ポルシェ911のデザインは下町とよくマッチする。それを証明しようと思って、夜の街に出た。
4年ほど前に、「東京クール・スタイル」と題したファッションとクルマを融合させた巻頭特集を組んだことがある。いま思えば、ずいぶんと大胆な企画をブチ上げたものだと思うけれど、当時は、とにかくファッションとクルマをぶつけ合わせることによってなにか面白いものが生まれるような気がして、夢中になっていろいろな試みに挑戦していた。中でも私の記憶に鮮烈に残っているのが、その巻頭特集の出だしの12ページを表紙とともに飾ることになった「下町ポルシェ」という記事の一連の写真である。
新旧2台の911タルガ、すなわち1972年式のイエローのナロー・ボディと最新の991型タルガ4GTSを、浅草や神田、佃島、上野など、さまざまな下町のシーンの中に置いて、アルマーニ、トム・フォード、ボッテガ・ヴェネタ、ランバン、ダンヒル、エルメス、ルイ・ヴィトン、プラダ、グッチの最新のモードに身を包んだモデルとともに撮った。本誌のファッション・ディレクターも務める祐真朋樹氏のスタイリングや毎号表紙を撮ってくれている秦淳司カメラマンのシューティングが素晴らしかったのは言うまでもないが、それと同時に、なによりもポルシェと下町の風景が絶妙にマッチしていたことが、あの企画の成功の最大の理由だったと振り返るたびにいつも思っている。
そう、ポルシェ911というスポーツカーは、東京の下町の風景に素晴らしくマッチするスタイルを持っているのだ。ナローも最新も、そしてもちろん996型の79号車も。それを証明しようじゃないか、と急に思い立って、コロナ騒動で静まり返った休日の夜の下町にクルマを向けた。行った先はお茶の水から秋葉原に向かう坂道の途中にある神田明神である。普段だったら参拝客や観光客でごった返す参道が、この数日は静まり返っていることを、事前にカメラマンが調べてくれていたのだ。
こんな時に不謹慎だと思われる方がいらしたら申し訳ありません。ほんの一瞬、誰も周囲にいない時にシャッターを押したのがこの写真です。私はクルマにずっと乗っていました。でも、どうですか? やっぱりポルシェ911は、この1300年という長い歴史を持ち、名所江戸百景にも登場する東京の総鎮守様を背にして、その風景の中に見事に溶け込んでいると思いませんか?
いったい、どうしてポルシェ911がこんなに下町の風景にマッチするのか。その理由について、私は特別な見解を持っているわけでは残念ながらない。ただ、これが直線と平面を主体にしたデザインを持つ、たとえばランボルギーニのようなスーパーカーだと、そううまくはマッチしてくれないだろうな、と思うのである。それに対して、ポルシェ911のデザインには昔も今も直線というものがほとんど使われていない。すべての線が柔らかい曲線であり、すべての面がふくよかな曲面で構成されている。時代を追うごとにデザインはよりモダンなテイストを取り入れて、金属とガラスの都会的な風景にもマッチするようになって来てはいるけれども、それでも柔らかさとふくよかさを失っていない。そんな911のデザインが私は好きだ。
■79号車/ポルシェ911カレラ4S(996型)
PORSCHE 911 CARRERA 4S
購入価格 (新車時)340万円(1244万2500円)
導入時期 2017年4月
走行距離(購入後) 10万5120km(2万2735km)
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=柏田芳敬
(ENGINE 2020年6月号)
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