フロントはレーシングカーの911RSRから移植されたダブルウィッシュボーン、リアは従来と同じマルチリンクの足回りは、カレラより20mm低められているだけではなく、明らかにスプリングも可変ダンパーも固められている。公道を走り出すと、路面の荒れをドシンバタンと押さえつけるようにして走っていく、これまた996型GT3のようなタイプの足であることが分かった。決して乗り心地が悪いとまでは言わないが、レーシングカーに乗っているような感覚がずっと付きまとう。遮音も最小限なようで、エンジン音や排気音はともかく、跳ね石がタイヤハウスに当たる音も丸聞こえだし、エンジン・マウントもかなり締め上げてあるようで、シートやステアリングまで、自然吸気フラット6の鼓動が常に振動となって伝わってくる。ステアリング上のロータリー・スイッチを回して選択するドライブ・モードは、ノーマル、スポーツ、トラックのみで、992型カレラから新たに加えられたレイン・モードのようなヤワなものはない。しかも、シャシーの設定はスポーツとトラックのみだから、ノーマル・モードでもシャシーの選択はスポーツで、スポーツ・モードにするとシャシーは自動的にトラックが選ばれる。箱根まで高速道路を走って行くのは、正直言って、アッという間だった。とにかく、まわりが止まって見えるくらい速いとでも言っておくしか、この速さを伝える方法がない。0- 100km/h加速が3・4秒、最高速度318km/hの速さは、とても公道で体感できるものではないのだ。普通に走っている限りでは、9000rpmからがレッドゾーンになる目の前の大型回転計の針が、真上の5000rpmを超えることはない。時速100km、7速時の回転数が2500rpm。かつての6段MTの6速ギアと同じくらいか。カレラの8速ギアを取り払って軽量化も図った7段PDKは、最高速も7速で出している。わざと低いギアを選んで回転数を上げていくと4000rpm付近で音が変化し、針が真上を超えたあたりからは、クォーンという快音を立てて激しさを増していく。とてもじゃないが9000rpmまでは回せない。もし、これがマニュアル・ギアボックスだったら、9000rpmまで回してシフトアップする時の緊張感たるや、半端なものではないだろう。
箱根の山道での走りっぷりは、まさに外観どおりのレーシーなものだったと言っていい。ステアリングを切り込んで行った時のダイレクトかつシャープな鼻先の動きは、GT3のものというより、先代で言えばGT3RSに近いと思った。実際、ニュルブルクリンク北コースでのラップタイムは、先代GT3より17秒速い6分59秒で、それは先代RSよりも僅かに速い数字だというから、乗り味がRSに近いと感じてもおかしくはないだろう。その17秒を、10psだけ増強されたパワーではなく、レーシングカーから移植されたシャシーやスワンネックの巨大なリア・ウイングを始めとする空力パーツで稼ぎだしているところが、新型GT3の真骨頂だと見るべきではないか。思えば、初代はあれほど硬派だったGT3も、その後はカレラ・シリーズがそうであったのと同じく、より速くなりながら、その一方で、より乗り易く、快適になる方向で進化してきた。先代の991後期型GT3など、これなら普段使いにも十分通用すると思えるほど乗り易いと感心したものだ。ところがこの新型はまったく違う。明確にスポーツを志向した、レーシングカーを、とりあえず公道走行も可能にしたようなスパルタンなマシンに先祖返りしている。ポルシェはいま、再び大きく舵を切ったのだと思った。
▶「ポルシェのおすすめ記事」をもっと見る文=村上政(ENGINE編集長) 写真=柏田芳敬■ポルシェ911 GT3駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動全長×全幅×全高 4573×1852×1279mmホイールベース 2457mm車両重量(車検証) 1470kg(前軸570kg:後軸900kg)エンジン形式 直噴水平対向6 気筒DOHC排気量 3996ccボア×ストローク 102.0×81.5mm最高出力 510ps/8400rpm最大トルク 470Nm/6100rpmトランスミッション デュアルクラッチ式7段自動MT(PDK)サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイルサスペンション(後) マルチリンク/コイルブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク(試乗車はセラミック)タイヤ(前/後) 255/35ZR20/315/30ZR21車両本体価格(税込み) 2296万円(ENGINE2022年4月号)
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