2022.02.24

CARS

土に返る寸前に救出されたポルシェ911ターボ、完全復活なるか!? 自動車ジャーナリスト、大井貴之の「続・俺の930ターボ物語」


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実は、一番の懸念がタイヤだった。すでに14年もののひびだらけで、もしかしたらペシャンコになるまで空気が抜けたことがあるかもしれないタイヤで走るなど、危険きわまりない。真っ先に交換を考えたが、純正サイズはフロントが205の55%偏平、リアは245の45%偏平で、共に16インチ。探してみるとフロントはまだ選択肢があったが、リアがなかなか見つからない。当時のスーパーカーはポルシェもフェラーリもコルベットも、どれもこのサイズだったのに。残された手段はインチ・アップし17インチにするか、同世代のカレラ用の225/50R16を履くかしかない。

かつては17インチを履いてブイブイいわせていたが、今はオリジナルの16インチを履く姿に惚れている。そこでいったん225の国産スポーツ・タイヤを装着。クルマの現状やタイヤの進化を考えれば、その選択は間違っていないという考え方もある。しかしスーパー・スポーツカーとして一時代を築いた930ターボに妥協したサイズでいいのか? クルマのポテンシャルを否定する行為では? と引っ掛かっていた。

旧いポルシェ専用のピレリ

そんな時、目にしたのがピレリからのニュースだった。それが、かつてのサイズやトレッド・パターン、サイド・ウォールはそのままに、現代の技術と最新のコンパウンドを用いたピレリ・コレツィオーネだ。フェラーリ250(!)用の“ステルヴィオ・コルサ”をはじめ、ランボルギーニ・ミウラやカウンタックなどに向け、かつてのチンチュラート・シリーズを新開発。そのピレリ・コレツィオーネには“forポルシェ”というシリーズがあった。

交換作業を行ったのは東京・世田谷区尾山台の環状8号線沿いにあるオートリーダーズ。ピレリ・タイヤのストックは非常に豊富だった。

ピレリは従来から往年のポルシェたちに向け、専用タイヤを33種類も開発していた。対応車種はナローにはじまる911シリーズ、水冷FRモデルや356、914/6など。ポルシェ公式サイトにある適合リストには、CN36やP6000、P7、Pゼロ・シリーズが掲載されており、930ターボの純正サイズもあった! そこでピレリ ジャパンに協力をお願いしたところ、モニターをさせてもらえることになった。

ついに本来のサイズだ。しかも20数年ぶりのポルシェ認定タイヤである。930ターボ用にはPゼロ・ロッソも設定されていたが、用意されたのは同じPゼロでも“ウルトラ・ハイ・パフォーマンス・タイヤ”という註釈の付いたトロフェオR。バリバリのハイグリップ・モデルだ。

タイヤ交換を終えた930ターボは本来の姿を取り戻した。リム幅9Jのホイールに225だとサイド・ウォールがちょっと痩せて見えたが、245はまさにジャスト・フィット。斜め後ろの低い位置からだと、その違いは明白だ。

オーバー・フェンダーとタイヤ、ホイールのマッチングは上々。Pゼロ・トロフェオRを装着することで930ターボは本来の姿を取り戻したと言える。わずかな隙間からはセミ・スリック・タイヤのような外側のショルダー部がチラリと見える。

まだインプレッションができるほど走り込んではいないが、さすがにドライ路面におけるグリップ性能に特化したモデルゆえ、やや硬めの乗り心地となるものの、小石をパチパチと跳ね上げるサーキット専用タイヤのようなソフト・コンパウンドではない。空気圧の調整で良いバランスが見つかりそうな雰囲気だ。フロントのサイズは変わっていないが、流石はウルトラ・ハイ・パフォーマンス・タイヤ。手応えは1ランク重くなった。けれど撮影用に首都高を走らせてみると、直進性も、小舵角のコーナーでのステアリング操作に対する正確性も高く、気持ちがいい。久しぶりに箱根に行こうよ! と930ターボに誘われた気がした。

クルマを延命させるという意味では、性能を重視したこのタイヤの選択は間違いかもしれない。しかし、ピレリPゼロ・トロフェオRを装着した930ターボは、まるで付き合いだしたあの頃の様に、コーナーからの立ち上がりで、ぐぐっとお尻を沈ませ、力強く加速していく。間違いなく、彼女は喜んでいると思った。最後の最後まで、スーパー・スポーツカーとして走らせてやる、そう心に決めた。

文=大井貴之 写真=阿部昌也 撮影協力=ピレリ ジャパン/オートリーダーズPORSCHE 930 TURBO

【前編を読む】
「半端なクラッシュだけはするな」26歳の誕生日プレゼントにとポルシェを貸した故徳大寺有恒氏の言葉がカッコいい 自動車ジャーナリスト、大井貴之の「俺の911ターボ物語」

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(ENGINE2018年7月号)

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