これまで出会ったクルマの中で、もっとも印象に残っている1台は何か? クルマが私たちの人生にもたらしてくれたものについて考える企画「わが人生のクルマのクルマ」。自動車ジャーナリストの渡辺慎太郎さんが選んだのは、「メルセデス・ベンツ500E」。ある日、ひと晩だけ預かった500E。それは、これまでに試したどんなクルマとも違う速さをもっていた。クルマのことをちゃんと勉強し始めたのは、それからのことである。
向き合い方を学んだ
「あの時は本当に助かりました。もしアレがなかったら、おそらく会社は潰れていたし、私もこうしてここにはいなかったでしょう」 数年前にポルシェのとある人物が思わずそう漏らした。そもそも「最近のポルシェはSUVで稼いで会社の経営状態を盤石なものとしつつ、スポーツカーの開発も安定的に続けられている」みたいな会話をしていて、ポルシェを襲った過去の危機について話が及んだ時に、“救世主”としてメルセデス・ベンツ500Eの名前が出てきたのである。
1990年10月のパリ・サロンでお披露目、翌年2月から生産が開始された500Eは、Eクラス(W124)に初めてV8を搭載したスポーティなモデルというだけでなく、開発と生産にポルシェが関与したプロジェクトとして注目された。ただ、この“ダブルネーム”の商品には、深刻な経営状態に陥っていたポルシェをどうにか助けようとメルセデスが手をさしのべたという背景があった。それはなんとなくみんな知っていたけれど、当時のメルセデスの広報資料には「ポルシェとのコラボレーションによるもの」とサラッと書かれているに過ぎなかった。
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