2020.08.29

LIFESTYLE

室内が想像できない! 都市空間に突如として現れた空中庭園? 建築家の「代表作になるような」という施主の注文から生まれた驚きのツリーハウス

豊島区の一角に突如として現れた不思議なビル。そこは未来の都市住宅か、それとも空中にできた庭園か?

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代表作になるように

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まだ若かった平田さんに、設計段階でTさんは、「代表作になるような」家を「自由に設計」してもらった。そうして完成した、何にも似ていないこの家は、国内外の多くの専門誌の表紙を飾ることに。国際的に注目され、平田作品を代表する住宅となった。まずなにより特徴的なのが、植物が巨木に寄生しているような意匠だ。幾つもの四角いコンクリートの箱を積み重ねた複雑な構造で、その角や窓の窪みに、鉄を折り曲げて白く塗った、彫刻のようなヒダが乗り、中に個性的な植物が植えられている。しかもヒダの数は合計17個で、全て形が違う。相当に手間のかかった住宅だ。

建築家に自由に設計してもらったものの、建て主が要望したことも少なからずある。まずは1階に、10年以上もこの地でギャラリーを営んできた、元スタッフのスペースを確保すること。Tさんらしい心遣いである。また、家の中か外か分からない構造である上、家族の気配が感じられる家であることを希望。普段はモノがない真っ白な空間で仕事をしているので、植物の緑が多いことも重要だった。もちろん建築家は、こうした要望に見事に応えている。

だが最も大切なのは、この家のいたるところに美意識が感じられることだろう。上品な仕上げなのはもちろんのこと。例えば、コンクリートとガラスをギリギリの位置で合わせるなど、細部にまで心が配られた設計となっている。美術品も、壁を絵画や写真作品が埋めるのではなく、吟味されたごく少数の立体作品などが置かれ、空間には適度な緊張感が。こうした面からも、Tさんの建築好きが窺える。

T邸はスキップフロアーで螺旋状に上っていく構造。玄関を入って最初にあるのがダイニングルーム。

家具は30年間使ってきた無垢の木のもので、照明はマイケル・アナスタシアデスのアートピース。

作品に住む

「いずれ建築も、アートとして評価が高まるものだと考えています」そう、T邸は家というより「美術作品」である。そして「作品の中に住んでいると、普段から良いデザインに触れることで目が肥えてくる」と話す。

こうした拘りぬいた家に、わざわざ車庫を設けたのは、クルマが不可欠なライフスタイルゆえ。Tさんはカリフォルニア時代からサーフィンが趣味で、海辺に別荘を建て、サーフボードを置いている。ここに通うには、どうしてもクルマが必要なのだ。現在の愛車は、メルセデス・ベンツC200ステーションワゴン(2017年型)。偶然同社との縁ができ、Bクラス、Cクラスセダン、そして今のクルマと、3台続けてメルセデスを乗り継いでいる。Cクラスのセダンからワゴンにしたのは、作品を運ぶこともあるのでは、と考えて。奥様と二人のお子さんを連れての家族旅行でも、クルマは活躍している。

螺旋状の間取りは、ダイニングの次に、リビング、子供部屋、主寝室、バスルーム、屋上庭園へと続く。ボックスを組み合わせた家の構造は、リビングルームに二つの半個室的なスペースを作り出している。オープンなこの家にあって、少し籠れる空間だ。

実はしばらく前までは、都心にあるギャラリーへの通勤もクルマだった。ところが最近は運動不足のため、クルマ通勤を止め、歩く時間を積極的に作っているとか。ところで、この美意識溢れる家に住むのは、我々の想像よりも楽ではないようだ。様々な場所に植えられた植物への水やりは大変で、半日仕事に。しかも夏だと、それが一日おきにあるのだ。ガラス部分も多いので、数か月に一度、業者を呼んで窓の掃除を行っている。コンクリート建築に共通する、暑さや寒さもかなりのものだ。もちろん「大変なことは予め分かっていた」とTさん。それでもギャラリーの仕事をするからには、作品に住んで美意識を鍛えることを選んだのである。

たしかにこれだけ圧倒的に美しい世界に身を置くと、苦労があってもこの家に住みたい気持ちになるのがよく分かる。そうした気概が、この特別な家を作ったのは間違いない。

よく言われるように、名建築は建て主があって生まれるのである。

文=ジョー スズキ  写真=山下亮一

■建築家:平田晃久 1971年大阪府生まれ。京都大学大学院修了。伊東豊雄建築設計事務所を経て独立。太田市美術館・図書館、カプセルホテルのナインアワーズ(竹橋・赤坂・浅草)など、話題の建築を手掛ける。生き物の世界を参考にして建築空間を設計する「エコロジカルな建築」の発想で、論客としても注目されている。

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(ENGINE2019年5月号)

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