2020.08.30

CARS

運転の神が降りてきた瞬間! 自動車ジャーナリストの斎藤 聡さんがドリフトに開眼した思い出のクルマとは 

あらためてクルマとともに過ごしてきた来し方を振り返り、クルマが私たちの人生にもたらしてくれたものについて、じっくりと考えてみるスペシャル企画「わが人生のクルマのクルマ」。自動車ジャーナリストの斎藤 聡さんが選んだのは、「日産シルビアK's」。自動車雑誌のアルバイトで、 クルマ漬けの毎日を送っていたある日、 谷田部テストコースの総合試験路で、 シルビアK'sに乗った。 そして、神が降りてきた。

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天啓を受けた瞬間

この仕事に就くきっかけは、某自動車雑誌のアルバイトでした。それを機に、かなり濃密な、そしてちょっと特殊なクルマ・ライフを過ごすことになるわけです。当時の雑誌アルバイトはクルマの引き取りや返却、ロケのアシスタント、定地テストの計測、時にテスト・ドライバーといったことをやっていたわけです。数年間は、プレジデントとセンチュリー以外、ほぼすべての国産車に乗って、クルマ漬けの毎日を過ごしていました。しかも超絶に運転が巧いジャーナリストの先生や、アルバイトの先輩、カメラマンに囲まれていると、門前の小僧よろしく、何となく走れるようになってくるわけです。

当時のボクのドライビングのテーマは「クルマを自在にコントロールできるようになること」でした。ABSを装着したクルマがチラホラ登場しだした頃ですから、もちろんESCなどあるわけもなく、グリップ限界の先にあるスライド・コントロールができないと思い切ってクルマを走らせることができませんでした。コーナー立ち上がりでリア・タイヤの滑りをカウンターで抑えるのはなんとか出来たのですが、スライドを自在にコントロールすることができず、壁に当たっていたのでした。

そんなときに出会ったのがS13 シルビアK'sでした。といっても長くシルビアを所有したわけではなく、出会いは一瞬でした。タイヤ・テストか何かで谷田部のテストコースの総合試験路を走っていた時、なにげなく定常旋回をしたんです。すると、リア・タイヤがツツーッとゆっくり流れだし、自然にカウンターステアが当たり、そのままドリフトで定常旋回を1周2周とできてしまったんです。神が降りてきた瞬間でした。

この時、 『タイヤのグリップ限界をゆっくり超えると、スライドはゆっくり起こる。定常円でドリフトしている最中は、アクセルを深く踏むとドリフト・アングルが深くなり、アクセルを絞るとドリフト・アングルは浅くなる』というのがわかったんです。天啓を受けた瞬間でした。周りを包んでいた霧が晴れて一気に見渡せるようになったような感覚で、それまでの体験、経験、理屈が、シナプスがつながるようにネットワークを構築し、いきなりドリフトが自在にできるようになってしまった。基本形がわかると、ドリフトしている最中、アクセルを踏み込めば旋回半径を大きくすることができ、絞れば旋回半径が小さくなる。あるいは、ドリフト・アングルを変えると旋回スピードを変えることができる、なんてことができるようになった。あの日、僕はシルビアK'sに乗ってドリフトに開眼したのでした。

S13シルビアは、日産の後輪操舵システムであるHICASIIを搭載しており、ステアリング・ギア比が14:1とクイックで、ちょっとクセのある操縦性を持っていました。当時のボクにとってはなかなか手強いクルマだったのですが、コーナリング中のクルマのセッティングは素晴らしかったんです。スタティック・マージンの取り方が絶妙で文字どおりの弱アンダーステアのセッティングになっていたのです。

シルビアとの関わりはこの一瞬だけ……かと思ったら直後、巷にチューニング・カーのブームがやってきてチューンド・シルビアにも随分乗りました。シルビアは手頃な価格と、素直な操縦性を持ったFRということでチューンド・カーのベースとして多く使われたのです。ところが時はチューニング・カーにエアロ革命を起こすGTウイング登場前。足回りを硬めたサーキット仕様のチューンド・シルビアの操縦性は超シビアで、コーナリング中、路面の凹凸でアクセルが動いた瞬間、リア・タイヤがグリップを失い、真横を向いたまますっ飛んで行ってしまう。何度か筑波サーキットのピットウォールを正面に見ながらフルカウンターでホームストレートを駆け抜けました。それでも無事に済んだのはあの時ドリフトを習得したおかげ、まさに、 芸が身を助けてくれたわけです。

文=斎藤 聡(自動車ジャーナリスト) 写真=日産自動車



(ENGINE2020年7・8月合併号)


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