2020.08.12

CARS

初代プリウスは遅かった! 自動車ジャーナリストの渡辺敏史さんが初代トヨタ・プリウスを人生初のミズテンで買った理由とは

初代トヨタ・プリウス

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かくして、人生初のミズテン即注文となったプリウスは97年の暮れも暮れ、仕事納めの日に納車となった。団欒時で静まった住宅街の駐車場にヒィーンと響き渡るインバータ音。つい先日まで8000rpm上等のクルマを停めていたそこにプリウスを収めた時には、まだ俗世への未練の方が圧勝していたように思う。

実際、初代プリウスは遅かった。モーターを持っているから低中速域の応答性は悪くないはずだが、首都高の短い合流車線などでは割と必死に駆けていかないと本線に速度が合わせられない。中央道の談合坂辺りでは真ん中車線でもいっぱいいっぱい、そして箱根ではモーターやバッテリーの過負荷を保護する亀のマークが現れて、パワーがガクンと落ちたりもした。絶望的ではないにせよ本当にカツカツの動力性能、そこにハイブリッド・システムを成立させる苦労がみてとれた。

が、それに勝る興味を抱かせたのが、遊星歯車を用いた動力分割機構を介してモーターとエンジンを絶えず協調させるTHSの制御の宇宙ぶりだ。パワーフローはアクセル開度や電池残量が複雑に絡み合いながら常に変化し、こちらの意思が入る余地はない。なんならブレーキにも介入してくるアルゴリズムは一体どうなっているのか。難解な数独でも解くかのように乗っていると、見たこともないような燃費が現れる。

クルマを走らせる歓びとは、何もフィジカル一辺倒で速さを競うものではない。移動を頭脳的に解析しながら、効率的なアウトプットを達成することも楽しさのひとつだ。プリウスが気づかせてくれたそれは、その後の仕事の価値軸にも影響をもたらしたように思う。移動の自由というクルマの最大価値をこの先も末永く人々が享受するための手段、それは意外と面白いかもと真顔で考えられるようになったわけだから。

文=渡辺敏史 写真=トヨタ




(ENGINE2020年7・8月号)

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