納車を祝って集まってくれたシトロエンたち。右側はかつて僕が託された3代目のエグザンティア。こうして今の4代目と2台が並ぶ日が来るとは、感無量である。
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タイヤ選びは二者択一
タイヤに関しては、事前にカークラフトから「希望の銘柄はありますか?」と尋ねられていた。基本的には安価なタイヤ履かせ、その代わり早め早めの交換をすることを推奨しているそうだが、エグザンティアに組み合わせるなら真円度が高く、ホイール・バランスが取りやすいミシュランかハンコックがいいという。この年代のエグザンティアは185/65R15という、今どきはエコタイヤしか設定のないサイズだし、特にグリップや転がり抵抗について配慮が必要なクルマじゃない。
僕は基本的にシトロエンのハイドローリック機構を持つ足まわりは、タイヤに大きく依存しないところがいいところだと思っている。なにせ修復前の、かなりすり減ってブロックが一部剥がれ落ちた5年オチのミシュラン・プライマシー3と、圧力が抜けかけたスフェアでも、なかなか上質な乗り心地で驚いたくらいだったのだ。
とはいえシトロエンといえばミシュラン、というのが誰しも考える組み合わせだろう。だが今回、僕はあえてハンコックを選んだ。純正装着している近年のクルマで試乗しても悪い印象がなかったし、現状のプライマシー3との比較もできる。予算も3/4ほどで収まる。ミシュランは次のタイヤ交換のタイミングまでとっておいて、差をリポートするのも面白そうである。
2021年末にカークラフトに入ってきた情報では、ミシュランは在庫の兼ね合いか生産から時間が経ったものが多いが、ハンコックは新品に近いものが比較的手に入りやすいという。サイズを伝え在庫を確認すると、見つかったのはKINERGY ECO2(キナジー・エコ2)という銘柄だった。ロードインデックスは88、スピード・レンジはTである。ただ、到着してみると生産年は2020年12月と、ちょうど1年近く前のものだった。
この年代のシトロエンやプジョーはセンター・ホールがないホイールが多く、専門店でないとバランスが取れないこともあるが、キナジー・エコ2を組み合わせたのはアクティバの15インチのアルミホイールで、センター・ホールのあるタイプ。表も裏もすべてピカピカに磨いてからタイヤを組み付け、丁寧にバランスを取ると、わずかなウエイトだけでビシっと綺麗に回るようになった。
さて、ここまで終わればもう楽勝と思いきや、さにあらず。24カ月点検と車検を受け、公道テストがはじまったら、なんと空調がちゃんと動いていないことが発覚。これが以前#12と#14の内装リペアの時にご報告したトラブルである。暖かな風も冷たい風も出ることは出るのだが、風量が弱く、強くすると出なくなる。原因はブロア・ファン・ユニットに付くレジスターだ。前オーナーが2つストックしていた新品があったのだが、交換すると残念ながら2つとも不良品だった。仕方なく、またしてもアクティバからレジスターを取り外して試したところ、ようやく復活。ストップ・ランプは流用できなかったが、ホイールもレジスターも全部アクティバがあってこその話。本当にアクティバ様々である。
納車の日こそクルマ好きの天国
こうして2022年3月末日、入庫から10カ月を経て、見事エグザンティアは復活した。カークラフトとは20数年来の付き合いだけれど、こうしていちユーザーとして整備してもらったクルマを受け取るのは初めてのことだ。
これから乗るにあたって何か注意事項は? と尋ねると、ごく普通に乗って使えばいいよ、という少々あっけない答えが返ってきた。ただ、電動シートやサンルーフなどのスイッチを押し続けて負荷を掛けたり、シートのサイド・サポート部に乗り降りの際に体重を掛けるのは、極力やめた方がいいとのこと。これは一度分解して、その繊細さを知っているだけによく分かる話である。
また無意味に車高の上げ下げや、ハイドラクティブ2の走行モードの硬軟切り替えをするのも、やめておいた方がいいという。ハイドローリック回路はまだまだ手を付けていない信頼できない部分もあるからだ。また、最低1年に1度、油脂類など消耗品を点検・交換するため入庫するのが望ましいとのこと。とはいえ、これはクルマや乗り方にもよって違うから絶対1年で、とはいえないそうだ。まぁ10カ月も入庫していたのだから、そうそうすぐには戻ってきたくはないけれど……。
さらにあれは大丈夫か、これはいいのか、としつこく聞いていると、カークラフトの篠原さんはニヤリとした。「これだけ広範囲に渡って整備をしたとはいえ、ここまで距離を長く走っているクルマだから、何が起こるかなんて分からない。ようやく納車だけど、今日が天国だなんてとんでもない。この時代の、この手のクルマの地獄はこれからだよ(笑)」
この言葉が真実か否か。その答えは、すぐに出たのだった。
撮影のためカークラフトの近隣を走っている時は、僕は久しぶりにエグザンティアに乗って、うれしくて舞い上がっていたのだろう。帰り道、高速に乗って、やっと落ち着いて1人エグザンティアと向きあって、ようやく違和感に気がついたのだ。そしていったん芽生えてしまった疑惑は、走れば走るほど深まっていき、走り慣れた首都高速道路で確信に変わり、愕然とすることになる。
「これ、足まわりが……なんだか……硬くないか? ……まさかハイドラクティブ2のサスペンションが、ずっとハードなモードのまま固定されている?」
乗り心地が命のシトロエンなのに、足がずっと硬いなんてあり得ない。さぁ、なんと納車の初日から、天国どころか地獄のはじまりである……。
■CITROEN XANTIA V-SX シトロエン・エグザンティアV-SX
購入価格 7万円(板金を含む2022年4月時点までの整備の支払い総額は216万9326円)
導入時期 2021年6月
走行距離 15万9247km(購入時15万8970km)
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=岡村智明/カークラフト
(ENGINE WEBオリジナル)
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