2022.03.17

CARS

EV事業でホンダと手を組んだソニー 協業にまつわるこれだけの期待と不安

“人の命に関わる製品は扱わない”という創業以来の掟を持つソニーが、ホンダと組んで電気自動車を作ると発表した。果たしてこの協業、うまくいくのだろうか? 自動車評論家の国沢光宏氏が解説する。

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ソニー本社での緊急記者会見

3月4日の昼過ぎ、突如夕方からソニー本社で緊急記者会見を行うという案内がホンダから届いた。内容はすでに報じられている通り、ソニーとホンダの協業により電気自動車を作るというもの。ソニーが電気自動車を作りたい旨の話はすでに出ていたけれど、具体案は何も発表していなかった。とはいえ自動車メーカーと組むことになるだろうとは予想出来た。以下、アウトラインを紹介したい。

毎年1月にラスベガスで開催される最新テクノロジーの見本市『CES』で、前回に引き続き今年もソニーが電気自動車を出展した。車両そのものはBMW Z4などの生産を手がけている『マグナ』のプラットフォームを使っているため、自動車メーカーの試作車並みにしっかり作られている。ただ前回は「電気自動車や自動運転車の車内エンターティメントを提案したい」という意味合いでした。

業界の方なら御存知の通り、ソニーには「人の命に関わる製品を扱わない」という創業以来の”掟”みたいなものが存在しており、その流れからすれば命に関わる商品の代表みたいな自動車は、間違いなく「扱わない対象」になる。ところが今年のCESでは「電気自動車事業を担当する新会社ソニーモビリティ」を今年春に設立する」と発表したのだった。明らかに今までと違う流れ。

この発表を受け、多くのメディアが「ソニーもテスラのような電気自動車メーカーを立ち上げるのか?」という記事を出した。私も先日BS11の電気自動車特集番組に呼ばれ、ソニーの件を聞かれました。結論から書くとソニーモビリティは「今後どうやって電気自動車と関わっていくか本格的な検討を始める部門」くらいのイメージでいいと思う。すぐ電気自動車を作るという話じゃない。

実際、ソニーが電気自動車を作るのかという取材を受けた際のコメントを意訳すると「現時点で電気自動車工場を新設するつもりはない。販売や整備をするようなディーラーを作って行くようなことも考えていない」。テスラになる計画なし、という理解でいいんじゃなかろうか。だったらソニーは自動車を作らないかとなれば、完全否定でもないような雰囲気です。

ソニーがクルマ作りをホンダに委託?



例えば、である。ソニーが企画&プロデュースした電気自動車を、既存の自動車メーカーに委託して開発&生産して貰う。販路は電気自動車の新しいスタンダードであるオンライン。納車や整備を開発&生産委託した自動車会社に依頼すれば、ソニーが作りたいソニーのフルエンターティメント付き電気自動車を「人の命が関わらないカタチ」で販売出来る。

アップルが企画している『アップルカー』もアイフォーンと同じく、アップル側でスペックを決め、既存の自動車会社に生産委託するビジネススタイルになると言われている。ソニーモビリティの設立を見て「ソニーで電気自動車を作るならアップルカーのようなアプローチになるだろう」ということは容易に想像出来た。そして今回ソニーが協業相手としてホンダを選んだということになります。ホンダというメーカー、ブランドイメージも申し分なし。

ソニーと開発経費をシェア出来れば、ホンダとしても出遅れ気味になっている電気自動車のバリエーションを増やせる。加えて開発、生産、整備部門を請け負うことで利益を確保出来ます。参考までに書いておくと。3月14日時点に於けるソニーの時価総額(企業価値)は14.5兆円。ホンダが5.7兆円。ソニーからすれば、ホンダにクルマ作りを委託する感覚か?

さて。映画ならここでオシマイながら、現実には続きがある。ソニーもホンダも独特の社風を持っており、お互いプライドが高い。ソニーは上位に立ってアレコレ指示出したくなるだろうけれど、興味深いことにソニーの技術力を高く評価しているホンダの技術者はほんとどいないと聞く。トヨタとパナソニックの協業だったWiLLのようにならないことを期待したい。

文=国沢光宏(自動車評論家)

(ENGINE WEBオリジナル)

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