2024.10.03

CARS

これぞ完全無欠のフェラーリ GTC4ルッソは、どんなスポーツカーだったのか?【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】

フル4シーターのフェラーリ、FF改めGTC4ルッソに試乗!

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完全無欠のフェラーリ

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キャンピング・カーが別のルートへ逸れると同時に、右足に力を込める。0-100km/h加速3.4秒とFFよりもコンマ3秒速くなった加速性能を思う存分楽しむことは叶わなかったが、その片鱗は垣間見ることができた。FFを30馬力上回る最高出力を発生する8000rpmを超えてレヴリミットの8250rpmまできれいに伸びる。そんな高回転域以上に好感度が高かったのは中回転域でのトルク感。2速が中心で、コーナーの直前でようやく3速に入るか入らないかというつづら折りのワインディングでは、最大トルクを発生する5750rpmを挟んだ3000~6000rpmあたりを上手に使った方が、気持ちよく、そして速く走れる。

エグゾーストに装着された新しいバイパス・バルブにより、スロットル開度が小さいときの音量が従来よりも抑えられた。これはGTカーとして求められる性能を再考した結果の選択だという。室内の遮音性が高められたこともあって、街中を流しているときの静粛性はサルーンに勝るとも劣らない。もちろん、ひと度フルスロットルをくれてやれば、もはやフェラーリでもこのV12でしか味わえなくなった自然吸気特有の音が響き渡る。ただし、圧縮比を12.3から13.5へと上げるなど高効率化が図られたトレードオフからか、音質はひと昔前と比べると透明さが若干薄れたように感じた。しかし、それでもなお無駄にアクセレレーターを踏みたくなるほど、魅力的なサウンドであることに変わりはない。



ドロミテ山群の裾野を縫うように走るワインディングを駆け巡る。次々と現れるコーナーをGTC4ルッソは難なくこなしていく。気持ちいいほど鼻先が素直に入り、旋回能力も秀逸。タイトコーナーでも3mという長いホイールベースを感じさせないほどクルンクルンと身軽に向きを変える。出口が見えたところで強めにアクセレレーターを踏み込むと、次のコーナーへ吸い込まれていくように加速。ヨー(重心を通る縦軸を中心にクルマが回転しようとする力)が残っているにもかかわらず、タイヤが横滑りする気配など微塵もない。路面を掴んで離さないというよりも、まるでレールの上を疾走しているかのような安定感なのだ。GTC4ルッソには、PTUevoへと進化した前輪駆動システムと電子制御式リア差動制限装置のEDiff3による4輪トルク・ヴェクタリング、F1-Trac(トラクションコントロール)、SCM-E(可変ダンピング・システム)といったFF譲りの運転支援装置に加えて、F12tdfに次いで後輪操舵機構が新たに採用された。これらをすべて連携させることで、圧巻のハンドリング性能を実現しているのだ。ただ、あまりに制御が緻密過ぎて、コーナリングのどの段階でどの機構が役立っているのかはまったくわからない。はっきりしているのは、GTC4ルッソではドライバーが労せずして高い操縦性能を手にできるということだ。

今回GTC4ルッソに乗って、私はFFを初めて見たときから大きな勘違いをしていたことに気が付いた。フェラーリはFF、そしてGTC4ルッソを単に高い実用性と利便性を備えたクルマにしたかったわけではない。高い実用性と利便性を備えたフェラーリを造りたかったのだ。フェラーリであることは、すなわちSUVであることも4ドアであることも許されない。もちろん仮想敵はパナメーラだったり、レンジローバーだったりするのかもしれないが、そんなライバルたちを欲しがるユーザーを取り込めるフェラーリであることに存在意義があるのだ。しかも、ロング・ルーフ・スタイルや4WDといったGTC4ルッソに盛り込まれた要素はいずれも、このクルマを引き立てることに役立っている。コンセプトにブレはない。GTC4はある意味で完全無欠のフェラーリなのだ。

文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=フェラーリ

■フェラーリGTC4ルッソ
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4922×1980×1383mm
ホイールベース 2990mm
トレッド(前/後) 1674/1668mm
車両重量 1920kg(1790)
エンジン形式 V型12気筒DOHC48V直噴
排気量 6262cc
最高出力 690ps/8000rpm
最大トルク 71.1kgm/5750rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル
サスペンション(後) マルチリンク+コイル
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 245/35ZR20 95Y/295/30ZR20 105Y
車両本体価格(税込み) 3470万円

(ENGINE2016年9月号)

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