2021.01.17

LIFESTYLE

才能豊かな若手建築家に我が家を託す!「カッコイイ生き方を若者に示すのは、大人の役目」という施主の言葉がすごい!! 



Tさん夫妻が必要としていたのは、夫婦ふたりが居心地よく暮らすための家。けして豪華な家ではなかった。ただし海外の友人を招いても、恥ずかしくないものでないといけない。ちょっとしたパーティを催し、知人たちに楽しんでもらう機会もある。新居は、この背反する命題を解決する必要があった。

立地は、生駒山麓の住宅地。眼下に大阪の景色が広がる絶好のロケーションだ。菅原さんは、Tさんの要望やこの場所との関わり合い、周辺環境を鑑み案を練った。特にコンセプトにこだわり、この場所で暮らした家族の物語を反映させることに力を注いだ。できあがったのは、必要な部屋をひとつの四角い箱とし、つなぎ合わせたうえで各部屋の不要な部分を削った、相当に大胆なプランである。平面図を見れば、いくつもの歪な形の部屋が組み合わされているのが分かるだろう。

このユニークな間取りの利点は、デッドスペースがなくなるうえ、隣家の窓と正対することがないので、プライバシーが保たれること。そしてなによりリビングの窓から、大阪の街がよく見える。夜景、特に「花火の夜は最高」だとか。



家が建ってから分かった予想外のメリットもある。以前の家は、リビングダイニングとキッチンがひと続きの、40畳ある大空間だった。見通しはいいが、パーティで招いた人はどこか所在なげにしていた。それが今度の家では小さな人の集まりがいくつもでき、居心地がよさそうだという。海外からの友人たちも、個性あるこの家には、ニヤリとさせられたことだろう。

大胆な発想だけでなく、細やかな心遣いも菅原さんの特徴だ。床面積と比較して、T邸がかなり小さく見えるのは、周囲への配慮の表れである。庭の石や木も無駄にしないで、モダンな家にマッチした庭を自らデザインした。Tさん夫妻が使っていた調度品は趣味の良いものが多いので、リペアして新居で使うことを提案。長いこと大切に使ってきた思い入れのある緑色のソファに合わせ、外壁も同じ緑色に塗った。遠くの生駒山にも通ずる色だ。

カーテンや壁掛け時計、新しい家具など調度品の選定にも喜んで同行し、アドバイスを行った。奥様から「喋りやすくて聞き上手」と評される菅原さんが、「センセイ」ではなく「スガちゃん」と呼ばれている理由がよく分かる。



クルマ選びはリスクヘッジ

「2台クルマがあると便利」と語るTさんの車庫には、BMW340i(2016年型)とメルセデス・ベンツG55AMG(2005年型)が収まっている。選んだ理由はズバリ「リスクヘッジ」。

「会社を経営していると、なかなか思うような外車に乗れないものです。とくに昔はそうでした。でも中古ならいいだろうと、友人の乗っていたBMW325を譲り受けたんです。家内は大反対でした」

ところが奥様がお子さんたちを乗せて運転している際、高速道路の最後尾で追突されてしまう。前後の国産車は全損となったが、幸い家族は無傷だった。これを契機に奥様の考え方は180度変わり、以来30年ほどBMWを乗り継いでいる。

G55AMGを選んだのは、奥様がどこかで「ゲレンデヴァーゲン」を見かけたのがきっかけである。安心感があるので、長距離のドライブにはこちらを使うことが多い。数年前、中国地方を記録的なゲリラ豪雨が襲った時もドライブの最中だったが、悪天候に強いクルマで事なきを得た。常にガソリンを満タンにして、いざというと時にはシェルター代わりに、とも考えている。

いい施主は名建築の条件

身を守ってくれる安全なクルマ同様、この家はTさんに安心感を与えている。また、以前よりも気力が充実した毎日を送れているそうだ。建築家は若いので、今後の対応も心配ないだろう。そして施工会社の担当者も若い。そんな彼が、技術的に難しいT邸での様々な経験から、社内で信頼と評価を得ていることをTさん夫婦は喜んでいたのが印象的だ。

振り返ってみれば、この家を建てた理由のひとつが、「カッコイイ生き方を若者に示すのは、大人の役目」とTさんは話していた。それまで大きな実績のない若者たちが、チャンスを与えられたのがこの家である。そして託された彼らは、見事に応えた。なんともカッコイイ生き方ではないか。突き抜けた家は、建築家ひとりの力ではけして生まれない、と思ったものである。

SUGAWARADAISUKE
菅原大輔(1977年東京生まれ、早稲田大学大学院修了)。大学院修了後渡仏。世界的な建築家であるJakob+Macfarlaneや坂茂のパリ事務所を経て、2007年に自身の事務所を設立。住宅だけでなく、被災者の住宅や幼稚園、オフィスの設計を手掛ける。また、地方再生プロジェクトや美術館の会場構成にも関わるなど、幅広い分野で個性的な活動を行っている。多くのメディアで紹介された自邸には、小さなサイズなら駐車できるスペースが。今後予定されている郊外での仕事に備え、クルマを検討中とか。http://sugawaradaisuke.com/



敷地面積:567.23平方メートル
建築面積:220.19平方メートル
延床面積:269.73平方メートル
竣工:2013年
家族:夫婦
所在地:大阪府東大阪市

文=ジョースズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2017年3月号)

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