2020.11.01

LIFESTYLE

空前絶後! 世界にたったひとつのガラスのガレージがある秘密の隠れ家別荘

建築家、岡田哲史氏が設計した世界にたったひとつのガラスのガレージ。

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建築史からの学び

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こうした大きな別荘を紹介すると、岡田さんは富裕層御用達の派手な建築家と誤解されかねないが、設計を生業とする前は、建築史の論文を書いていた学者である。その後自らの建築事務所を始め、世界的に権威ある建築賞を受賞。国際的に活躍している。大規模な住宅・別荘の依頼が多いのは、作風と自然体な人柄に惹かれる人が多いからだろう。

そんな岡田さんは、古今東西の建築の歴史から学ぶことは多いと話す。このガレージも、そうした研究家としてのバックグラウンドと、建築家としての美意識が融合したものだ。


壁面全てがガラスだと、建物の奥の景色まで見渡せ、角度によっては、遥か向こうにある海の存在が薄っすらと感じられることも。ガレージには合計10台ほど格納が可能。シンプルな構成で、雨樋はなく、照明の電線類もすべて柱内に内蔵されている。

今回ガレージが建ったのは、来客用の駐車スペースだった場所。ここから向かいの巨大な環状のコンクリート壁に設けられたドアを開ければ、別荘の2階にある玄関に通じる位置関係だ。ガレージの話は、別荘ができて数年で持ち上がった。与えられた条件は、地階と合わせて2層構造で、リフトを導入して最低6台は停められること。予算の上限もある。


そこで岡田さんはUさんに「世界でいちばん美しいガレージ」を目指すことを提言した。もちろんランニングコストやメンテナンスも含め、機能的でなければならない。イメージしたのは、「透明な箱」。そのためには、柱も屋根もできるだけ存在感を消したい。そこで岡田さんは、歴史的な二つの事例をヒントにした。


ひとつは、19世紀のパリの市場で広大な面積を確保するために使われたV字の柱である。もうひとつは、18世紀のベニスの構造家が唱えた、重さを支える曲線の理論だ。ここから生まれたのが、床から生える8組のV字の柱が、格子状になった独特のカーブのある梁を支え、その上に屋根が乗る構造である。そしてガラスがぐるりと、この構造体を取り囲んだ。サイズは13.5m四方で高さは3.5m。驚くことに屋根の幅は10cmしかない。軽やかに見えるが、鉄製だ。かなりの重さを、この構造で支えている。しかしガレージは重力を感じさせず、透明感にあふれ、そしてなにより美しい。

もっとも多くの人が、全面ガラスのガレージは掃除が大変と思うことだろう。だが、ガラスには特殊なコーティングが施されており、掃除の必要はない。杞憂である。大変なのは、木々に囲まれているので、落ち葉が溜らないようにすること。そこで、樋などは設けず、水がキレイに流れ落ちる構造にした。屋根に溜まった枯葉は、海からの風が吹き飛ばすことに。

敷地内にそのままクルマで乗り付け左手に100mほど進むとガレージに。ガレージ手前には、切り返せるスペースが。道の先に見える構造物が別荘。ガラスに映る空の景色も美しい。


もう一つの大きな問題は結露だ。これには、対角線の位置に高さの違う吸気・排気用のダクトを設け、電動ファンだけの力で対応する工夫が。因みに、ガレージの入口は一見自動扉のようだが、手動である。扉が重いため、自動にすると機械類が大掛かりで無粋になる。これを避けた。扉は上から吊るされた構造で、ガイドレールは床面に無い。細やかな配慮だ。このガレージは見た目はシンプルだが、随所に思索の跡が観られる、考え抜かれた建物なのである。


ガレージの端に高くそびえる筒は排気のためのもの。建物の対角線の位置に、低い排気用の筒が。ガレージ内の気温が一定温度を超えると電動ファンが起動し、熱気が排気筒から屋外に排出され、屋外の冷気が背の低い吸気筒から自動的に導入される。屋内外の気温が一定に保たれるため結露は生じず、四面ガラス張りにもかかわらず、夏でも快適に。梁と屋根の間を離したのは、建築家のデザインテイストを心得た造船業者からの提案。


豊かなカーライフ


それにしてもUさんは、本当にクルマ好きだ。家族のものを含めると、全部で15台。そんなUさんのカーライフを紹介したい。まず別荘に持ってきているのは、前述の3台の他に、ロータス・ヨーロッパ・スペシャル(1974年製)、ケータハム・スーパーセブンBDR(1989年製)、ケータハム・スーパーセブン 620R(2016年製)。バイクもハーレーが3台、ホンダが2台ある。

なんといっても好きなのは、昔のスポーツカー。特にケータハムを含めたロータスが多いのは、Uさんの哲学と共通するからだ。

「漫画『サーキットの狼』ではないが、資金的に制約が多い者が、知恵を絞って大金をかけた者を打ち負かす発想が、自分の人生観と重なる」 と話す。


今後手に入れたいのは、フェラーリ512BBやランボルギーニ・ミウラなどの古いクルマ。もっともここ何年かは価格が高騰しているのが困ったところだとか。さらに、所有する古いクルマの発展形にも興味がある。冒頭のページに登場したフェラーリ328GTS、ランボルギーニ・カウンタック、ロータス・ヨーロッパの現代版だ。ロータスでいえばエキシージに当たるクルマである。実はフェラーリ328から進化したV8シリーズの最終版、フェラーリF8トリブートにオーダーを入れ、納車を待っている状態だとか。またランボルギーニであれば……コロナ禍のため大きく値引きされていたランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテ(2019年製)に、先日出会ってしまったそうだ。この新旧の3種類のクルマを、ガラスのガレージのリフトの上に古いモデル、下に新型を納めるのが夢だという。

因みに自宅は東京にあり、普段の通勤の脚としてアウディQ7(2007年製)を使っている。もっとも仕事の関係でどうしても国産車に乗る必要もあり、最近は日産GT-R NISMO(2017年製)を手に入れた。なんとも素敵な選択ではないか。そして週末用にロールス・ロイス・ゴースト(2011年製)が。奥様用のベントレー・コンチネンタルGT(2006年製)は、近く21年製のものに代わる予定だ。

その他別荘用として、敷地内の獣道を走るため、改造して車高を5インチ上げたスズキ・ジムニー(1989年製)が。他には、釣りなどに出かけるため、毎週のように乗っているスズキ・エブリイ・ワゴン(2017年製)など、TPOによってクルマを使い分けている。これもまた楽しそうなカーライフだ。

さて、ガレージの設計に家一軒以上のエネルギーが注がれた今回のスペシャル、如何だっただろうか。岡田哲史さんの手掛けるワールドクラスの建築は、驚きの連続だ。手の届かない世界だが、ワクワクさせるものがある。そしていつもながら、クルマだけでなく建物も素敵だと、人生はさらに充実すると思ったものだ。

文=ジョー スズキ 写真=繁田諭

ガレージの構造。8本のⅤ字状の細い柱が、懸垂曲線によってデザインされた梁(上下とも自然なカーブを描いている)を支えるシステム。19世紀フランスの建築理論家ヴィオレ・ル・デュクの理論(赤い部分)と18世紀ベニスのロードリ神父による懸垂曲線の思想(青い部分)を統合した、これまでなかった斬新な発想。海外でも高い評価を得ている。

半円の巨大な壁は、山道を走るクルマの音や光を遮るための装置。夜の闇が深い山の上だと、たった1台のクルマのライトもノイズになる。原生林に覆われた大自然の中、どのように設計しても構わないという場合、建築家は数多い選択肢の中から、えてして幾何学的な構成を選んだりするものらしい。

■建築家:岡田哲史 1962年兵庫県生まれ。NYのコロンビア大学大学院で学び、早稲田大学で博士号を取得。建築史の研究活動をした後、本格的に設計活動を開始。住宅や別荘からギャラリー・音楽ホールまで幅広く手掛ける。建築史に造詣が深く、美しく細やかなディテールと豊かな空間性には定評が。2006年に権威ある国際建築賞を受賞したため、世界的に知名度が高く、海外でも設計・教育・講演活動をしている。写真の住宅は小誌の「スーパーカーのある家」特集(2019年3月号)で大きな話題に。

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(ENGINE2020年11月号)

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