2020.08.24

CARS

たった44馬力のコンパクト・ハッチのおかげでスペック依存症から解放された! 頭でっかちのクルマ小僧をギャフンと言わせたフランス車

プジョー205ジュニア

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プジョー205ジュニアに出会ったのは大学の卒業旅行で訪れたポルトガル。湾岸戦争で世界がキナ臭かった1991年に、どうしてもWRC(世界ラリー選手権)が見たくて単身で南欧を目指した。ちなみに、これが人生初の海外一人旅である。205は渡航前にモータースポーツ誌の編集者からもらった、「WRCをしっかり観戦したいならレンタカーは必須」というアドバイスに従い、リスボンの旅行案内所で借りたレンタカーだった。もちろんプジョー205のことは知っていたが、レンタカーはスポーティなGTIではないベーシックなモデルだったため、とくに何の感慨を抱くこともなく、単なるラリー観戦の脚として乗り始めた。

最初は、穴の空いた粗悪な道路や一般道でも時速90kmという高い速度制限、さらに、その上限で走っているのに右拳を振り上げたライトバンのお婆ちゃんに抜かれるという驚愕の交通環境に圧倒され、クルマのことなんか考える余裕は一切なし。走らせることに専念していた。

ところが環境に慣れるにつれ、運転を楽しんでいる自分に気付いたのである。あとで調べたところジュニアは205の廉価版で1リッター直4の最高出力はたったの44ps。高速道路の登り坂では時速90kmしか出なかったが、運転していて常にワクワクが止まらなかった。もちろん、初めての一人旅による緊張や本物のWRCを見た興奮のせいでアドレナリンが終始出っ放しだったことが楽しさを後押ししていたかもしれない。しかし、205で得た満足感は当時の愛車だったAE86のそれをはるかに上回っていた。DOHCでも、ダブルウィッシュボーンでも、後輪駆動でもないただの実用車なのにこんなに楽しいなんて……。205のおかげで、数字や記号性ばかりを追いかけていた頭デッカチなスペック依存症から見事に解放され、ありのままの姿でクルマを見ることができるようになったのである。

この体験がなければ、いまだスペックに踊らされる自動車人生を歩んでいたかもしれない。もちろん、いまも愛してやまないプジョー106ラリーを買うこともなかったはずだ。

文=新井一樹(ENGINE編集部)

(ENGINE2020年7・8月号)

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