2021.12.21

CARS

航続距離は500km超え! 新時代の快速電動グランドツアラー、アウディeトロンGTを公道でテスト!!


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暗い地下駐車場でタクティクス・グリーンというアーミーな色のGTクワトロを受け取り、五反田から首都高と東名、新東名を経て一気に西を目指す。往路のスケジュールはけっこうタイトな上、御殿場までは交通量も多く、冷静にクルマとじっくり向き合えるようになったのはかなり時間が経ってからだった。



裏を返せば、EVだからと気を遣うことがそれまで一切なかったとも言える。テスラもIペイスも、もちろんタイカンも、今まで乗った同クラスのEVは、ここまで自然に身体が受け入れることはなかった。瞬発力はすごいが唐突な加減速や、エンジンからの振動や騒音がない代わりに耳障りなロードノイズなど、EVのメリットとデメリットは表裏一体で「いつもと違う」と感じる部分が必ずあるが、eトロンGTはそうじゃない。たとえ内燃エンジン車から乗り換えてもほとんど違和感がなく、むしろそのことに違和感を覚えてしまう不思議さがある。

それでいてリサイクル素材を用いたGTクワトロの室内は吸音効果が高いのか、静粛性が素晴らしい。新東名では突然の雨にワイパーを使ったのだが、大きな作動音が室内に響いて驚いた。なにもかもが進化すると、逆にこんな何も変わらないところが急に目立つものである。

高速巡航中のGTクワトロは、まるで内燃エンジン車のようなそぶりを見せる。省燃費モードではコースティングを、スポーツ・モードでは回生を優先するが、自動モードを選ぶとナビと車速センサーからコースティングと回生を絶妙に切り替えて、アクセレレーターを戻した時に、まるでエンジン・ブレーキが利いているかのように減速していくのだ。なお任意でも、パドルから回生を3段階に切り替え可能。そこからブレーキを踏んでも、メカニカルな油圧式ブレーキが働く前に、0.3Gまでは回生ブレーキがカバーするのだが、この協調制御もまったく抜かりがなく、自然そのものである。

eトロンGTは恐ろしく滑らかに速いクルマゆえに、その加速力に目を奪われがちだけど、EVでもグランドツアラーである以上、巡航時からの減速感をどう味つけし、どうドライバーに伝えるかは、派手な加速感の演出よりずっと重要なはずだ。



ナチュラルでマイルドなGTクワトロがいい

日本平ホテルに着き、わずかな猶予の間に撮影を終えると、すぐに真っ赤な出で立ちの復路で乗るRSがやってきた。GTクワトロのグレーのバンパーとアーミー・カラーの組み合わせの新鮮さに比べ、いかにも旧来のアウディRS的な仕立てだ。シングルフレームグリルの中が黒一色で迫力が増し、印象が180度違う。新東名で前を行くクルマの挙動も、ちょっと違う気がする。

午後は時間に少しだけ余裕があったので、箱根を経由して戻ることにした。RSはGTクワトロとは異なり、サスペンションがコイルからエアサスになり、タイヤが20から21インチになっている。GTクワトロに比べRSは、走行モードにかかわらず乗り心地は硬く引き締まっていて路面の凹凸を拾いやすいし、ステアリングも重く、はっきりとスポーティな仕立てになっていた。RSに標準装備の速度感応式合成サウンドも、それを助長しているように思える。キャラクターを明確に分けるための演出もあるとは思うが、どこまでもナチュラルでマイルドな印象を受けるGTクワトロの方が、RSよりもずっと好ましく感じられた。



電動化と自動化が進むクルマの大改革時代において、特に高級ブランドやスポーツカー・ブランドは内燃エンジンに変わる個性が必要になっている。EVであることを前面に打ち出し、内燃エンジンとの違いによる強烈な違和感自体をアピールする手もあったが、すでに使い古された感がある。だからこそアウディは単に速さだけでなくこれまで築き上げてきたノウハウを活かし、より人間の感性に寄り添う自然で、かつアイデンティティを残すクルマ造りを模索しているのではないか。僕はeトロンGTの試乗を終えてから、ずっと考え続けたのだった。

文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=柏田芳敬



■アウディRS eトロンGT
駆動方式 前後横置き2モーター4輪駆動
全長×全幅×全高 4990×1965×1395mm
ホイールベース 2900mm
トレッド(前/後) 1700/1665mm
バッテリー形式(容量) リチウムイオン電池(93.4kWh)
一充電走行距離(WLTC) 534km
車両重量 2330kg
最高出力(ブーストモード時) 598.2ps(645.8ps)
最大トルク(ブーストモード時) 830Nm(830Nm)
トランスミッション フロント1段/リア2段
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エア
(後) マルチリンク/エア
ブレーキ(前後) タングステンカーバイト・コーティング鋳鉄ディスク
タイヤ(前/後) 265/35R21/305/30R21
車両本体価格 1799万円

■アウディeトロンGTクワトロ
駆動方式 前後横置き2モーター4輪駆動
全長×全幅×全高 4990×1965×1415mm
ホイールベース 2900mm
トレッド(前/後) 1710/1695mm
バッテリー形式(容量) リチウムイオン電池(93.4kWh)
一充電走行距離(WLTC) 534km
車両重量 2280kg
最高出力(ブーストモード時) 475.9ps(530ps)
最大トルク(ブーストモード時) 630Nm(640Nm)
トランスミッション フロント1段/リア2段
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) タングステンカーバイト・コーティング鋳鉄ディスク
タイヤ(前/後) 245/40R20/285/40R20
車両本体価格 1399万円

(ENGINE2022年1月号)

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