2020.09.01

CARS

自動車ジャーナリストの桂伸一さんがニュル24時間レースで知ったアストンの神髄とは


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美しいスタイリングのコンパクトな2シーター・クーペはV8をフロントに、ミッションをリアに搭載するトランスアクスル方式から、前後重量バランスに優れた切れ味鋭いハンドリングと安定性が良い。当初日本では、硬い乗り味が優雅な雰囲気とマッチしないと言われた。が、そこは時間とともに滑らかな方向に改善されて行く。

そんなヴァンテージの印象が根底から覆ったのは欧州試乗と、新車開発の聖地ニュルブルクリンクでの24時間レースにワークス・チームから参戦してから。

欧州では田舎道を100km/hレベルで走行するが、その速度域になると低速域で硬いと感じた乗り味は角が取れて滑らかになる。スポーツカーとして活き活きとしはじめ、さらにそれ以上の速度域にマッチしている事も判る。

ニュルのレース・カーは安全装備こそあるが中身はほぼロード・カーのまま。それは「あなたのヴァンテージは、レースに出場してここまで戦えますよ!!」というアピールを兼ねているから。

2008年当時のニュルの路面は荒れてバンピーな部分がまだ多く残る。そこを260km/h超えで走る。ボディは低く沈み込み、あくまでもフラットな姿勢のままサスだけが激しく上下動しながら路面を舐めて行く。その超高速操縦安定性を経験すると、スポーツカーは本来生息する速度域に完全にミートしていれば、それ以外は黙認するか、と考えを新たにする。

ニュルでの経緯はドラマだった。ワークスとして日本人を初採用する度量の豊かさとレースに対する厳しさという表裏一体を味わった。レースではラップタイムの安定性と、とくにウエットでの速さこそが評価される。私がチーム・トップタイムを記録した時の首脳陣の態度の変貌ぶりには笑った。それはドライでもウエットでも操縦性の変化が少ないヴァンテージの完成度の高さがあればこその結果だった。

アストンと深い関係を築けた「人生のクルマ」と言える1台だ。

文=桂 伸一(自動車ジャーナリスト) 写真=T.Masuda



(ENGINE2020年7・8月合併号)

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