ポルシェのアイコン的スポーツモデル、911が誕生してから60年。先日ポルシェ・ジャパンは911誕生60周年を記念した限定車、「911 S/T」の予約受注を開始した。911GT3RSの4リッター525馬力の自然吸気フラット6に6MTを組み合わせるというなんとも魅力的なモデルが新たに登場したことになる。60年の間に記憶に残る数多くのモデルが登場した911、雑誌『エンジン』でもこれまでたくさんの911を取り上げてきた。そこで911誕生60周年記念として『エンジン』の過去のアーカイブから"蔵出し"記事を厳選してシリーズとしてお送りする。1回目の今回は、エンジンの前編集長の鈴木正文氏とモータージャーナリストの吉田匠氏が、今はなきミツワの御殿場ファクトリーを訪ねて歴代911を乗り比べた2012年2月号に掲載された「歴代911のベストを探す ナローから993まで空冷モデルにイッキ試乗!」を前篇、後篇の2回に分けてお届けする。
ナローから933まで空冷モデルにイッキ試乗!【前篇】
1963年のデビュー以来、リアにフラット6を置く基本レイアウトを変えることなく、独自の進化を遂げてきた911。新型が登場するたびに「最新が最良」と言われ続けてきたが、では歴代911のなかのベストはどれなのか。徹底検証する。ポルシェといえば空冷モデルに尽きると考えるエンスージァストは、いまも決して少なくない。いったいどこにその魅力の源泉があるのか。ナローから993まで、いまも現役の7台を乗り較べながら探ってみた。
ーー「最新は最良」という言葉どおりなら、911はその前の356より良いスポーツカーで、最良の空冷911は必然的に993になります。
吉田 356から911になって、まずは飛躍的に速くなった。でも、否定派もつねにいるわけ。たとえば、356でヨーロッパ中を走り回ったモータースポーツ・ジャーナリストのデニス・ジェンキンスは……。
スズキ 1955年ミッレ・ミリアで優勝したスターリング・モスのコ・ドライバーだった人だ。
吉田 ポルシェを正しくグランツーリスモとして使いこなしていた彼だから、当然911に乗り替えると思ったら「あんなものはいらない」とジャガーEタイプを買った。
スズキ 911になってからも、新しいのが出るたびに拒否反応もある。「これはもう俺の911じゃない」という人はかならず存在する。
ーー現代の感覚では、ポルシェ911は中量級の高性能スポーツカーという感覚ですが、ナローは違う。
吉田 そう、ナローを後の世代の911と較べると、見ても乗っても「ライトウェイト・スポーツカー」だ。ナローはいちばん重いモデルでも1.1t足らずで、1969年式のSにいたっては、マグネシウム・クランクケースを使って995kgしかない。2リッターエンジンの2+2で1t切る。今のクルマと単純には較べられないけど、すごく軽い。
ーー今回でいうと、68年式のSだけがオリジナルのショート・ホイールベース。69年以降のホイールベースは993までずっと変わらない。
スズキ 今回も68年式だけはプロポーションが違っていて、最初は奇妙な感じだったけど、だんだんカッコよく見えてきた。ロングのほうがわかりやすいスポーツカー・ルックというか、エレガントだけど。
吉田 若いときはロングのほうがカッコいいと思っていた。ショートは後ろがいかにも重そうで、見た目はロングのほうが安定感はある。でも、ショートのほうが乗って面白いとわかると、「アンバランスの魅力」だと思えるようになった。ロング・ホイールベースの911がエレガントなら、ショートはチャーミング。
スズキ それにしても、エンジンはどれも素晴らしい。Sの2リッターは7200rpmのリミットまでかけ値なしに回る。2.2リットルになるとトルクがあって、しかも十分に鋭い。
吉田 それはしっかりと調整されて、コンディションがいいおかげもある。一般的には排気量が大きいほど911は眠くなるといわれているけど、今回の70年式のT(2.2リットル)は本当にレスポンシブ。2リッターでも、これより鈍いのはたくさんある。
スズキ ナローでクラシック・カー・ラリーに出たことがあるけど、911は速い。もちろん、現代のクルマに較べて絶対的に速くはないけど、それでも十二分に速くて、ものすごくドライビング・プレジャーがあって、安心感がある。ブレーキのタッチまで、すべてきちんとしているから信頼できる。たとえば同じ時代のジャガーだと、どんなに整備してあってもどこかに不安が残る。
吉田 911はしっかりと仕上げれば、壊れる心配をしながら走る必要がない。ヒストリック・カーのイベントでは、ナローの911は圧倒的に速くて信頼感がある。
スズキ 英国スポーツカーの多くが、トラックみたいなシャシーになんてことはない量産車のエンジンを積んでいた時代に、911はエンジンも含めてすべて専用で洗練されていた。軽くて、重心が低くて、コーナリングも含めてトラクションがよくて、目が覚めるような素晴らしい性能だった。フェラーリのようなレーシング・ブリードを、公道レースで追い回して勝ったりもした。911は量産スポーツカーなのに。
吉田 たった6気筒で、12気筒を打ち負かしたわけだ。
スズキ 911は最初から実用スポーツカーなんだということが、ナローに乗るとよくわかる。
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