2024.02.03

CARS

「オヤジのSR、オレの911」 レストアラーの父と、ミュージシャンの息子という親子を結ぶ、フェアレディとポルシェのストーリー

フェアレディSR311(1968)とポルシェ911Sタルガ(1972)

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親子を繋いだ911

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一方の911Sタルガが本誌に登場するのは、これが2回目。実は本誌15年6月号のポルシェ特集の際、レストア前のボロボロの状態の時に取材させてもらっているのだ。

「あの時“今度取材する時はオレのクルマになっていますよ”って言ってたでしょ(笑)」

確かにその時の取材ノートを見返すと昌光さんはそう言っていた。当時は冗談だと思っていたが、かなり本気だったという。

本誌2015年6月号に掲載されたレストア前の911(写真=柏田芳敬)。昌光さんが乗っていた997の姿も見える。

「5~6歳のときに遊んでいたスロットカーでかっこいいと思っていたのが、シェルビー・コブラとポルシェ。でも父は昔から911が嫌いなんですよ。“どんなに頑張って仕上げてもあいつらは素のままで速いから”って」

しかし、この911が親子の距離を縮めるきっかけにもなった。

「父からは中学出たらレース屋に丁稚に行けと言われていたんですが、僕は音楽の道に行きたくて名古屋に出た。その後ミュージシャンになってから10年くらい、あまり接触もなかったんです。でも年齢を重ねてクルマに向き合う余裕が出てきて、父のSRを迎えようと思いました。そうなるとガレージが必要なので、鈴鹿に戻ることにしたんです」

工房から少し離れた場所に家を建て、2台が収まるガレージを構えた昌光さんは、昔から好きだったポルシェを手に入れた。

「直すうえで共通してるのは、どれも自分のクルマだと思ってやってる。乗ってみてちょっとでも気に入らないところがあれば何回でもやり直す。自分のクルマならそうするでしょ? だから完全な店にはしたくないんですよ」という功さんが仕上げた1972年型ポルシェ911Sタルガ。その出来栄えは個人レストアの域を超えたもの。

「当時空冷はまだ安くて、いつでも乗れるって気持ちもあったので、一番新しいのが良いなと997にしたんです。でも素晴らしいクルマなんだけど、ずっと維持していく類ではないなと考えていました」

そんなタイミングでレストアのために持ち込まれたのが、この911だったというわけだ。

「父の工房でレストアして、だんだん形になっていくうちに可愛くなってきて。俺に売れってオーナーを3年かけて口説きました(笑)。でも結果的にこいつがきたことで父が嫌いだったポルシェに振り向いてくれた。いまだにお互いクルマの話しかしない。これだけで繋がってるんです」




受け継がれるスピリット

長年雨ざらしになっていたおかげでボディは錆だらけ、エンジンは911SCの3リッターに載せ替えられ、シートなど内装も欠品だらけ……という状態の911だったが、1年半ほどの作業でご覧のような素晴らしい状態に蘇った。

「ガレージに置いてあるドゥカティのイエローデスモは僕の生まれた年に父が買ったもの。だからポルシェは息子が生まれた年にどうしても完成させたくて、工房一丸になって仕上げました」



この911もパッと見はオリジナルに見えるが、エンジンはハイコンプレッションの911S用2.2リッターユニットが載せられ、トーションバーやマフラー、ステアリングなどをカレラRS用に換えるなど、通好みのモディファイが加えられている。

「軽いし、圧縮を上げてるし、200km/hまでの加速なら930ターボにも付いていける。しかもタルガってボディが柔いことが多いけど、これはすごくしっかりしてるんです」

昌光さんのいう通り、しっかりしたボディに吹け上がりの鋭い2.2リッターユニット、程よく締まった足まわりのバランスは絶品で、功さんのレストア技術の確かさを改めて体感することができた。



「このエンジンには強化型のスタッドボルトを入れているんですが、先日タペット調整をした時に緩んでいたのを見つけて、クランクケースまでバラして組み直したところなんです。エンジンを降ろすのはこれで3回目。こういうクルマは自分でやらないと維持できないですからね。幸い工房も使えるんで助かってます」

ちなみに功さんによると、岡家には「クルマってのは、走ったらリフトにあげてタイヤから何からもう全部外して、“今日はありがとうね”って磨くもの。1時間乗ったら2時間磨け」という鉄則があるそうだが、SRだけでなく、クルマに向き合うスピリットもしっかりと親から子へ、そして孫へと受け継がれつつあるようだ。

文=藤原よしお 写真=望月浩彦

(ENGINE2023年2・3月号)

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