎏
エンジン形式 V型8気筒DOHC 32V直噴ツインターボ過給
総排気量 4394㏄
ボア×ストローク 89.0×88.3㎜
最高出力 530㎰/5500rpm
最大トルク 76.5kgm/1800-4600rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前/後 マルチリンク/マルチリンク
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前後 245/35R20 275/30R20
車両価格(10%税込) 1873万円
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
2024.11.23
LIFESTYLE
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わ…
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.10.25
LIFESTYLE
LANCIA DELTA HF INTEGRALE × ONITS…
2024.11.22
WATCHES
パテック フィリップ 25年ぶり話題の新作「キュビタス」を徹底解説…
advertisement
2024.11.16
こんなの、もう出てこない トヨタ・ランドクルーザー70とマツダ2 自動車評論家の渡辺敏史が推すのは日本市場ならではの、ディーゼル搭載実用車だ!
2024.11.15
自動車評論家の国沢光宏が買ったアガリのクルマ! 内燃エンジンのスポーツカーと泥んこOKの軽自動車、これは最高の組み合わせです!
2024.11.15
GR86の2倍以上の高出力 BMW M2が一部改良 3.0リッター直6ツインターボの出力をさらにアップ
2024.11.20
抽選販売の日時でネットがざわつく 独学で時計づくりを学んだ片山次朗氏の大塚ローテック「7.5号」 世界が注目する日本時計の傑作!
2024.11.16
ニスモはメーカーによる抽選販売 日産フェアレディZが受注を再開するとともに2025年モデルを発表