2023.12.09

CARS

【保存版】ロータスの凄いヤツのようなシャープなハンドリングのマクラーレンと金切り声を上げてブン回る多気筒エンジンのガヤルドの対決!【『エンジン』蔵出しシリーズ/マクラーレン篇】

エンジンとハンドリングの違い

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村上 対照的だったのは、脚だけじゃない。エンジンも考え方の方向性がまるっきり違っていた。自然吸気方式を採るガヤルドが優に90mmを超えるロング・ストロークで、ターボ過給を採用するマクラーレンが超ショート・ストロークになっている。それでいて、ロング・ストロークのランボV10が高回転までバンバン回すタイプで、最高出力も8000rpmで叩き出すのに対し、ショート・ストロークのマクラーレンV8ターボは過給圧で勝負するむしろ古典的なターボ・エンジンだった。回せば8500rpmまで回せることになっているけれど、最高出力は7000rpmで得ている。回した時の気持ちよさはガヤルドの方が圧倒的に上で、マクラーレンはとにかく必要な時に必要なパワーが引き出せればいい、としか考えていない感じすらする。

2012年当時のランボルギーニ・ガヤルドLP570-4スーパー・トロフェオ・ストラダーレの価格は3136万8750円。


齋藤 回したければショート・ストローク、過給するならロング・ストロークというのが定石なのに、2台はまるっきり逆。それなのに、味わいはそれぞれ、自然吸気、高圧過給型に典型的なものになっているのが面白い。ちょっと倒錯入っている。ランボのV10は踏めば電光石火のレスポンスを見せて弾けるように回る。マクラーレンのターボV8はレスポンスはむしろ鈍いぐらいに感じるけれど、負荷がかかった状態でのピックアップはタイトで、ドドーンと大トルクを捻り出してくる。どちらも600ps級だけれど、びっくりするぐらいに違う。

村上 マクラーレンは相当高い過給圧を使っているはずだ。なにしろ3.8リッターで600psだから。峠道を走っていてちょっと戸惑ったのは、アクセレレーターを戻しても、エンジン・ブレーキがほとんど効かないこと。それに、撮影のために、低速でピタッと速度一定で走ろうとしても、それが容易には決まらなかったこと。どちらも、機械的に低い圧縮比で高い過給圧を利用するところに関係してのものだと思う。

90度のVバンク角をもつ5.2リッターV10はアウディが開発に絡んで生み出されたもの。そのせいもあってかスモール・ボア×ロング・ストロークで、多気筒であるにもかかわらず、エンジン長は短く押さえられている。逆にエンジン高はかさむが、ドライサンプで全高を押さえている。


齋藤 ターボ過給エンジンでも10対1を超える圧縮比が珍しくない今日日にあって、マクラーレンのそれは8.7対1だもの。エンジンそのものは最近の設計なのに、この値。直噴も採用していないしね。このエンジンの性格の違いが、変速機の感触にも影響していると思う。デュアル・クラッチのマクラーレンより、シングル・クラッチのガヤルドの方がキレ味が鋭かった。カンカンと変速指令についてくる。マクラーレンは機構的な優位性が、自動変速モードでは生きているけれど、マニュアル変速時にはエンジンに合わせて待っている感じがあった。それと、変速プログラムの細かな煮詰め具合でもガヤルドに分がある感じがした。

村上 同感だな。でも、ハンドリングについては、マクラーレンの方が明らかにシャープだった。とにかく重心が低くて、まるでレーシング・カーみたいな感覚がある。そもそも着座位置がきわめて低いマクラーレンは、同時にスカットルが例外的に低い。だから、路面がまるで手に届くかのようによく見える。そのせいか、視覚的に鼻先の存在を意識させられることがない。4本のタイヤの位置もきわめて把握しやすい。だから、まるで車体の中心線上に座っているかのようにすら感じることがある。鼻先の動きは実際にも軽い。ステアリングへの追従性と正確さは驚異的で、どんな微妙な操作にも忠実についてくる。

齋藤 でも、ステアリングがクイックにすぎることもない。微妙な操作がやりやすい。専門用語だと、分解能が高いっていうのかな。凄いよ。一方のガヤルドは、4WDのおかげで、コーナリング中もスタビリティが高いのが美点。そこへクイックなステアリングを組み合わせて、ちょっと強引なぐらいに鼻先を入れていく。切れば切っただけグイグイと曲がるように仕立ててある。曲がってやるから、あとは踏め、といってくるみたいな感じがある。流儀はちがうけれど、これもよく曲がる。ちょっと腰が高い感じはするけれどね。

「本質」と「演出」

村上 新しくて古いマクラーレンと、古くて新しいガヤルド。

齋藤 その心は?

村上 つまり、カーボン・モノコックや独自の電子制御サスペンション、これも電子制御の可変リア・スポイラー&エア・ブレーキなど、一見、最新技術満載のマクラーレンがやっていることは、実は、きわめて古典的にして純粋主義的な正しいスポーツカーづくりそのものだ。全体を小さく軽く作って、重いものは極力、車体の中心近くに低く置いて、資質そのものを磨き上げている。一方のガヤルドは、カウンタック以来の古典的なスーパーカーの立ち位置を迷いなく受け継ぎながら、アルミ・スペース・フレームや4WDシステム、直噴エンジンなど、構築する個々の要素にロード・カーとしての最新の設計を導入して成り立っている。

“新しくて古い”か“古くて新しい”か


齋藤 であると同時に、エンジンよりも、ステアリング・フィールやハンドリング性能に明らかに重きを置いているところが、マクラーレンはいかにも英国のスポーツカー的。ロータスの凄いヤツと思えば、ちょっと乱暴な言い方かもしれないけれど、大筋で間違いない。一方で、ガヤルドで輝くのはなんといっても金切り声を上げてブン回る多気筒エンジンで、排気音の強烈な演出も含めて、形と音にこだわるいかにもイタリア的なスーパーカーになっている。ガヤルドはアウディの後ろ盾をいかんなく活かして作られたクルマだから、そこに理詰めのジャーマン・エンジニアリングの血も入っているから、スタイリングとサウンドだけでなく、走っても凄みがある。

村上 今回は、上陸ホヤホヤのマクラーレンMP4-12Cとランボルギーニ・ガヤルド・スーパー・トロフェオ・ストラダーレを引っ張り出したけれど、これにフェラーリ458とポルシェ911ターボを加えた4つ巴の熾烈なスーパー・スポーツ新時代の闘いが始まろうとしている。キイワードは「本質」と「演出」。新技術を駆使して、いかに走りの本質を磨いていくか、そしてもう一方で、いかにドライバーの気持ちを駆り立てる演出を凝らすかが、勝負の行方を決める。マクラーレンの再登場によって、闘いの火蓋は切られた。

齋藤 マクラーレンの乱入は、間違いなく時代の流れを加速させる。

村上 スーパー・スポーツカーに子供たちが群がる時代がふたたびやってくるといい!

話す人=村上 政(ENGINE編集長)+齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=小野一秋

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■マクラーレンMP4-12C
駆動方式 ミドシップ縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4509×1908×1199mm
ホイールベース 2670mm
トレッド 前/後 1655/1585mm
車輛重量 1450kg(前600kg:後850kg)
エンジン形式 90度V型8気筒DOHC 32Vツインターボ
総排気量 3799cc
ボア×ストローク φ93×69.9mm
最高出力 600ps/7000rpm
最大トルク 61.2kgm/3000-7000rpm
変速機 デュアル・クラッチ7段自動MT
サスペンション形式 前 ダブル・ウィッシュボーン/コイル
サスペンション形式 後 ダブル・ウィッシュボーン/コイル
ブレーキ 前後 通気冷却ディスク
タイヤ 前/後 235/35ZR19/305/30ZR20

■ランボルギーニ・ガヤルドLP570-4 S.T.S
駆動方式 ミドシップ縦置き4輪駆動
全長×全幅×全高 4386×1900×1165mm
ホイールベース 2660mm
トレッド 前/後 1632/1597mm
車輛重量 1540kg 前660kg:後880kg)
エンジン形式 自然吸気90度V型直噴10気筒DOHC 40V
総排気量 5204cc
ボア×ストローク φ84.5×92.8mm
最高出力 570ps/8000rpm
最大トルク 55.1kgm/6500rpm
変速機 シングル・クラッチ6段自動MT
サスペンション形式 前 ダブル・ウィッシュボーン/コイル
サスペンション形式 後 ダブル・ウィッシュボーン/コイル
ブレーキ 前後 通気冷却ディスク
タイヤ 前/後 235/35ZR19/295/30ZR19

(ENGINE2012年11月号)

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