2020年モデルへと進化した日産GT-R。混み合う都心とハイウェイ、そして箱根と伊豆のワインディングを大井貴之とENGINE編集部の2人が一気に駆け抜けた。
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上田 日産GT-Rの2020年モデルです。大きな改良は2016年登場の2017年モデル以来。試乗車は3種類ある通常グレードのうちの中間のプレミアム・エディション。この下にピュア・エディションがあり、上にブラック・エディションがあります。装備の違いはありますがパワートレインの差はなく、3.8ℓV6ツインターボは従来通り最高出力570psというスペックです。
大井 ピュアはイジりたい人向けだよね。値段は1000万円強か。
齋藤 ブラックはレカロシートなど走りに重きを置いた仕立てで1250万円強。ラグジュアリーなものが欲しいなら試乗車のプレミアムで、値段は1200万円強だった。
上田 思い出すと初期型GT-Rって、乗っているとすごく重くて精密で強固な部品同士が動く感触が、音や振動でかなり伝わってきたけど、そういう感じがほとんどしなかった。
大井 でもエンジンの精度の高さは、ひしひしと伝わってくる。
齋藤 パワートレインの精度感は図抜けているよ。後輪駆動の縦置きミドシップや、2駆のポルシェ911なら構造がシンプルでこうした精度感が出しやすいんだけど、GT-Rは前からトルクチューブもなしで後ろのトランスアクスルまでプロペラシャフトで行って、そこからまた前にプロペラシャフトで返している。しかもGT-Rって、けっこう前にも駆動力を入れる制御なんだよ。それでこつんこつんっていう変速を軽く感じるだけっていうのは驚異的。
大井 車体剛性もどんどん上げてきた。フロアの剛性感も国産車としては珍しいくらいガチッとしていて、乗り心地にそうとう貢献している。
齋藤 中央コンソールにある3つのモード切り替えスイッチのうち、真ん中の電子制御ダンパーのセッティングをコンフォート側に切り替えたら、ついに、本当に毎日乗れるスーパーカーになった! と思った。工事中の街中でも、首都高3号線の高架構造路の金属継ぎ手の連続するところでも、僕のすり減った椎間板が圧縮される感じがしない。助手席にただ乗せられているだけでもぜんぜん苦じゃない。今まで乗った歴代のR35 GT-Rを全部思い出しても、いちばん乗り心地が良かった。
上田 2017年モデルでも脚は改良されていたけど、あくまで〝GT-Rとしては〟という注釈が必要だった。でも今回は他のスーパー・スポーツカーと比べても……。
齋藤 むしろイイ。さすがにポルシェの粋に達したかと言われるとちょっと厳しいかもしれないけど、少なくとも乗り心地の角は綺麗に取れている。タイヤが強靱で、足もすごく硬いものだっていうのは分かるけど、鋭いエッジが一切立たない。
上田 おまけに今どきのスーパー・スポーツカーに比べたらショルダー・ラインが低く、視界も広い。
齋藤 アイポイントも高いから、普通のクルマに乗っているみたい。GT-Rの助手席にいることを忘れそうになるくらいだった。
大井 寝ていたんじゃないの?
齋藤 寝てないよ! 帰り道はちょっと寝ちゃったけど(笑)。
大井 俺は峠道をひとしきり走った後に高速に乗ったけど、一気に評価が上がった。「羊の皮を被った狼」っていう言葉が頭に浮かんだ。ちゃんと普段は羊のふりができる。
齋藤 ステアリングを操作した時の感触もこれまでのGT-Rとは違ってするする動く。街中ではすごく楽だけど、ガシッとした手応えがなくなった。元々ポルシェみたいにとにかく真っ直ぐ走ろうとするものを抗いながら断固切り込んでいくというタイプではなかったけれど、手応えそのものはもっと締まっていた。今回のクルマはそれでいてタイヤはトリモチみたいに路面に張り付いているから、パワーアシストが強くて手応えの軽いステアリングと、強烈なグリップ力の間に、緊密な剛体感が薄いように感じがした。
大井 ステアリングをふっと動かすと、タイヤだけ先に曲がっていこうとするような感じだね。軽いのは一概に悪いわけじゃないけど、小舵角で動きすぎる。背が高いと同じだけロールしても人間の移動量が大きいから、感覚的に損をしている。
上田 世の中の600ps近いパワーのあるスーパー・スポーツカーの中で、これだけ乗用車みたいなディメンションですからね。
大井 やっぱり乗り心地と安定感を両立させるのは難しいクルマなんだよ。だけどその割にはすごくがんばっている。運動性能的にはウィーク・ポイントになる背の高さや着座位置って、街乗りやデイリー・ユースで考えたらぜんぶプラスだし。そこはGT-Rならではの武器だ。
上田 しかも最高速300㎞/h超を担保している。そういえば2017年モデルのニスモには以前齋藤さんも一緒に乗りましたが、椎間板センサー、バシバシ働いてましたよね。こんな快適な乗り心地でも、こんなステアリングの感触でもなかった。
大井 以前ニスモのニュル・パッケージに乗った時は、びっくりするくらいレーシング・テクノロジーが肌で感じられるクルマだった。
齋藤 つまり、いわゆる本当に研ぎ澄まされたGT-Rが欲しかったら、もう黙ってニスモを買えばいいってことだよ。そうすれば素のGT-Rは違う方向に行くことができる。同じことをする必要はない。
上田 それが今回のプレミアム・エディションなのかもしれない。
大井 びっくりするくらい小回りも効くし。あのワンガン・ブルーならぎりぎり冠婚葬祭も大丈夫(笑)。
齋藤 今まで明らかに普段乗るクルマじゃない、っていうメッセージが常に伝わってきていたことを思うと、ここまで変わったのはやはりニスモの存在があるからだと思うよ。
大井 あと、この12年間、開発の現場の人たちはGT-Rと付き合ってきたわけじゃない。色々なものが見えている。だからこそ、このノウハウを活かして次を作ったら、ものすごいものができると思うんだよ。
齋藤 日産は軽自動車からインフィニティまである普通の量産フルライン・メーカーで、ポルシェみたいなスポーツカー・メーカーでも、フェラーリみたいなレーシング・コンストラクターでもない。そういう会社がこんなクルマを商品化できて、しかもそれを煮詰め続けて、ユーザーの要望に応え続けている。これぞ、世界に誇る日本のスーパー・スポーツカーの代表だよ。
上田 でも、これからは生き残りをかけていかなくてはいけない。ポルシェだってアウディやベントレーとアライアンスを活かして道を探っている。ルノーや三菱と共に生きていく手もあると思うんですよ。
大井 とりあえずSUVかな。このプラットフォームは拡張性があるし。
上田 GT-RのSUVですか!?
齋藤 GT-Rは世のスーパー・スポーツカーに比べればSUVみたいなものだから、ノウハウは転用できるし、フェラーリがSUVを造るのに比べたらずっと楽。今度フェラーリに入ったエンジニアリング部門のトップは、元ポルシェでカイエンを手がけた人だから。そこからスタートのフェラーリと比べたら雲泥の差。もちろん、SUV版と同時にスーパー・スポーツカーとしてもGT-Rは生き続けて欲しいけどね。
大井 ここまで築き上げてきたものを、ぜひとも今後につなげて欲しい。もったいないよ。
話す人=齋藤浩之+上田純一郎(以上ENGINE編集部)+大井貴之 写真=郡 大二郎
■日産GT-Rプレミアム・エディション(2020年モデル)
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4710×1895×1370㎜
ホイールベース 2780㎜
トレッド(前/後) 1590/1600㎜
車両重量 1770㎏(前軸重量970㎏:後軸重量800㎏)
エンジン形式 水冷V型6気筒DOHCツインターボ
排気量 3799cc
最高出力 570ps/6800rpm
最大トルク 65.0kgm/3300-5800rpm
トランスミッション 7段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル (後) マルチリンク+コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 225/45ZRF20/285/35ZRF20
車両本体価格(OP込) 1210万5720円(1325万5608円)
(ENGINE2019年09月号)
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