2020.04.18

CARS

【海外試乗記】6気筒復活のポルシェ718ケイマン&ボクスターGTS4.0 なぜGTS4.0を追加したのか?

エンジンこそポルシェの真骨頂

試乗はまずボクスターで外の一般道を走り、そのあとケイマンでサーキットを走るやり方で行なわれた。


パイソン(ヘビのこと?)・グリーンのボクスターに乗り込み、左手でスターターを捻って、わずかなクランキングの後、ブォーンとフラット6に火が入った時に音と振動がもたらした目を覚まさせるような感覚に、思わず私は「そうそう、これだよ、これ」と何度も頷いてしまった。


最近、長期リポート車の911とアルピーヌ、そして自宅にある987型ボクスターを順番に乗るようになってつくづく感じているのは、ポルシェの最大の気持ちよさはエンジンから来ているのだ、ということだ。軽いことがすべての楽しさをもたらすアルピーヌのようなクルマと比べると911やボクスターはズシリと重い。


しかし、反対にことエンジンの回転フィールや音がもたらす気持ち良さは4気筒ターボを横置きに搭載するアルピーヌには絶対にないもので、それはピストンの動きがお互いに振動を消し合う完全バランスの崇高なエンジンたるフラット6を縦置きで搭載するポルシェならではのものなのだ。


さらに、エンジンをリア・オーバーハングに搭載する911と違い、運転席の真後ろに搭載するボクスターでは、火を入れた瞬間から、まるで同じ部屋にいるような近さでそのフラット6の息吹を感じとることができる。だからこそボクスターには(むろんケイマンにも)、最高に気持ちの良いエンジンが必要だ、と私は痛切に思うのだ。そして今、そのフラット6が帰って来た。


走り出して数メートルも行かないうちに、新しいフラット6の驚くべきスムーズな回転フィールに掛け値なしに感動している自分がいた。同じエンジンを、私はすでに英国でスパイダーとGT4に乗って経験しているはずなのに、それよりも20‌psデ・チューンされたこれの方が、よりきめ細かく丁寧に躾けられているような気がする。


回り方が気持ちいいのはもちろん、排気音もごく自然なもので、スポーツ・エグゾーストをオンにしても、ボコボコという下品な音を周囲に撒き散らすようなことは皆無だ。右足の動きに合わせて間髪入れずに反応するエンジンの気持ち良さは、やはり自然吸気のフラット6ならではのものとしか言いようがない。


そして、踏んでいけば表情を様々に変化させながら上まで澱みなく息の長い加速を見せてくれる。ワインディング・ロードを走って楽しいのも、ミドシップ車のハンドリングの良さによるものだけではなく、それと同じかそれ以上にエンジンのフィールや音を味わっていたのだということを改めて感じさせられた。


6段マニュアルのギア・ボックスも素晴らしかった。短めのストロークでカチッと入る感触は、私が普段乗っている古い911やボクスターとはまるで違うくらいの進化を遂げている。ほとんどGT3やGT4のそれと変わらないくらい機械としての精度が高いと感じられた。


718 ケイマンGTS 4.0のインテリアもボクスターGTS 4.0とまったく同じテイストだ。こちらはオプションでカーマイン・レッドのGTS インテリア・パッケージが選択されているため、ステッチやシートベルトの色、インパネ中央のレヴ・カウンターの盤面までも赤で統一されている。

この写真では見えないが、レヴ・リミットは7800rpmでGT4よりも200rpm低く設定されている。ちなみに4気筒版のGTSは7500rpm。最高速度は4.0が293㎞/h、GT4が304㎞/h、4気筒GTSが290㎞/hだ。


あまりの気持ち良さにずっと乗っていたかったのだが、あっと言う間に一人45分ほどの試乗時間は終了。サーキットでケイマンに乗る時間がやってきた。こちらはインストラクターの乗る先導車のあとについて走る方式だったが、コースに慣れるに連れてどんどん速度を上げて、レーシング・スピードに近いところまで引っ張って行ってくれた。


サーキットで何よりも印象的だったのは、エンジンの高回転域での伸びの気持ち良さだ。長いエストリルの直線に向け、最終コーナーを3速で立ち上がり全開の加速に入る。そこから7000回転近くまで目一杯使って4速、5速と上げていく時の震えるような緊張感とないまぜになった快感は、何とも表現し難いものだった。


ただし、サーキットでの速さや楽しさについては、かつてスペインのアスカリ・サーキットで経験した4気筒ターボのGTSも相当なものだった記憶がある。いや、むしろ中速域での加速感はターボ・エンジンが勝っていたかも知れない。


それでもどちらがいいかと問われたら、私は迷うことなく新しい6気筒を積んだGTS4.0に軍配を上げたい。ディナーの席でエンジニアが言っていた通りで、私たちが何より718ケイマン&ボクスターに求めているのは、サーキットでの絶対的な速さではなく、スポーツカーとしての走りの気持ち良さだからだ。その点では6気筒の圧勝である。少なくとも私は、"ワーオ"と叫び出したいくらい気持ち良かった。


■718 ケイマンGTS 4.0(718 ボクスターGTS 4.0)


駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4405(4391)×1801×1276(1262)㎜
ホイールベース 2475㎜
トレッド(前/後) 1527㎜/1535㎜
車両重量 1405㎏
エンジン形式 水平対向6気筒DOHC24V 直噴ターボ
排気量 3995㏄
ボア×ストローク 102.0×81.5㎜
最高出力 400ps/7000rpm
最大トルク  42.8kgm/5000~6500rpm
トランスミッション 6段MT
サスペンション(前後) マクファーソン式ストラット/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク/モノブロック・キャリパー
タイヤ(前/後) 235/35ZR20 / 265/35ZR20
車両価格(税込み) 1072万円(1111万円)


文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ポルシェA.G.


(ENGINE2020年5月号)

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